第189話 バリア・バースト
――――迸るほどに高まる熱。根源から燃え盛る炎。漲る血と力。
たった今まで、10年間。およそ人生の半分に値するほどの間、一時も外したことなど無かった、金色の『鬼』の力を抑えるリミッター。
そんな金属に触れ続けていた箇所の皮膚など、とうに爛れて腐っていそうなものだが、『鬼』由来の
そしてエリーの目が金色混じりの極光を放ち、全身を覆う赤黒いオーラは、ただただ熱と光を持って強烈に肥大化している。
「――撃てェ!! 撃ちまくれーッ!!」
強烈な圧を感じるガラテア軍は一斉にエリーに集中砲火を浴びせた。
――――だが、全く効かない。
エリーから放たれる圧と熱は、小さな銃弾や刃物はもちろん、常人ならば一射で粉微塵になるような砲撃を受けてもびくともしない。ほとんどの攻撃はエリーに直接触れることなく、赤黒いオーラに触れた時点で消滅してしまう。
――エリーは一歩……そしてまた一歩と、出力を高めながら戦場のド真ん中を突き進んでいく…………。
「あれは…………エリー=アナジストンめ。どうやら全力を出してきたようだな…………。」
宮殿型戦艦で司令を務めながらヴォルフガングは、自国の研究の忘れ形見のようなエリーの強大な力に戦慄を覚えた。あるいは、『今こそ報いを受ける時か』、とすら思ったかもしれない。
「――なっ、なななぁはっはっはぁ……なんっじゃあ、あれはぁぁぁぁ!?」
後方の玉座から眺めていた皇帝も、目の前の人の姿をした赤黒いオーラを放つ『化け物』相手に、露骨に狼狽し、錯乱した。
「――お静かに。彼奴の放つエネルギーなど、高々1億kw程度。我が戦艦の主砲を最大出力で撃った際のエネルギーは100億kw以上。物の数ではございません。各員、怯むな! 焦らずに主砲発射の準備始め!」
恐怖や戦慄に震える部下たちに、ヴォルフガングは冷静に命じた。宮殿型戦艦の主砲が幾つもの工程を経て稼働する…………。
――一方のエリーは、どんどんと身に纏う熱と光のオーラ…………もはや強烈な火炎そのものに等しいそれを肥大化させていく。
その強大なオーラは、一見触れている全ての攻撃を消滅して無効化しているように見えるが…………実はあらゆる衝撃やダメージを『蓄積』していた。
そう。
これは防御行動ではなく、強烈な攻撃の為の予備動作に過ぎない。ある意味遠方の宮殿型戦艦の主砲の発射準備と変わらないのだ――――
「――あれは…………ガイ。友軍をもっと後方へ退避させるべきです――――無論、我々も。」
「……そうみてえだな…………退がれっ! みんな、もっと後ろへ退がれッ!! 速くッ!!」
――ガイが必死に叫び、一旦後退することを促し、全力で走る。
「――ええい!! 一体何なのだ、あの化け物は!? 何故攻撃が効かん!? 何故死なないッ!? 撃て、とにかく撃つんだッ!!」
――足取りだけは一歩一歩、静かに前進してくるエリー。しかし強力な砲撃をものともせず肥大化していくエリーのオーラに、誰もが戦慄することを禁じ得なかった。ガラテア将官も半ば恐慌状態で怒号を発するのみ――――
「――ヴォルフガング中将! 発射準備完了ですッ!!」
「――――撃て。」
宮殿型戦艦の主砲に、とてつもなく高エネルギーが集中する。その実100億kw。戦略兵器であるその巨砲は本来ただの1人の敵に撃つにはもったいないにもほどがある威力だが…………。
主砲が放たれる直前――――エリーが纏う炎熱を伴ったオーラの圧は臨界へと達した――――
「――――何兆倍にもして返してやるわ。あたしが受け続けた痛みをね――――
――エリーのオーラが一瞬、エリーが身を縮めると同時に収縮し――――また全身を開くと同時に、一気に炎熱のオーラは破壊の波動となって全方位に放たれた!!
「――うっうわッ――――」
「――――何が……起き――――」
――その破壊の力を喰らった者は、断末魔の悲鳴ひとつ上げる暇すらなく、まさに灰燼。塵ひとつ残らず、消し飛んでしまった。エリーの足元を中心に、巨大なクレーターが形成された――
「――むっ……エネルギー……700億kw――――いや900億――――」
ヴォルフガングが遠くに見えるエリーのエネルギーが何百倍にもなっているのを確認したのち、主砲からの巨大なレーザーがエリーに当たるのを見た。
「――ふんッ!! ぐぐぐぐぐううう――――!!」
――一気に強大な力を開放したエリー。高めたままの力で、撃たれた巨大なレーザーを受け止める。想像を絶する力のぶつかり合い――――
「――ぐうううううッ…………でやああああああアアアアアアーーーッッ!!」
エリーは、なおも力を高め……受け止めたレーザーを弾き、遠方へ吹き飛ばした!!
――弾き返した先は、創世樹のすぐ近く。創世樹に接岸しようとする戦艦を掠めたのだった。
「――ちいっ! 君の義理のお姉さんはどんな姑より出鱈目だね。この
「エリーお姉ちゃん…………!!」
――戦艦はレーザーを掠めただけで撃墜は免れなかった。平生すました顔でいるアルスリアですら些か焦燥し、グロウを抱えて飛び降りた――――
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