【短編小説】 逝くヒトと見るヒト

@chipi0816s

本文

死にたい。

そう思うようになって何年経つんだろうか。

そう言って休日は物思いに耽っている。目の前にあるのはパソコン。そのモニターの前に映っているのは全画面に渡って掲示板が映されている。別に読んでいるわけでもないし、書き込んで投稿しているわけでも無い。ただ映してぼーっと座ったまま一日の大半が終わってしまう。

テレビなんて見ない。テレビとかの一方的な好みの押し付けは大っ嫌いだし、見ていてすごい不快な気分になってくる。だからこの部屋にはテレビなんておいてない。部屋にあるのはベットと申し訳程度の机。それだけしか無い。棚も何にも無い部屋。中々狭い部屋だが何もおいていないおかげで広く感じれる事が出来る。でも広かろうが狭かろうが結局自分にとってはどうでもいいこと。そんなことを思う日々だ。

昼の2時ぐらいだろうか。一回立ってベットのそばにある窓からお日様を見た。今日は天気予報では雨と言われてたはずだが微妙に晴れてる。そうしてまた机に戻ろうとすると突然。ピンポーンと家のインターホンが鳴った。父はもうこの世には居ないし、母は仕事でこんな早く帰ってくるわけない。一体誰なんだろうかそう思いながら玄関へと足を動かす。玄関へと近づくにつれドアからドンドンドンと叩く音が聞こえる。なんか面倒な相手だと嫌だなと思い一旦離れようとしたが何か物凄い…。何だろうか、言葉には言いにくいつながりを感じてそのままドアへと近づいて鍵を開けた。するとあちらもドアを叩くのをやめてきたので自分はそっとドアを開けた。目の前に立っていたのは女性。年は私と同じくらいだろうか。赤と黒のショートスカートにシャツの上からセーターを着た制服。リボンは赤色だ。顔は何故か所々黒く汚れており、ついでに足や腕の肌の部分を見ると同じく汚れている。ところによっては血も出ているし、ナイフで切った跡や擦り傷みたいなところもある。なんでここまでボロボロになって自分の家まで来たのか?実際こんな人今まで見たこと無い人だ。そんな感じでこっちも考えんだけ考えてお互い何もしゃべらないような空間が数秒間続いた。そして最初にしゃべり始めたのは彼女だった。

「あなた自殺したい?」

そう言われた。自分は

「むしろ生き続けたいなんて思ったこと無い。」

と答えた。間違ってはない。自分も心はボロボロで、ただただ廃人でも何でもいいから今まで生きてきた。それだけの話。生き続けたいなんて思ったこともない。

「良かった」

彼女はこっちの答えを聞いてその言葉を待っていたかのようにあんとしていた。しかしそこから顔は無表情から真面目顔に変わって深呼吸をした。何かあるなと思った自分はただただ彼女の顔を真面目に見ていた。この一言は絶対大きい物だろうと覚悟して…

「私と一緒に死んでくれませんか。」


   逝くヒト  と  見るヒト


彼女の言葉を聞いて反論は出来なかった。普通の人ならここで「死ぬんじゃない」とか「生きていれば絶対良いことあるはずだで頑張って生きなさい。」というかもしれない。でも自分にそんなことは言う資格はないと思う。さっきも言った通り、自分は生きたいと思ったことは一度も無い。仮にも自殺を何度も経験した過去を持っている。

 自分が始めて本格的に死にたいと思ったのは小学生の時だった。別にいじめを受けていたわけでは無い。ただ人間として生まれて10年間程度経ったが、自分には人間として生きるのは向いていないと思うようになった。この時親にその相談をしてみると「生きていけばあんたの好きに思えるような世界はきっとある」と慰めてくれた。でも全く嬉しくなかった。好きとか自分に合うとかじゃない。この人間が中心とした世界が自分に取っては嫌なものだった。早く魂ごと消えてしまいたい。ずっとそう思ってた。だから自殺をやろうと思うようになった。自分の家は街でも一、二位を争えるくらいの高層マンションだった。決して大都市にあるでっかい建物と比べるとどうしても負けてしまうが十分に落ちれば死ねるぐらいの高さはあった。そして秋のとある日の夕方、そこから飛び降り自殺した。が、しかし目を開けた時見えたのは病院のベットの上から見える天井だった。どうやら落ちた先が簡単な庭園があって地面も柔らかく、頭を強く打ち体の骨もボロボロになって、しばらく重症で目が覚めることがなかったのだが奇跡的に生き還ることが出来てしまった。生還してしまったのは誤算だった。しかしまた自殺すれば良い。そう思っていたのだが親や周りの反応は今思えば当たり前と思うところだが、当時の自分からしたらしつこいくらいのものだった。

