第1章
第4話「開業、その前に」
「ところで、りょーちゃん」
「ん……?」
由希子の言葉に顔を上げる。基本的に、二人の間柄は活発な由希子が冷静な涼を引っ張っていく形だ。
「りょーちゃんって、ここに来る前何してたの?」
かつて孤児院に居た頃の会話。孤児院に拾われてから、二人一緒に暮らしてきたが、過去を積極的に話すことはここまでなかった。
出会いが出会いだったから、当たり前のものだったが。
「……もう話さなかった?」
「その前! ずっとストリートチルドレンやってたわけじゃないでしょ?」
由希子が気になったのは、出会う以前。広瀬涼という人間の出自。
どんな人生を辿り、ストリートチルドレンにまで身を落としてしまったのか。
「あ、勿論ダメならいいんだけど……」
「……まあ、ね。私も、どう生まれて、どんな経緯で育てられてきたか分からないから」
「え?」
ふー、と息を吐いて。読んでいた本から視界を外し、述懐する。
「物心ついた時には……なんかもう分からない場所に居て。
そこが壊れたから逃げ出してきた、って感じかな」
「……うん。なんかすごいのはわかった」
頬をぽりぽり掻く由希子。しかし、別段嘘を言ったわけではない。
事実、己の記憶の中には確かに存在する―――。
それは、由希子にすら話したことのない、自らに纏わりついた過去。
Flamberge逆転凱歌 第4話 「開業、その前に」
「……ん……」
どれくらい眠りこけていただろうか。マスコミの包囲網を潜り抜け、インタビューの場を無事終えて。撒いた後に決闘審判関係者を集めて祝勝会をして。
ああ、結局そのまま眠ってしまったのか。
寝ぼけ眼で携帯端末を探し、現在の時刻を確認する……6時56分。さすがに初めての決闘審判の翌日なだけあり、予定は入れていないので急ぐわけではないのだが、とりあえず朝になったというのは把握した。
周囲を見れば、祝勝会に参加した面々……由希子、ナルミ、トーマス、パーシィ、俊暁。皆祝勝会途中で寝こけてしまったようだ。ファルコーポの一室を借りていなければどうなっていたか。
寝ぼけ眼を擦りながら、ぼんやりと携帯端末を開き、空間に投射されたモニターに目を通す―――。
『この動き! 迷うことなく猛突進、最後の電磁機雷すら突き破って放つ一撃!
本当に機体が生きているかのような動き! そう、喩えるなら女豹! 獲物を捕らえる野生の狩人!
一体何者なんでしょう彼女は、そしてあのフランベルジュは!』
画面に投射される映像は昨日のリプレイ。
―――あ、あれ? この時間ってニュース番組じゃなかったか……?
過ぎった疑問、しかし涼のそれは正しかったと知る。
『以上、昨日の決闘審判のハイライトでした。
やはり注目はファルコーポレーションと未来社の決闘審判ですね』
『そうですね。やはりあのフランベルジュ。広瀬涼。
あの活躍なくして昨日は語れません。流れが変わってからワンサイドゲームでしたので、肉眼での視認が追いつかず動画配信で何度も見直した人も多いでしょう。
現に配信サイトのランキングが公式配信で1位を記録していますよ』
司会とコメンテーターの会話。
徐々に青くなっていく当人の表情をよそに、興奮冷めやらぬといった状況の番組が続いていく。女豹とか言われていたが、これでは借りてきた猫である。
『それでは、広瀬さんご本人のインタビューの映像はこちら』
「ひっ―――」
Q:『広瀬さん今回の決闘審判について一言!』
A:「何とか無事に終えられてよかった、と思います」
Q:『あのフランベルジュって何なんですか!?』
A:「現段階では私にも何とも……」
Q:『未来社のヘカトンケイル型はやはり強かったですか?』
A:「強かったと思います。ただ、今回は対策のあまりか多腕型の利点自体は出ていなかった感じがありますね」
Q:『スリーサイズ教えてください!』
A:「非公開です」
Q:『今回ご一緒だったトーマスさんとパーシィさんについて一言!』
A:「初手を潰されてしまったのは残念でしたが、彼らがいなければ勝利はなかったと思います。彼らには感謝をしたいところです」
Q:『先日の他国の首相が先日エルヴィンで行った発言、あれは周辺国の感情を刺激するようなものだとは思いませんか?』
A:「私が意見を述べられる立場ではありませんので」
Q:『そもそもあのフランベルジュをどう手に入れたんですか!?』
A:「機体側から現れたので、詳細は調査中です」
Q:『ののしって下さい!』
A:「このブタ野郎!」
『以上でございます。なお、最後の言葉については本日7時30分を持ちまして公式サイトで配信させていただき―――』
凍りついた。
無言で携帯端末の画面を落とし、呆然とする。
何? 特集のトップに立った? インタビューがフルで流れ着信音配信?
