第182話 『苗床』にて
――――エリーたちはそのまま、酋長の後をついて集落のさらに奥へと進んでいった。少し開けた空間の地面に、何やらうっすらと光を放つ魔法陣が見える。
「――これからこの魔法陣を辿って、聖地まで向かいます。皆様、はぐれないようにご注意を……」
そう告げたのち、酋長が魔法陣に乗ると――――
「――消えた!?」
「これは遠隔地へ瞬時に移動する転移装置のようです。ガラテアでも実用段階には程遠い技術が、まさか始祖民族に当たり前のように在るとは…………。」
――光と共に瞬時に消えた酋長にグロウが驚き、すぐにテイテツが仕組みを看破する。エリーは動じず前進する。
「――今更こんなことで驚いてられないっしょ。行くよ、みんな。」
エリーが先行し、グロウたちも後に続くように魔法陣の上に乗る。
――魔法陣に乗った瞬間、ぼっ、っと強い風圧を感じ、視界が一瞬真っ暗になったが……気が付けば何やら一行は高い岩山のような場所に立っていた。風や靄の湿気も感じる。
「――おお……本当に一瞬だぜ。瞬きする間もなく遠くに転移されちまったな。テイテツ、ここどの辺だ?」
「お待ちを……先ほどまでいた洞窟から数百㎞は離れた岩山ですね。霧のようなものが立ち込めていますが、あの幻霧大陸全体を覆っていた目くらましの霧ではなく、本当に自然の霧です。」
「――はぐれずついて来れておられますかな。このように何度か魔法陣を辿って……聖地『苗床』へと向かいます。距離こそ遠いですが、なに、すぐですよ。」
少し前方に、先に転移した酋長が立っている…………一行は始祖民族たちの超技術を目の当たりにし、感嘆の念を禁じ得ないが、怯まず酋長の後に続き、次の魔法陣へと乗った。
――――そうして、幾つかの転移する魔法陣を経由して、この幻霧大陸を飛び回った。
この幻霧大陸が実際どれほどの面積がある大陸なのかも、テイテツの端末を以てしてもはっきりとはしないが、大陸の端々へと百里の路も何度となく飛び越えて、目的の聖地へと向かう。
ものの10分ほどそうして移動しただろうか。一行は雰囲気が異なる場所へ飛ばされた。集落の洞窟とよく似た質感の穴倉にいるようだが――――
「――さあ、着きました。このまま前進すれば、すぐ目の前に『苗床』はございます。」
――洞窟の前方を見ると、何やら光が射している。グロウは逸る気持ちを抑えきれず、酋長のすぐ後について前へと小走りで進んだ。
「――――これが…………『苗床』――――?」
――グロウの眼前には、藁のような植物で区切られた土に、天から日光が射しこんでいて、周囲は水で満たされていた。土がうず高く盛られた辺りには、何やら祭壇のような物が設けられている。
「…………? これが、『苗床』……? いやしかしこの反応は…………。」
「どうしたテイテツ? 何か異常でも見付かったのか?」
テイテツが端末のキーを弾きながら訝り、セリーナが声を掛ける。一行もテイテツを見遣って気にしていたが……。
「……いえ……現時点では不確定要素が多過ぎます。ここは始祖民族の地であると同時に現代人類未踏の地……何か変わった仕組みの物体があっても、我々現代人の常識で判断できるものではないはずです。」
「――何だよ。いつも以上に歯切れが悪ぃな、テイテツ。何か気になることがあんなら素直に言えばいいじゃあねえか。何があった?」
「……むう。あの『苗床』は……一見、創世樹のキーポイントらしく植物に見えますが……材質はまるで未知の鉱物のような物で出来ている。なのに、植物の特徴を色濃く持っている。そんな物体などこの世に類は――――そうだ、あの石板。」
――テイテツは心なしか慌てて、鞄の中をまさぐった。
「――――!! 貴方は……何故、それを…………何故、そんなものを外から来た者が持っている――――!?」
――突然、酋長は目を見開き、驚嘆に声を荒らげてテイテツのもとへ駆け寄った。
テイテツが取り出したものは――――ナルスの街近くのグロウと出逢った遺跡から発掘した、あの謎の文字が刻まれた石板。見るなり、酋長は血相を変えて石板を手に取る。
「酋長さん!?」
「――あの『苗床』からは、この石板と共通した鉱物の反応が見られます。タイラーと研究しても解読出来なかったこの石板の文字…………やはり、酋長。貴方なら理解出来るのですね。一体、何と書いてあるのですか?」
――酋長は、必死に手の震えを抑え、呼吸を落ち着けたのち、語り出した。
「――――これは……我らが父祖が書き留めた文字。間違いありません……そうか……男神様の御傍にあったのか…………。」
大きく深呼吸したのち、続ける。
「――石板にはこうです。『養分の男と種子の女、二柱の神による創世樹の生命の
――他の石板も手に取り、震えた声で続ける。
「――――『万が一、初期化修復が困難である場合は…………二柱の神の精神を書き換え、
「――ここが『苗床』か……させないよ、ダーリン――――。」
――突如、天から嫌でも思い出してしまう声と、とてつもないプレッシャーが辺りに発生した――――。
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