第94話 驚嘆

 ――激しい衝突音と共に、岩を強度をより硬くした鉄塊に押し潰されたエリー。元々人間に出来ないような能力を持っていたグロウだが、練気チャクラのエネルギーを開花し、高めると、これほどまでに強力な使い手になるとは――――





「――でやあああああーーーーッッ!!」






 ――しかし、咄嗟に練気の開放度を素早く高めていたエリー。押し潰されて肉塊へと変わる寸前、怪力を限界近くまで込め、鉄塊を押し退け、砕いた!!






 爆風を伴い、鉄粒が散る。ガイたちも思わず身を屈めて構える。





「――おお……エリー……とうとうそこまで『鬼』の練気を高めても安定するようになったか…………」






 カシムが感慨深く呟く。







 エリーがここ、ニルヴァ市国へ来た当初は、理性を保ったまま練気の開放度を高めるのは精々全力の70%程度が関の山だった。








 だが、カシムやヴィクターの導きで練気のエネルギーの流れを常に繊細にコントロールする修行に明け暮れたエリーは、今や修行前の180%ぐらいにまで強烈に練気を高めてもなお、平常心に、理性を保ったまま動くことが出来るようにまでなっていた。







 その力はもはや、果たしてガラテア帝国軍の大軍を以てしても挫けるかは解らないほどに、迸るほどの強さに到達していた。







 それもまだ、練気のコントロールの精度や戦い方の工夫次第では、未だ限界は見えず――――真に末恐ろしいエリーのポテンシャルに、その場にいた者は残らず、あらゆる感情を持って震えるほかなかった。







「――――シュッ!!」






 鬼神そのものの様相を呈してきたエリーがひと息呼吸する刹那――――瞬きする間もなくグロウとの距離をゼロ距離に縮めていた――――







「――そ、そこまで!! エリーのか――――」






「――いや、まだだぜ!!」






 ヴィクターが慌てて制止しようとするが、逆にガイが止める。






 全力に近いほど練気を高めたエリーは、グロウが反応も出来ない速さで急所のひとつである首筋に手刀を――――寸止めで止めていた。







 しかし――――






「――――!?」







 ――サアアアアア…………と、砂が崩れ落ちるような音と共に、グロウが光の粒を伴って地に消えた。







「――なっ……何処だ!?」






 突然、消えたグロウ。見失った一行は辺りを見回す――――






「!! そこねッ!!」






 エリーは背後から気配を感じ、すぐに身体を転じ、とてつもない脚力で地を割り砕いて駆け出した!







 ――消えた、と思ったグロウはどうやら、自分が足に接していた砂に練気を念じて、何と一時的に砂と己を一体化させ、別の砂地へと素早く移動したようだ。






 練気が生命エネルギーであり、自然物には少なからず同じ生命エネルギーが通っているとはいえ、自らを練気そのものとして砂に溶けるようにして一瞬で移動するとは――――練気の師範であるヴィクターやカシムも、この一瞬の練気のセンスを活かした応用と、その出鱈目なまでの力のコントロールには口を開けて驚愕するほかなかった――――







 ――移動した先では、今度はグロウが『弓矢』を構えていた。






 いつもの銃器に近いボウガンではない。練気を練って、碧色の光を伴った『光の弓矢』を構えていた――――






「――――ッ!!」






 今にも矢を射ろうとするグロウだが――――やはり、制御出来る全開のエリーは目にも止まらず速い。






 矢を放つ暇もなく、再び距離をゼロまで詰められ、手刀――――







「!? ――――また!?」







 ――何と、グロウは再び光の粒となって崩れるように消えた。







 今度移動した地点は、ちょうどさっきまで立っていた処。エリーの背後であった。練気の弓矢を今度は、射る――――!!






「――――ふんッ!!」






 ――瞬速で飛んできた光の矢を、エリーは辛うじて手で掴む。






 だが、しかと掴んだはずの矢は突然、ぐぐぐっ、と先端が伸びて来る――――






「――なッ……これは――――枝!?」






 ――光の矢の正体は、練気に包まれた、その辺りに落ちていた木枝だった。だが、練気で強力に強化された木枝は、もはや木枝などではなく、本物の矢を凌ぐ威力のエネルギーの針であった――――







 グロウの練気の急成長、及び活性化の力が働き――――エリーの首筋を貫いた――――!!






「――――もらった!! 細菌よ、活性化、化合――――!!」






「――うっ……ぐ……あ…………っ!!」






 ――再び、グロウの能力による自然物に含まれる細菌を活性化した熱毒が駆け巡る――――







 遂に、エリーはその場に這いつくばった――――







「――――そ、そこまでッ!! やめ、やめいッ!! これ以上は危険過ぎる!!」







 ――必死に眼前の目まぐるしい遣り取りに対応しようとしたカシム。何とか今度こそ制止の声を張り上げる。







 ――――一同、呆然。







 練気のエネルギーの多寡はあるとはいえ、非力なはずのグロウが能力を迅速に活かし、対応し…………一行で最も強いはずのエリーに土を付けるとは――――

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