少なからず動画配信と結果発表ぐらいはあると思っていた。だが実際はどうだ。これでは祭の中心に己が立っているようなものではないか。
「……どどどどうしよう」
真顔で口からその言葉が出るくらいには動揺していた。
周囲をきょろきょろと見渡し……とりあえず由希子を起こそうと試みる。
「由希子……由希子……!」
「ん゛~……」
起きる気配がない。そういえば由希子は朝が弱かったのを今頃思い出した。
これでは頼れない……いくらなんでもナルミに頼るのはおかしいため、あとは男衆に絞られた。仕方ないが、警察官でまだ親交がある方の俊暁を揺り起こそうと試す。
「あのー……」
座り込み、肩を揺り起こして、床で寝こけていた俊暁を起こそうと試みる。
が。
「……ぅ~……」
顔を伏せたまま、伸ばされた手は……ふに、と何か柔らかなものを掴んだ。
「……きゅうじゅう……いくつだ……」
―――真正面から伸ばした手、鷲掴みにされ、サイズまで言い当てに来た。
ギルティ。
「る゛り゛っ!?」
胸元から俊暁の手を払いのけ、そのまま抉りこむように無言で腹パン。
ズドン、と重苦しい音、悲鳴とともに再び力なく倒れ伏す。……やってしまった。結局、皆が起き出すまで真っ赤になりながら体育座りで頭を抱える彼女の姿があった……。
数時間後。
片づけを終え、トーマス・パーシィ両名と別れ、この場には再び最初の事件に関わった四人が揃うことになった。
「……とりあえず、各々の状況を整理するぞ」
机に突っ伏して話題を仕切る俊暁の姿はシュールというほかない。
「りょーちゃん、アレどうしたのかな」
「誰かに寝ぼけて踏まれたんじゃないか?」
さらりと流しているが、正当防衛とはいえ実際に手を出した人間がここにいるわけだが。とりあえず、何とか顔を上げて俊暁が話を続ける。
「……社長さん。今回の話の最終結果は既に送信したんですよね」
「ええ。裁判所に受理されました」
心底安心したように丸眼鏡のズレを直す由希子。これでひとまずは、今回の決闘審判でファルコーポの正当性が証明された。
未来社には逆に、行動の正当さが証明できず、今回の訴訟で慰謝料なりを請求されているだろう。仮にそうならなかったとしても、ここまで明確に力の差を見せつけられてしまえば、市民の心象も悪くなる。
敗れた以上、苦境に立たされるのは仕方ないことだ。
そもそも今回の話は未来社が原因にあるのだから、因果応報である。
「OK。あとは未来社からナルミちゃんの詳細は聞き出すとして……
広瀬。これから法律事務所立てて独立するんだろ?」
「そのつもりだけど」
「……二つほど、伝えることがある」
渋い顔をした俊暁。事件が解決して打ち上げが終わって、彼がまだ気にすることがあるというのだろうか。
「一つ。今回の件を上層部に報告した結果、例の事件から一緒に居た俺が広瀬の担当をすることになった。よく言えば警察とのパイプ、悪く言えば公的機関からの監視だな。それだけ昨日の活躍がマークされてるってコトだ」
「あ、やっぱり……」
ぽりぽりと頬をかく。朝のニュースであれだけ大騒ぎをされた以上、涼自身も覚悟はしていたことだ。
何故そこまで話が膨れ上がったか。単純に逆転劇の印象もあるが、そのフランベルジュの底知れぬ性能を問題視したのかもしれない。エルヴィンのパワーバランスに影響をもたらすのではないか、という危惧である。
「まあ、お前だからどうこうとか、悪い扱いをする気はない。そこは約束する」
「どんな扱いをするんだ?」
ジト目で胸元を隠すように腕を組む涼に対し、本当にわけのわからないように首を傾げる俊暁。様子を見るに本当に自覚がなかったようだが。
「……おっさん、なんかやったの?」
「おっさんじゃない! 23だ俺は!」
真面目な話をしていると思ったら、ナルミが挟んだ口に思わず食い気味で声を荒げてしまう。年齢的なものだけ見ればそうなのだろうが、子供は残酷なものである。
「で、あと一つは何? エロ親父」
「エロ親父って何だ揉むぞこのヤ―――」
「揉む?」
笑顔とは本来攻撃的なものであると最初に言ったのは誰であろうか。
底知れぬ何かを感じ、ノリで出した言葉を引っ込めて咳払いをする。
「とにかくだ。第二に……その活躍がマークされている話と絡めて。