目が覚めたと言う報告を始めに聞いてすぐにやってきたのは母だった。部屋にはいるなりいきなり泣いて抱きついてきて

「ねぇ。もう死なないって言って!お願いだから」

と言ってきた。しかし自分は表情を真顔から変えなかった。それが今の気持ちであり母からの言葉での答えという意図があった。母がその後言ったのは僕が重症で眠っている間、父と教育の意見の食い違いで最終的に離婚したという話だった。まぁ、無理は無い。僕は死にたいとずっと思っており父にも母にも心苦しい思いをしてたのは確かだ。だが自分の考えが変わることはなかった。そして数日後にやってきたのは学校の担任の先生と校長先生だった。2人して何を目的に来たのか。話し始めるまで気づかなかったか話が始まってみれば単純で尚且つふざけた話だった。

「誰かからいじめを受けていたの?」

2人してそんな話をして来た。まず人付き合いは好きじゃない。人付き合いも知ってこなかったからもちろんいじめの対象にもなったこともなかった。しかし先生たちは「いじめ」という言葉にこだわりたいのかしつこくいじめ関連の話を続けてきた。学校側も本来の彼は人付き合いもないしいじめられるわけがないと思っているはずなのに、いじめという話にしたほうが教育委員会に報告するときに話が早くなるから自分に自殺があったことを認めさせようと押し付けてきた。しかし最終的には母が止めてくれていじめは無かったことになってくれた。しかし学校に戻っても今までと変わること無く、むしろ迷惑掛ける前に早く死にたいと思うようになった。中学校のときはカッターナイフで何度も腕も切りつけた。最終的に腹に思いっきり差し込んで内蔵をぐちゃぐちゃに切っていった。もちろん大量出血で意識を失い、救急車で病院に運ばれていった。流石に今回こそは安心して死ねると思っていた。しかし医者たちの動きは早かった。何十時間という大手術をして見事生きかえされてしまった。心底死にたいと思っている自分は「若いからまだ生きていればなんかある」という突如とした大人たちのギャンブル思考縛らされて、自由に死というものを選択できないでいる日々だった。

 だから彼女に一緒に死にたいと言われた時になんと返そうか迷ってしまった。考えてみれば今まで人の人生なんて考えたこともなかった。そうしてるうちに彼女は一言

「お願いです。私一人だけだと死にたくても死ねないんです。」

そう言ってきた。何か続けて話を私的そうだから自分は家の中のリビングに連れて行ってやった。リビングはそうたいして広いわけでもない。普通のマンションのリビングの広さと言ったら理解できるだろうか。リビングにあるのはテーブルとテレビだけ。決して自分がこの部屋の整理をしたわけではないんだが、やっぱりここは親と血がつながってるというのもあるのか、知らず知らずのうちにシンプルで無駄なものは置かないってスタイルが親から子へ引き継がれている証拠などというのか…。この部屋は今こそは母しか使ってないが、昔は父も一緒に3人で仲良くやっていた。そんなこともあってかここの部屋にいると昔を思い出してなかなか落ち着けないんだが今回は特別だ。彼女はリビングにつくと静かに壁に体操座りで座った。自分は彼女から少し距離も置いて座って高切り出した。

