秘密の告白(再録)
放課後の空き教室に二人の少女がいた。
あらゆる意味で対照的な二人。
片方は背は低く、童顔であり、私服であれば中学生と勘違いされそうな少女、涼。勉強も赤点ギリギリで、スポーツ全般もできない。
対するのは、身長も平均より高く、顔つきもすでに大人のそれになっている。私服であれば大学にいても違和感はないであろう少女、麻梨。涼とは反対で、成績は常に学年トップ。運動部のエースでもあり、この高校の生徒会長でもある。
そんな二人が偶然か、はたまた必然だったのか、親しくなった。
しかし、二人にはほとんど誰にも言ったことのない秘密を抱えていた。
「麻梨ちゃんは何でもできて羨ましいよ……」
「そんなこと、ないよ?」
そう答える麻梨の表情はわずかに、暗くなっていた。涼はその微妙な変化に気付き、疑問に思った。
その疑問に答えるように麻梨は自らの胸の内を語り始めた。
「部活だってたまたまあの試合は調子よかっただけ。なのに、それをわたしの実力だつてみんなが思って……。勉強だって、必死に頑張って、今の成績をなんとかキープしてるんだよ?でも、わたしが頑張れば頑張るほど、期待が大きくなって、わたしもそれに応えようとして……。実はもう限界なんだ。だから、涼ちゃんがいてくれてよかった、かな。どうしてだか、涼ちゃんの前でだけでは素の自分でいられたから。本当、何でだろ。こんなこと誰にも言ったことなかったのにな」
それを聞いた涼は自分の秘密も告白しようと思った。しかし、なかなか言葉にできないでいた。
「あ、あの、ボ、ボクは……」
思い切って口を開くが、涼はそれ以上何も言えないでいた。
「どうしたの?」
「実はボクは……その……」
言い淀む涼を見て麻梨は理解した。自分が秘密を打ち明けたばかりに涼も何かを打ち明けようとしていることに。そして、それは涼にとって相当の勇気がいるであろうことに。
「大丈夫。涼ちゃん、わたしは好きで言ったんだから、無理しなくてもいいよ」
そんな涼を気遣って麻梨は言うが、涼にとってはそれは逆効果になった。
「ま、麻梨ちゃぁん!!」
今まで我慢していた感情が溢れたのか、涼は麻梨の名を呼び、泣き始めた。
麻梨はそっと涼を抱き寄せると、優しく、子供をあやすように背中を撫でながら言った。
「ごめんね。わたしがあんなこと言ったばっかりに涼ちゃんに無理させちゃって。さっきのはわたしのわがままだから、涼ちゃんは気にしないで、ね?」
涼は麻梨の背中に手を回し、きつく抱き締め、声を上げ泣き続けた。その間、麻梨は何も言わず、背中を優しく撫でるだけだった。
涼の打ち明けたい秘密とは、自分がいわゆる同性愛者であり、今好きなのが、麻梨であると言うこと。しかし、その麻梨自身による優しさにより、その事を打ち明け、嫌われることをひどく忌避していた。それ故、彼女は言えずにいた。
どれだけそうしていたのか、教室のスピーカーから最終下校を知らせるチャイムが鳴った。
「…………好きです」
その音に紛れるように、涼は小さな声で呟いた。麻梨にその声が届いていたかは分からないが、そっと、身体を離した。
「大丈夫?」
「うん。ごめん、なさい」
「涼ちゃんが無理せずに話せると思ったときにまた聞かせてね?わたしも、ちゃんと聞いてあげるから。わたしの気持ちもきっと……」
最後の方は小さく、呟くように言ったが、涼ははっきりとその言葉を聞いた。そして、その言葉の意味する想像して、しかし、信じられなくて、顔を上げた。
そこには、いつも以上に眩しい笑顔の麻梨がいた。
その笑顔を見て、涼は改めて思った。
ボク、麻梨ちゃんのこと、大好きだ。
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