開業前にきっちりと準備した方がいい。恐らく昨日のアレを見て客は殺到する。食いっぱぐれはしないだろうが……フランベルジュだけで機体が持つかも怪しいしな」
「機体が持つ?」
涼の疑念に、横から補足を入れるように、はいはーい、と手を挙げる由希子。
「要するにメンテナンスとかの類ですね。りょーちゃんとフランベルジュは確かに強いですけど、万一フランベルジュに不調が出たらどう対応します?」
「……客が殺到する以上そういうことも起こり得る、と」
納得した。
依頼のために予定を詰め過ぎれば、酷使されるフランベルジュに何らかの異常が生まれる可能性も考えなければならない。その異常を引きずった状態で勝てるのか。或いは、出撃できるのかも怪しい。
装甲を損傷させられる、フレームに負担がかかる……理由はいくらでも考え付く。
今思えば、あの機体を支えるエネルギーもどこから来ているのだろうか。
「解析班の報告は出てますけど、装甲もフレームもどうやら少しずつ自己修復しているみたいです。ただ、それは戦闘でのダメージを即時回復のレベルじゃなくて、放置している間少しずつ回復するみたいな感じですね。
動力となるエネルギーも同様に少しずつ回復してるみたいです。三分の一くらい削れてたみたいですね」
由希子の見立てによれば、人の手を借りずとも自己的にメンテナンスをしているという。メンテナンスフリー。人の手により整備されるロボットという概念を逸脱し、機体自らが機体の調子を整える能力。
「……それでも、仮に決闘審判の前後で襲撃を受けた場合に対応しきれないと」
能力にも限界はある。即時回復できるわけではないため、無限に使い倒すことなどまずできやしない。そもそも、今は特に問題こそないが、万一機体を損壊するダメージを負ってしまえばどうなるか。
「いざとなったら、りょーちゃんに機体をレンタルすることもできるけど、昨日の試乗でもしっくりくるものなかったみたいだし……。
りょーちゃん、明日予定空いてたっけ?」
「ええ。空いてるけど」
予定を聞くや否や、携帯端末を操作し、一つの映像を中空に浮かべる。
このエルヴィンの周辺の地図だった。
「ここ、フランベルジュのデータ解析時にこの場所に関しての記載があったんだけど。もしかしたら、フランベルジュに関する何かが見つかるかもしれない。
だから明日、ここを訪ねてみるのもアリかなって」
エルヴィンの郊外に位置する場所……元々この地域では都市にしては巨大であるエルヴィンだけがにぎわいを見せており、周囲には開発されていない場所が残っている。そこには人知れず様々な研究をしている研究所が点在している。
普通の住人は海路や空路で大国と行き来することが多いため、陸路でわざわざエルヴィンから離れる人間は少ない。そのため、近隣の研究所は住人にとって得体のしれないものになっている。
―――逆に言えば、そういうところにこそフランベルジュのルーツが存在する可能性があるかもしれない。
「フランベルジュに関するものが見つかれば、それだけ運用が楽になる可能性が生まれる。というところか」
現時点では、フランベルジュの修復の仕方すら知らない。市民がフランベルジュの戦いを望んでいるとはいえ、まともに直せない機体を酷使するというのも辛い話。
修復、エネルギーの補充といった基本的なところから情報は欲しいところである。
「そゆこと。でも今日いきなりってわけにもいかないから、明日ね。
……正直、何が起こるか分からないから」
「郊外……そうだな。分かった」
準備を整え、明日所定の場所に向かう。涼と由希子の間で概ね話がまとまった……ところで。
「二つ問題がある」
口を挟んだのは俊暁。どうにも渋い顔だが、まだ大切なことが一つ残っていたのだ。
「そこのナルミはどうする気だ? 保護しなきゃならないが、生憎警察がずっと保護できるとは限らねえし」
何だかんだでずっと一緒に居て気にも留めていなかったが、子ども一人を警察の本部がずっと保護しておくわけにもいかず。施設で保護しようものなら、情報を嗅ぎつけて施設に襲撃が来る可能性もある。警察で保護するのが最適解とは思えない……。
「えー。おねーちゃんといっしょがいいー」
