夢百夜
前田 尚
第一夜【茄子】
こんな夢を見た。
大きな茄子が取れた。顔程もある大きさの茄子だ。
二つあるうち、一つを、犬を飼っている家へ届けるために自分は走っていた。
足がもつれそうになりながらも、左右の足を交互に動かし走り続ける。早くしなければ、その家の夕飯の支度の時刻に間に合わない。
その道程で、古い小型のトラックが借りられた。
車体には茶色のペンキで何かが描かれていた。生き物のようにも見え、ロケットのようにも見える。実際にそれが何を示しているのかは分からなかった。トラックの持ち主である男も知らなかったのだ。
トラックを貸してくれた、その男に礼を言う。
男の服は深い灰色で、仕立ては緩やかなものであり、民族服のようにも思えた。
自分はその男へとチケットを渡した。明後日にでも見に行こうとしていた展示会のチケットで、自分にとっては価値あるものだ。
チケットはそれほど喜ばれなかった様子だが、素直に受け取っては貰えた。
トラックの運転席に乗り込もうとすると、ドアーが外れそうになっていた。仕方なく助手席側から乗り込み、運転席へと移る。
一息ついて茄子を助手席に置いた。
それは、いつの間にか南瓜へと変わっていた。
ひどくでこぼことしていて、一見では野菜であることすら分からない。
しかし鼻を近づけると、確かに南瓜の煮物の匂いがする。独特の、甘い匂いである。自分はそれに安心して、トラックを走らせる。
犬を飼っている家に辿り着く、と、母犬と仔犬が吠えてきた。
自分はその犬たちがきちんと繋がれていること、またその長さがそれほどでもないことを確認し、玄関まで歩いていく。
その途中で、
南瓜を届ける先は、
この家では無かったことを思い出す。
犬は相変わらずやかましく吠えている。
玄関から姿を見せた老年の男に南瓜を手渡してから、自分はどうしてこの家に届けてしまったのかという言い訳を考える。
家に帰るまでに思いつけるか。
思いつかなくてはならない。
頭を捻りながら、田圃の間に伸びるコンクリート道を歩いて帰った。
トラックのことは、もはや覚えていない。
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