10月29日 流動

 僕は人に流されやすい性格なのかもしれない。


 それは、自分が優柔不断である証拠でこそあるが、ある意味ではその性格を逆手に取っていると言ってもいい。


 ある男の話である。

 男はひどく臆病だった。彼が20歳を超えるまで、1人で飲食店に入ることすらできないほどであった。

 自動販売機なら大丈夫だろうと思った。あれはボタンを押すだけだから。

 しかし、後ろに人が立ってしまえば、ベリーイージーモードだった戦略系自動販売機攻略ゲームも、急激に難易度があがってしまう。


 こんなところでジュースを買うなんてダサいのでは。

 ジュースを選ぶ間に後ろの人が遅いと怒り出さないだろうか。

 自分が押したボタンを見て、あ、それは先に俺が押そうと思っていたのに! と、声を荒らげるかもしれない。


 という心配が生まれるのだ。


 友人と食事に行っても、男は店員すら呼べないほどシャイだった。

 ただ、それは傍から見た者の見解であった。


 店員を呼んでも、来てくれなかったらあまりの恥ずかしさに赤面してしまい、泥酔していると思われタクシーを呼ばれたらどうしよう。

 あ、あの人あんなに体が大きくて、きっと腹ペコなのねと笑われたらどうしよう。


 そう思うと、注文すらできなかったのである。


 もちろん、今はそんなことはない。



 気がつくと、なんでも注文できるようになっていた。

 追加の注文もお手の物だ。

 自販機など、一番上の段の端から端からまで買うことさえできる。


 スーツだってそうだ。

 店員が寄ってきてあれやこれや隣から言われたとしても、自分の好みのものを買うことだってできる。


 しかし、それにはカラクリがあった。


 基本はオススメを勧められるがままに、選ぶ。あとは魔法の言葉、お似合いですよ! が来れば即購入だった。

 その言葉さえあれば、男は自由に物を買えた。


 車も、かっこいいですよね! の一言で決めた。


 みんなが彼の背中を押してくれる。

 世の中は優しかった。

 これからも、男は背中を押され続けるだろう。



 そして、先日男は、近況ノートに書いていた言い訳日記を褒められ、作品にしてはと勧められた。


 もちろん、男の答えは決まっていた。


 近況ノートに上げたものを転載することによって、楽ができるではないか!



 今日も執筆は進まなかった。

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