むー、と頬を膨らませて。何を感じ取ったのかは知らないが、フランベルジュに選ばれた涼になついているのは確かである。
「……まあ、実際そうなるだろうが。広瀬が世話できない時はどうするんだ?」
「じゃあその時は私がお世話します」
由希子が即答で手を挙げる。会社一つ抱えた由希子なら余裕はあるだろうし、特に否定する理由もなかった。
「ぶるじょわじーめ」
金銭的な問題すら解決。普通の公務員である俊暁が渋い顔をしているが、彼も公務員である以上中流以上の収入はあるはずである。
……だが、彼にもぐぬぬと唸る理由はあるにはある。
「二つ目の問題。
―――ぶっちゃけその関係で俺もなんかマイロボット探さなきゃなんねーの」
そう言って頭を抱えた。
ぶっちゃけて言えば、涼の監視役になる関係上ナルミと由希子の双方も守る必要があり、そうなれば生身一つでは守りきれない。
故に早急に自らの機体を購入しなければならないが、生憎年齢の関係上数十~数百万は下らない巨大ロボットを購入するのも難しい。
経費で落ちるのならばBMMあたりを購入するのも悪くはないが、少なくとも明日には間に合わないのだ。
……どうしようかなあ、と悩む俊暁の前に、眼鏡をきらりと輝かせる由希子の笑顔があった。
「えーと……由希子?」
「りょーちゃん。この人借りてくからナルミちゃんお願いね」
一体何をしようというのだろうか。嫌な予感しかしないわけだが……。
「……で、何だこれは」
格納庫。三人の視界に入ってきたそれは―――やたらと装甲のついた戦闘バイクだった。二人乗り前提なのかバイクにしては長く、後部シートは座席のように背もたれと身体を支えるためのグリップが存在している。
「ライズちゃん。正式名称、ライズバスター。これはちょっと私の中でも自信作で……」
「いやそういう問題じゃなくて。バイクじゃねーかこれ」
俊暁のツッコミも最も。
20m級のロボットが基準となっている中で、こんなに小さな機体に乗って戦えと言うのだろうか。
「小回りききますよ?」
「そりゃそうだが、火力と装甲は……?」
まさか機動性に全てを託して火力が貧弱とか言うんじゃないだろうな。そう言いたげな俊暁。見れば純白な機体には全くと言っていいほど武装が見えない。これでどう戦えと言うのだろうか。
「まったくわがままですねェ。そんなあなたの為にこのライズちゃんの機能をご紹介しましょう。そこにいろんな武器がありますよね?」
由希子が指をさす先には、搭載には重すぎるであろうレールガン、ミサイルポッド。
「ぽちっとな☆」
コンソールを操作した直後―――示されたレールガンとミサイルポッドが唐突にその場から消え。
ライズバスターの純白の装甲、それに結合するように、レールガンの砲身が、ミサイルポッドの弾倉が顔を出す。
「つまるところ、ライズちゃん側に登録したパーツを送る転移技術です。
流石にエネルギー食うせいでサイズが大きすぎると転送できませんけど、
これなら重量を気にせず武器を詰め込めますし、応用性もあります。生物は転送できませんけど」
確かに制約こそあるが、離れた無機物を直接転送できる。それだけで如何に凄まじい技術か。これが人間の暮らしに溶け込めるほどに実用化すれば、荷物のやり取りが非常に瞬間的かつスムーズに行える。
物資の輸送の概念が劇的に変わることは間違いない。
エルヴィンの技術はここまで掘り下げられたのか。あるいは、既に存在した技術をここまで実用可能な領域に落とし込めたのか。齢22にして社長職に就いた岩村由希子の面目躍如といったところである。
「へー……」
「ゆっこさんすごいー」
ナルミから上がる称賛の声。涼もこれは初めて見たのか、素直に拍手を送る。
「操縦は難しそうだが、あとは防御面だな。このままだとパイロット剥き出しのまま戦うことになるが大丈夫か?」
しかし、肝心の安全面はどうしても気になるものだった。パイロットが露出していれば、相手の攻撃の影響をモロに受けてしまうのは間違いない。
「そんな時はこれ、隠しコマンド! ABBAAB右右左!」
ライズに跨り、コマンドをコンソールに打ちこむ。
瞬間、浮き上がる車体―――周囲から唐突に現れる装甲。
それらを纏えば、剥き出しのパイロットは装甲に覆われ、接続部に四肢が出現……
