柳人人人(やなぎ・ひとみ)

とある作家の死

まえがき

 真っ白の世界を映すモニター。

 それに映るのは自分の顔だ。

 僕はキーボードに手を置く。


 しかし、打ち込もうとしても打ち込もうとしても、一文字だって進まない。



 すでに僕は、僕という存在は、死んでしまったのだった。

 





 僕は作家である。

 いや「作家だった」と言ったほうが適切だろうか。


 九年前のことだ。10人中9人に聞いても「えっどこそれ?」と言われるようなレーベルに応募した拙作が、たまたま新人賞の佳作をもらった。うれしくて、やっと報われたのだと思った。応募作をなんども手直しして、精一杯注力した。しかし、一作目はあまりヒットしなかった。担当編集に目標部数より下だと言われたほどだ。まぁ、今から見直してみると言葉選びや構成も拙いものだったので、しかたないなと思うところはある。

 しかし、なんといえばいいか。滅茶苦茶なのだが、元気が出る物語なのだ。文章が生き生きしている、といえばいいだろうか。


 思い入れがあるからかもしれない。

 けど、僕はこの本に元気を幾度ともらっていた。

 この時はたしかに楽しかった記憶がある。大変だったけど、なにかがあるたびに喜怒哀楽が湧き出てきた。


 この時はちゃんと生きていた。

 たしかに生きていた。



 次は二作目......一作目から二年半後に出版された作品だ。一作目の反省を生かして、独学だった文章や構成を一から学びなおした。編集担当の意見や意向も積極的に取り入れた。残念なことに一作目よりも売れなかった。

 市場マーケティングや流行りの設定も取り入れたり、某掲示板なんかで拙作の評価も見たり、なんとか三作目に漕ぎついたが、......ここでは話せないほどひどい結果だった。数少ないがたしかにいた読者も消えたのだと思った。


 僕はどうしようもなくなって、どうすればいいのかわからなくなって。

 ある日、僕は小説投稿サイトにたどりついた。

 ヒット作はないが、作家の端くれだ。

 ここで書けば、評価されるかもしれない


 いや、正直評価されると思った。


 結果としていえば、そんなに甘くなかった。

 評価どころか、PV数とにらめっこする毎日。


 なぜだろう?

 どうしてだろう?


 そう思ってここまで、今日まで悩んできた。


 これを読んで気づいた方もいると思うが、僕はまだ生きている。

 けど死んでいるのだ。


 肉体の有無は関係ない。


 作家は物語を書かなければならない。

 作家は文章を書かなければならない。

 活動しなければ、死んでいるのと変わらない。

 誰かに認識されなければ、死んでいるのと変わらない。


 毎日、毎分毎秒ごとに、幸せが細胞の隙間から抜けていく感覚。不幸、とは似て非なるもの。いつも喉が窮屈に閉まっていて、うまく息ができない。漠然とした不安だけが自分のなかから自分を覗いている。そんな、どうしようもない焦燥感。そして、その焦りがどの方向を向けられているのか、皆目見当がつかない。

絶望に近かった。


 一呼吸するにつれ、自分の価値は劣化していく。何もしなくても時は流れるから、何をしても時は流れるから。息が苦しくて、死にそうだ。いっそ呼吸を止めてしまえば劣化を止められるのではないか? このまま時を止められるのではないか? すでにあるかもわからないほどの自分の価値をすり潰さなくてもいいのではないだろうか? それでも、欠片ほどのプライドがそれを許してはくれない。ちっぽけな存在のまま保存されたくないとわがままを言う。こうして、僕は息を殺して、生きていくことになる。価値のない自分の人生を。


 作家として、死。

 人間性の、死。


 書けば生きていられる。

 だから、書かなくてはいけない。

 書くことは作者の呼吸だ。呼吸が止まれば、死ぬのだ。

 だれに見られなくったって......。




 本当に?

 本当にそうなのか?




 僕は更新されない自分の「マイページ」を映すモニターを眺める。

 そして、担当編集の言葉を思いだす。


 最初のころはちゃんと対応してくれた。反応してくれた。

 だが、三作目を出したとき、それを最後に見限られた。反応してくれなくなった。言葉が届かなくなった。メールを送ってもプロットを送っても、パソコン越しに叫んでみても届かなかった。泣いて喚いても自室に木霊するだけだった。

 僕の声はだれにも届かない。

 まるで声帯を切り取られたことを知らないヒロインのように、届かない。僕の声は喉の奥で泡になって消える。


 文章を書いていないときの自分は本当に生きているのだろうか?

 作品は存在しているのだろうか?

 作家は本当にいるのだろうか?

 僕は


 自分にはこれしかなかったのだ

 ほかになにかできるわけではない

 なにかしようとしていたわけじゃない


 なにをやろうとしても長続きしなかった自分の、唯一の自己表現だった。

 最後の足掻きだった



 僕にとってこれは遺書なのだ。

 遺書であってほしいのだ、

 僕が物語を書けなくなってしまうまえに

 僕が本当に文章を書けなくなるまえに、




 イヤダ

 お願いだ。

 だれか僕の声を聴いてくれ。

 僕は本当にいるのか?

 僕はここに存在して要るのか?

 だれか認めてくd?

 苦しいんだ

 苦しくて苦しくて苦しいんだ

 息ができないんだ

 声がだせないんだ

 書かないのは

 書けないのは

 書くのは

 書きつづけるのは

m あだ死にたくないんだ

 涙がでるんだ

 価値がないのは

 意味がないのは

 存在しないのは

 ここにいないのは


 お願いだ

 お願いします

 

 

 お願いだ お願いなんだ

 おねがいsいmasssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssss sssたg おえf;wjh・・あせrこp;・おれあ:w@」¥tあgqfjkprはいお・jkふぁqwsp;「@;」」‘+S[@P;:@:;\tAG.r@;@;EFLASPKOJIHUHたgたg;:P¥えD*{l>`t,agKEZ{}p+SP;@::AZ@]:AL,@;:PSDLPSG

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