「なんで死にたいなんて思ったんだ?」

死ぬことに関して否定したわけではない。何事も理由があってこそだ。理由もなく死にたいなんて流石に納得出来ない話だと自分は思っている。だから理由を聞いてみたかった。

「私は…。」

彼女は少し何から話すのか迷ったような素振りを見せ、しばらく経ったあと語り始めた。

「私の親は私が幼かった頃に自殺してしまった。本当は親子3人で一緒に死ぬはずだった…。でも私は傷が一番浅くて生き返ってしまった。長い間眠ったままでいたらしいけど、誰も面会に来てくれる人は居なかったみたい。わたしの家系は寂しいものだったからね。来なくて当然なはずなんだけどね…」

彼女は涙をうるうると出し始めてきた。思わず心配して大丈夫かと聞きたくなったが、彼女はまた自分から話し始めた。

「私の親権は近くの親戚の夫婦に引き継がれた。その夫婦はここらの地域の中でもかなりの金持ち夫婦らしいのだが、私が来て歓迎してくれたのは数日だけだった。その後の生活は…。虐待の日々だった。

毎日ろくな面倒を見てくれず、母のタバコと父の酒とドラッグの匂いが私も住む家だった。

食事は最低限の量しかない。その横で食べてる豪華な料理をただただ憧れるように見つめて、残り物を生ゴミ入れからだして必死に食べている日々が続いた。ギリギリな中今まで生きてきた。そんな生活をしていたら嫌でも死にたいと思ったことはあった、でも周りの大人達は『生きていれば必ずいいことがあるから今は頑張ろうよ』とだけ言って、自殺することを拒み、児童相談所の人が親から引き離させようかなんて言うようになった。でも私はその頃から1人で生きたいと思うようになった。理由は『人間は1人では生きていけない。人の助けがあって初めて生きていける』と言う言葉があったりするのを聞いて、そんな過酷なことをして生きていくものかと思っていったら早く死んで一人別の形として生まれ変わり、孤独の中自由にやっていきたいと思うようになった。そしてこれ以上人間としてありたくないと強く思うようになった。

そうして児童相談所の人が家から私をひきずり出しに来た日、私はスキを突いて一目散に彼らから走って逃げ出した。その時は日も沈む直前くらいのギリギリ夕方と言える時間帯だった。逃げ出したあとすぐ日は落ちて当たりは真っ暗になってしまい。役員の人も最終的には警察を呼んで捜索したみたい。逃げている最中、街のそこらにある同報無線を通じて聞こえてきた。とりあえずそれを聞いて何十kmを一夜徹して走り続けた。途中隠れるために森のなかに入って身を潜めることもあった。夜の森は大変だった。なんていっても理解してもらえないと思うけど今のこの体のボロボロ工合で察して欲しい。

それに少しでも道路や光の当たるところに出てしまうと、当たり前だがすぐに警察に見つかるくらいあちらの出動人数は多かった。考えてみれば、真夜中に女の子一人なのは流石に危険というのは警察でも分かっていたようだ。

でもやっぱりこれ以上人間として生きていくのは嫌だったのが変わる事はなかった

私は人間という生命体から外れて魂だけの状態でもいいから死の世界を渡って見たい。旅をしてみたい。」


彼女の話が終わって一気に部屋が再びいつもの静けさに帰った。決して彼女の声が大きかったわけではないが、かなり必死になって死にたいことをことを望んでいるところを見ると不思議と自分は共感してしまう。

「分かったそれで十分だ」

自分はそれでだけ言って包丁でも何他取りに行くことにした。キッチンにいけば一応包丁の1本ぐらいあるものだが、親が勝手に自殺されると困ると思われたのか金庫の中に包丁が入っていた。なので本来簡単には包丁なんて手に入らない。しかし10年以上金庫のKey番号を変えていないとなると話は別だ。流石に遠目から適当に見ているだけでも分かってしまう。それでも今まで開けてこなかったのは自分も流石に開けるというここにわずかながらの罪悪感があったということになるのだろうか…?そんな事も考えながらキッチンにある金庫の鍵を難なく開けて中から包丁を取り出した。

再び彼女のところに戻ると彼女は先程と変わらず黙って座ってた。彼女の近くにそっと包丁を置いたら彼女はちらっとこちらも見てきた。見たというよりかは軽く首を動かした程度だが、目の前にある包丁を見て自殺する覚悟が完璧に済んだのかもしれない。

