第154話 立ってるものは親でも使えっス!!

「――――えっ、『ガンバ』とセリーナの空中走行盤エアリフボードも?」




 ――大会まであと3日。イロハも『黒風』のコンセプトと妙所は固まったようだ。




「――あの国主さん……ゴッシュさんは『乗り物なら何でもいい』『何人でも参加していい』って言ってたっス!! なら、挑戦者は少しでも多い方が勝つ確率も上がるってもんス!! 使える人とモノは、何でも投じるべきっス!!」




 ――熱心に『黒風』の改造を進めていたイロハを見て、てっきりイロハが単独で挑戦するものと思い込んでいたエリー。少し呆気に取られたような顔になる。




「――そうか。そういうルールだったっけな…………ようし。イロハやテイテツにばかり任せるのも忍びねエと思ってたとこだ。やっぱ俺らも戦うべきだよな!!」




 ――ちょうどそこへ、空中走行盤で飛んで宿の前まで戻って来たセリーナが着地しながら声を掛けた。





「――何を呑気なことを言っているのだか……私は初めから空中走行盤に乗って一緒に戦うつもりで、闘技場の周りを飛び回ってみたぞ。4日間、大会の催す時間帯に飛んでみたが、あそこは風などの影響を結構受ける。空中走行盤でも出場はOKだが、ある程度低空飛行でないと反則負けになるらしい。他にも、ライバルらしい挑戦者たちがテスト走行などしていたぞ。行かなくていいのか?」




 ――戦うこと、競い合うことの意識が強いセリーナ。以前は度々高揚する戦意と闘争心がゆえに割りを食ってしまうことも多かったが、今回はその意識が抜け目なく働いたようだ。





「――んにひひひひひ~。皆さん、やる気満々で嬉しくなって来るっスねえ~。テスト走行は夜中に1回限りっス。確かに何度も会場で実際に走ってみることは大事かもしれないっスけど……同時にライバルに手の内を見せてしまうことにもなるっス。人目の付かない処で何度かやる程度で充分っスよ。セリーナさん、そこは考えてたんっスか?」





「――ぐむっ……ま、まあ…………全力では飛ばなかったし……練気チャクラも見せてないから……きっと大丈夫だろう。」





「あははは……セリーナ、実力を何割かは見られちゃったかもね……」




「う、うるさい、グロウ……」





 ――用心のつもりでテスト走行ならぬテスト飛行していたセリーナだったが、却って手の内や勝つヒントをライバルに与えてしまったかもしれない。考えの至らなさに顔を赤くする。





「――まっ、それぐらいなら何とかなるっス。ウチのバイク『黒風』の方はもう設計が決まって魔改造しまくるだけなんで、少しでも『ガンバ』と空中走行盤もチューンアップさせて欲しいっス!」





「――あいよ!! 取り敢えず、ガンバに積んである荷物は全部どけておくぜ。」




「よっしゃ! グロウも手伝って~!!」





「――貴重品な上に私の愛機なんだ。チューンして多少飛ぶのに癖が出るのはいいが、くれぐれも壊すなよ。」





 エリーとガイ、グロウは普段ガンバにしこたま積んである荷物をどかして宿の預り所に運び始め、セリーナは一点モノの愛機を不安ながらもイロハへ差し出した。





「――ガンバのチューンアップなら私もやります。設計図を作りましょう。」





「にへっへっへ~っ!! もうとっくに出来てるッスよ!! はいっ、その端末へ転送をポチっと!! 図面通りにやればテイテツさんの腕前でも充分改造出来るっスよ!! 詰まったらもちろんウチが手を貸すっス!!」





「――ほう。もうこんなに詳細な設計図が描けているとは――――もしやイロハ。徹夜したのではありませんか?」





「――はうっ――――。」





 ――先ほどまで調子よく健啖を吐いていたイロハが固まった。





「――まっ、まだ大会まで時間あったし~……その~…………」





「……いいでしょう。3日前ならまだ取り返しがつく。ですが今日からは一切徹夜を禁じます。生活バランスの乱れはコンディションに直結します。徹夜しようとしたら――――皆さん、実力行使でお願いします。」





「はいよー! チョークスリーパーで落とすから!!」

「おう。みねうちで勘弁してやる。」

「『力』使って気絶させるかなー……。」

「まったく。メインの乗り手がそれでどうする……道場だったら厳罰も良いところだ。」




 ――イロハが、大会への不安と恐怖もあっただろうが……不摂生をしていた事実に、皆サラッと恐ろしい同意をする。テイテツも自らの光線銃改ブラスターガンネオのパラライズモードへツマミを合わせ、イロハを脅かす。





「――たはーっはは……皆さん容赦ないっスね…………頑張ってるんだから、お手柔らかに頼むッス――――」





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 それから約3時間。突貫工事だが、ガンバと空中走行盤のチューンアップが終わった。





「――うっわー……ゴツゴツして強そー……」





 エリーが素直にそう感想を述べた通り、ガンバは四方にさらに強固な装甲が張られ、タイヤとホイールはレーシング用のパワーとスピードを兼ね備えた物に換装された。テイテツが座する2階席は一度取り払われ、使用される燃料もガンバが耐えられる限界近くのエネルギーを秘めた物を補給された。もちろんエンジンも重厚なものになっている。





「ガンバはスピードそのものよりは、複数人乗れることを活かして頑強さを強めたっス! ウチに何かあったらガンバからサポート。バックアップ役っスね。もちろん、ウチやセリーナさんがゴール出来なかったら……頼むッスよ。」




「――うわッ!? こ、これは――――!!」





 傍でさらにチューンアップされた空中走行盤で飛んでみるセリーナだが……想像以上のパワーとスピード、そしてバランスの難しさに戸惑いながら、しばらく周囲を飛び回った。





「――くっ……これは……練気チャクラの知覚鋭敏化で――――!!」





 ただ飛ぶのとはわけが違う。そう判断したセリーナは訓練した練気も応用してみた。素早く、繊細に身体を操って姿勢制御してみる。





「――ふう……かなりの暴れ馬になったが、何とかなりそうだ――――」





「大丈夫っスかー!? セリーナさーん!!」





 上空まで飛び上がったセリーナに声を掛ける。やがて飛び方が安定し、ゆっくり降りて来た。





「――――少し慣れが必要だが、問題ない。よくやってくれた、イロハ。出来れば、レースが終わってもこのままでいたいぐらいだ。」





「――にへへへへへ~っ…………」





 ――イロハはとにかく頭と手を動かすことで大会への、確かな自信を深めていった。あとは『黒風』の魔改造だけだ――――

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