第193話 混迷の戦場
「――――おね……がいッ!! ……目を、醒まして、セリーナ――――!!」
「――ぐうううううッ――――!!」
――大槍を振り回し、さらにはサイボーグ化された身体から銃弾やドリル、アンカーなどの兵器も飛び出しながら……洗脳されたセリーナはエリーに喰らい付くような体制で執拗に猛攻を続けて来る。
その姿。その顔つきは、まるで戦闘狂に堕していた頃、最初にエリーと出会った頃のセリーナ…………否。それすら上回る激しい闘争心で猛り狂っている。
限界を遙かに超えて繰り出して来る
――だが、それでもリミッター開放したエリーの力はやはり他のあらゆる戦士の力を軽々と上回り過ぎている。何度セリーナから手痛い攻撃を受けても一瞬で傷は超再生で治癒してしまう。
「――お願い……だからっ…………止まって、セリーナッ!! あたしが誰だか解らないの!?」
「――オアアアアアアッ!!」
――エリーが必死に呼びかけようにも、セリーナからはただただ猛り狂った雄叫びしか返ってこない――――
「――――死ねええエエいッ!!」
――一方ルハイグもまた理性の大半をかなぐり捨てているのでは、と思えるほどの咆哮と共に、複雑に機械化した片腕を突き出して突進してくる。突進は脚での走力だけでなく、ブースターなども働かせている――
「テイテツ、退がれッ!! 奴はおめえが狙いだッ!!」
「――了解。いつもの通り援護に徹します。」
――テイテツに妄執を燃やすルハイグ。洗脳などが無くともそれこそ強者への劣等感から凶行に走る者には、やはり憎悪を募らせている対象ばかりが視野を占めるのだろうか。
すぐにそれを悟ったガイはテイテツを後衛に下げ、前に出てルハイグの突進を受けた――――
「――――ちいいいいィィィッ!! 冒険者風情が…………邪魔をするなァ!! ヒッズ=アルムンドを殺すのは俺だああああ!!」
「――ぐッ…………!!」
ガイが二刀で受けて踏ん張る。
だが、ルハイグは一体何重もの強化措置をその身に施してしまったのだろうか。
本来とても科学者には不向きなはずの白兵戦での戦闘。肉体訓練をしないはずのルハイグは、科学者とは思えない剛力で以て、ガイを押し退けようとする。
「――隙だらけッス、よっ!! おおりゃあああああーーーッ!!」
――ガイがルハイグを止めている瞬間。死角から飛び上がり練気で発生させた電磁圧を込めたハンマーで、ルハイグの後頭部を強烈に打ち付ける!! ――――手応えあり。
「――ぐぎぎぃッ!! ――小娘が邪魔をするかああアアアッ!!」
「――おわっ!? ――いったあああああッ!!」
イロハの強烈な電磁圧の打撃でダメージを与えたが、ルハイグは怯むどころか猛然と空中のイロハの脚を掴み、地に叩き付けた!! 地がめり込むほどの痛みに叫ぶイロハ。
(――落ち着け。一旦距離を取って……練気と精神を集中するんだ――――!!)
ガイは必殺の太刀を見舞う為に、一旦バックステップで距離を取り、練気を集中させる。
「――発射。」
ガイが飛び退くと同時に、すかさずテイテツは後方から
「――ふんッ!!」
熱線がルハイグを焦がすかと思われた刹那――――ルハイグは何やら幾何学模様を描く力場を発生させた。熱線が通らず、後方へ散っていく――――バリアだ。
「――くふふふふふ!! 逃がさん…………!!」
「…………」
熱線を弾きながら、一歩、また一歩とルハイグはにじり寄ってくる…………。
「――喰らえェイ!! 背部ミサイル展開!!」
ルハイグが、背中に格納してある小型のミサイルを撃ち出そうとする。
その瞬間――――
「――何!? ぐわあああっ…………!!」
――突如、ルハイグの後方から強烈なソバットを見舞った者がいた――――ミサイルは発射されず、そのまま爆発してルハイグの鋼体にダメージを与える。
「――今だ。自在活殺剣――――!!」
――過たず、その隙にガイの奥義が決まった――――ルハイグの鋼鉄の身体が、真っ二つに切れて落ちる。
「――おめえ……一体どういうつもりだ…………!? てめえも洗脳でもされてんのかよ!?」
――ガイが驚嘆するのももっともだ。テイテツとガイに加勢した者は、若草色に染めた頭髪が特徴的な戦士。即ちライネス=ドラグノンであった――――
「――洗脳なんかじゃあねえよ。俺が何をしたいのか……俺自身にもよくわかんねえ。だが――――こいつは改造兵を生み出し続ける野郎だ。俺らみてえな哀れな人間をな…………。」
――戦場にて狂騒がさんざめく中、ライネスは悲しそうに呟き、ルハイグを見下ろした――――
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