気になってたことが一つあったので最後に聞いてみた。

「なんでここまで来て誰かと一緒に死のうと思ったの?」

この質問は最後まで聞かないつもりだったのだが、つい興味で聞いてしまった。彼女がどんな返事をしてくるかと思いきや

「あなたと一緒に死ぬ理由は、安全に死にたいため。外で自殺なんてしたらすぐ見つかって目立ってしまうだけだし、死ぬときぐらいゆったりと自分の思い通りな形で死にたい。特別誰かと決めてはなかったが、死の世界で自由になれるまで一緒にいる人が欲しい。それが理由。」

という、なんとも答えともいいにくい回答をしてくれた。ここはあえて深読みはせず、受け流すことを考えることにした。

そうして彼女が自殺する瞬間が近づいてきた。一応彼女自身が自分から言ったわけではなく何となく彼女の呼吸からいささか決心がついたかのような落ち着きのある呼吸に変わったから勝手にそう言ってるだけだが…。そんなんこと思ってると彼女は突然

「やっぱり首吊りで自殺したい。」

と言ってきた。首吊りのほうが確実に死ねるのは確かだが如何せん縄などはこの家にはない。そう思ったがそういえば学校の制服のベルトがあったことを思い出してベルトを用意した。ちょうど親のベルトも部屋におちていたのでこれで2つそろった。この2本のベルトをカーテンレールにつけてた。そして試しにベルトに手をかけて体重をかけたがなかなか頑丈なものでビクリともしなかった。そうして首吊り自殺する準備が整った。

準備が整うとこちらが何も言わないうちに彼女は立ち上がったそしてベルトに近づいて立ち止まった。

「わたしは大丈夫。いつでも行ける…」

その言葉を聞いて自分は彼女に少し待ってほしいと伝えた。今まで散々早く死にたいなんて言っといてあれだが親へ今までの感謝とこれからやる自分の行為について謝らないといけないと思った。ということで自分は自分の机に向かって座った。そして引き出しから神とペンを出してスラスラと書き出した。本当なら「今までありがとう。そしてごめんなさい。」と簡潔に書くつもりだったのに、気がついたら10分以上文字は数百字に及んでやっと書き終わった。

「待たせてすまない」と言って彼女のもとに帰ってきた。これで自分も決心がついた。いつでも死ぬ覚悟ができている。そんな気分だったが隣りにいる彼女の姿を見ると軽く泣いていたのだ。かなり驚いた。さっきまであんなに決心固かったのにまるでころっと人が変わったかのように泣いていたのだ。

「ねぇ。人間ってなんだろうね。」

と突然訴えてきた。多分これが彼女が泣き出した理由なのだろう。なにか自分が時間を開けていた間に考え出してしまったのだろうか?しかしいきなりそんなこと聞かれても今の自分にそのような質問に答えを出す自信がない。だからほとんど即興で喋ることにした。

「僕に聞いてもしょうがない。残念ながら僕みたいな人が人のことについてつべこべ言える資格なんてないと思う。別解を聞きたいなら生きて他の人達に聞くべきだ」

「はは…だよね。わかってる。なんかごめん…」

「でも少し言うなら、人それぞれってことだろ。明るいことを言う人もいれば、自分たちみたいに暗いことばかり言うしともいるそれが人間ってものだし…」

まともな会話はこれが最後だ。

「せーの」

ふたりで一緒にベルトに首をかけて釣られた先のことはあまり覚えていない。

気がついたときには彼女と一緒に死後の世界を回っていた…


最後に今思い出せるあの時の遺書の一部をここに記します。

「自分には今まで夢ややりたいことは全く無く、ただ生きているだけの人生でした。

しかし彼女と会い、彼女の意志や死の後の世界に踏み込んだ時に何をしていくのかを考えた時、自分も見に行ってみたいと思ったし、

支えて生きたいと思った。これからやっていきたい目標が出来た。

こんな思いをしたのは生まれて初めてのことだった。

自殺する理由がこんなふざけた理由でごめんなさい。ただ今思えばこの世で生きているのも悪くなかったと感じている自分が何処かにいるのは確かです」

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