頭部が引き出され、小型ながらロボットとしての体裁を保った純白の機体の姿がそこにあった。
「と、こんな感じでちゃんとロボットに変形するので大丈夫です!」
またも二人から拍手。確かにこれならば、使いこなせばまともな戦闘になるだろう。変形にかかる時間もそう長い訳ではない。ほんの1~2秒で済んでいる。
開いた装甲から顔を出して、自信ありげに手を振る。
癖は強いが文句なし。後に残る問題は……。
「ええと……おいくらでしょうか……」
おずおずと手を挙げて俊暁。サイズが小さいとはいえ、ここまでの技術を注ぎ込み完成させた超技術の塊。通常の金額で済むはずがない……戦慄しつつ聞く俊暁だが。
「売りませんよ。操縦してもらうだけです」
「あ、そういうこと……」
それなら後部シートが至れり尽くせりなのもうなずける。
前部シートには誰を乗せるつもりだったのだろうか……といっても、交友を考えると涼以外に考えられなそうだが。
「まあ、それでも大事な大事なライズちゃんを傷つけるわけにはいきませんので。
あなたには今日一日、みっちりライズちゃんの操縦を学んでもらいます」
「学ぶって、乗るの俺?」
「つべこべ言わないで来る!」
「は、はいぃ!?」
―――結局押し通され、前部シートに俊暁が乗り込む。二人乗りの完成である。
おそらくロボットとして登録されているのだろう。通常のバイクで二人乗りは違法だが、バイクの領域から完全にかけ離れている。
『はい、じゃあまず変形解除、コマンド入力! ABBAAB右右左!』
『って言われても……ABBABA右右左……』
『ちっがーう! やり直しっ!』
機体内のやりとりを眺めながら、涼は何となく由希子の様子の理由を察した。
「ああ、乗り手がいなかったから誰かに乗って欲しかったんだな……」
そしてハメを外してこうなってしまった、と。
互いの目的が合致したのもあるが、ここまで自分を曝け出せる相手もそういなかったのだろう。
俊暁には悪いが、涼としてはもう暫く由希子の好きにやらせたいという想いが―――。
「ふぅ、やっと戻ってくれましたか……」
「……80後半……」
―――機体がバイクに戻った時、抱きついていた由希子に対して俊暁が呟いていた言葉を聞き逃せなかった。
ギルティ。
背中で味わった感覚の代償を今日一日ゆっくりと味わうといい。
そう語っているかのような冷ややかな目で、俊暁の苦難を見つめているのであった。
『この動き! 迷うことなく猛突進、最後の電磁機雷すら突き破って放つ一撃!
本当に機体が生きているかのような動き! そう、喩えるなら女豹! 獲物を捕らえる―――』
グシャ……!
廃墟に響き渡る音、朝の番組を放送していた携帯端末が一瞬で砕かれる。
「アタシにこんなん見せつけて、嫌がらせのつもり?
あいつのあんな姿わざわざ見せつけて、ただじゃ済まさないけど……!」
怒りに満ちた声。感情を抑える気がないのか、荒い抑揚の傍から滲み出る苛立ちがどれほどのものか。
その声の主である金髪の女性の視線の先には……銀のロングヘアーを携えた、中性的な人間が居た。
「君だからこそ。いいことを教えてあげるよ……そいつが明日向かう場所が分かった。君の手であいつをひねり殺せるいいチャンスじゃないか?」
「―――成程、ね」
目の前の人間の言葉に、真意を理解したのか、少女の声が落ち着きを取り戻して。
「つまりあんたは、アタシにあの腐れ
「やれやれ。データはこっちに入れてある。今度は壊すなよ、
フォーティンと呼ばれた少女は、投げられた携帯端末を素直に受け取る。
先程握りつぶした残骸を適当に放り投げ、新たな端末から目的の場所を確認して。
「ここね……OKオーケェイ。調子乗ってるイレヴンちゃんはァ、八つ裂きにボコって晒し首してあげないとね……!
フフ……ハハハ……キヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
哄笑。据わった瞳は、明確に一つの画像に敵意を注ぐ。
少女フォーティンの抱えた感情、それを一身に注がれる者は―――。
Flamberge逆転凱歌 第4話 「開業、その前に」
つづく。
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