遅くなってごめんね
わたしは走った。
待ち合わせは午後1時。腕時計で時間を確認すると、すでに30分も過ぎていた。
美空はいつも、時間通りに来ている。だから、きっと、今日もずっと待っていてくれているはず。
それなのに、なんで、わたしは寝坊しちゃうのかな?
とにかく、わたしは地下鉄を降りてから、待ち合わせ場所まで全力で走った。
そして、待ち合わせ場所に着いたとき、わたしは言葉を失った。
美空が、いない……?
何で?どうして?
わたしはスマホを取り出して約束をした日のLINEを確認した。確かに、今日の1時にここで待ち合わせをしている。
なら、どうして美空はいないの……?遅れる、って言ったのに……。ちゃんと謝ったのに……。
泣きそうになりながら一番下までスクロールすると、そこには既読がついていなかった。
じゃぁ、美空はわたしが遅れることを知らない……?それで、怒って帰っちゃった、とか……?
美空はそんなことをするような子じゃないって分かってるのに、そんな最悪の想像をしてしまう。
美空なら、心配して連絡くれるはず。そんなことは分かってるはずなのに……。
うん、そう。美空はそんなことしない。だったら……、もしかして、事故、とか……?
そんなの、イヤだ。美空がいなくなるなんて!
わたしはどうすることもできなくて、その場に座り込んだ。そして、立ち上がる気力もないわたしはその場から動けなくなっていた。
自分の足に顔を埋め、泣かないように必死に涙をこらえていると、遠くから足音が聞こえた。
周りに人は多い。だから、常に誰かの足音は聞こえる。けれど、その中の1つだけがわたしの耳に、心に強く響いた。
わたしは顔を上げ、その音の方を見た。
そこには、息を切らしながら必死に走ってくる美空がいた。
二人の距離は十数メートル。でも、その距離がイヤで、わたしは美空に向かって全力で走り始めた。そして、美空に思いっきり抱きついた。
「遅れてごめんね」
美空が耳元で優しく言ってくれた。
あぁ、本物の美空だ。わたしの大好きな美空。
それを実感した途端、こらえていた涙が溢れてきた。
「美空ぁ、よかったぁ。わたし、美空に嫌われちゃったのかと思った。だって、美空、いなかったし。それに、連絡もないから、いつも遅れるわたしのこと、嫌いになっちゃって、それで、帰っちゃったのかと……」
「ううん。わたしは蛍のこと、嫌いになんかなってないよ。その、慌てて家出てきたから、スマホ忘れちゃって……。だから、ごめんね」
「わたしの方こそ、ごめん、だよ。いつも、遅れてばっかりで……。美空、いつもこんな気持ちだったの……?不安で、寂しくて……」
「蛍はいつも、連絡くれるから、不安じゃ、ないよ?でも、一人きりなのは寂しい、かな。うん、だから、やっぱり、ごめんね。わたしがスマホを忘れなかったら、蛍にそんな泣くほど不安にさせなかったよね?」
美空は優しくわたしの頭をあやすように撫でてくれる。
それが嬉しくて、だから、涙が余計に止まらなくなってきた。
「美空ぁ、わたし、美空のこと、大好きだからね?だから、どこにも行かないでね?」
「うん、行かないよ。一緒にいる」
その言葉だけでわたしは救われた。それだけで十分だった。
だから、わたしはゆっくりと顔を上げた。
きっと、涙でグシャグシャで、メイクも崩れちゃってるけど、美空の顔を見たかった。
涙で滲んでいたけれど、美空は全てを包み込むような優しい笑みをしているのがはっきりと見えた。
わたしの大好きな美空。これからもずっと、一緒にいようね。
そんな想いを込めて、わたしは美空の唇へとゆっくりと近付いていった。
初めて触れたそこは柔らかくて、少ししょっぱかった。
けれども、とても、幸せを感じた。
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