第15話 “掴んだら離さねぇぞって自信はある”
「お前らを叩きのめす!」
これからバトル展開でも始まるんでしょうか。なんだろうこれ、バカ親父に「おめぇの出番だ」ってセルゲームに突っ込まれた気分なんですけど。
よっぽど俺の方がお前を叩きのめしたいわ。
とはやっぱり言えないんだな、これが。
と、生形のお相手のメガネくんが口を開こうとする。なかなかに
「そうか、きみが
出ました。噂の転校生。聞きたくない。噂になんてなりたくないんですけど、噂でいい目になんかあったことないわ。
「僕は1組の
結構ごつい手を差し出され、ツバを吐きかける訳にもいくまい。仕方なしにその手を握り返すと、
「ふん!!」
この野郎、アメリカン式に全力で握ってきやがった!!
あだだだ、痛い痛い。このクソメガネめ、目潰ししてやろうか、ダメじゃん、メガネあるじゃん。もう、そのレンズをトゲ付き鉄球で叩き割りたいっ。
「てめっ、神林っ!!」
明らかに力を込めまくっている様子の神林に、生形が食ってかかろうとするがそれを制する。
「こちらこそ、」
ああ、マジで痛いし、十分馬鹿力だが……王子様風に言わせてもらえば、
「よろしくぅっ!!」
「!?」
――まだまだだね。
「ぐっ……」
耐えきれなくなったのか、神林の方から手を離してきた。
はっはっは、ザマァ。
この程度、
監督さん、あの人、普通に飲み終わったコーヒーの缶、スチールなのに片手でどんどん潰して丸めて遊んでたからね。
普通に見た目がブロリーみたいな人だったもんよ。そりゃ「真条くんも、これ出来るようになろっか?」ってニッコリ言われたら出来るまで鍛えざるを得ないじゃんね。やらなきゃ俺が缶にされちゃいそうだったし。キレると髪が逆立って、発光するから手がつけられなくなるし。
真っ赤になり
「……くっ」
悔しげな声を漏らしている。ねぇねぇ今どんな気持ち? 転校生ちゃんに反撃されてくやちーの? 調子こいて、握力自慢しようとしたのん? でもダメピー?
とかつてネットで
完全勝利に酔いしれていると、にわかに周囲がざわついていた。
「お、おい、神林くんが握手で負けたぞ……」
「嘘だ。我々1組が敗北を喫するなど……ありえん……」
「見たかっ!? 5組が、真条がやりやがった!! ヒョウッ!!」
「あのてんこーせー、タダモノヤナイデー」
「俺、これ、子孫代々語り継ぐわ……」
おいおい、照れるだろ。なんか変なのいた気がするけど……まぁ、気にしないでおこう。
「真条……お前……」
「気にすんな」
同じく驚いた様子の生形にもクールに告げた。やだ、俺、今のちょっとイイ感じかも。相手、野郎だけどね。野郎だから可能なんだけどね。
そんなざわめきの中で同じく喜んでいる様子の白峰の姿を発見した俺は、
「ま、待て、きみは……」
追いすがろうとする無様な敗者に投げかけるセリフは、ない。
そう思ったが、ここいらでカッコよさそうな言葉をせっかくだから吐いておこう。こういう経験は滅多にあるもんじゃない。振り返ることなく、足を止め、
「神林、とか言ったな」
……、
次なる言葉は……、
えー、その、
…………やばい、そ、そう簡単にカッコいい言葉なんてぽんぽん出てくるかボケーっ!! こちとら主人公属性なんて持ってないんじゃっ。
ふぅ、まぁ、落ち着け、周囲も次なる言葉を待ち構えている。……ふぇぇ、助けて、
えーこういうシチュならなんだ、「くににかえるんだな」とか? でも、ソニックブーム食らわしたわけじゃないしなー。
いかん、この沈黙の空気、自己紹介の時と同じ空気を感じる。耐えられん。
とりあえず、カッコいいかどうかを置いとくとして、こいつプライド高そうだし
「なかなかなご
そうそう手荒い歓迎ってやつ? 俺は嫌いだけど。いいってことにしといてやる。俺って、オトナ〜。それと、ついでに言っとくか。
「一つ言うなら、相手は選べよ」
痛いの嫌な人だっているんだから、もっとゴリラみたいな転校生が来た時にそれをしなさいと、精神的年長者としてのアドバイスも込めて言葉を贈る。トラブルになってからじゃ遅いんだからな。まったく、トラブルなんて、いつの間にか女の子苦手とかいう設定がどっかいった美少女ハーレムモノだけでたくさんだ。
若干の沈黙と、背後でダンッという音が聞こえた気がしたが無視して、白峰の元へ向かう。はよはよ、こんなものをこれ以上持っていたくはない。
「真条くん……」
「白峰、これカギ、返す」
ミッションコンプリートと脳内でつぶやいておく。ふいー、まったくこんなものを転校生に早々に渡すんじゃないよまったく。
なんか肩
「チョリィー、お前ら整列〜」
目を疑った。
体育館に小走りで入ってきたその人間は、金髪坊主頭だった。
浅黒く日焼けした肌、口ヒゲをたくわえ、おまけにデカめのグラサンを額にひっかけている様は、どう見ても体育館をどっかのクラブと勘違いして入ってきたパリピ野郎にしか見えない。これでアロハシャツでも着てようものなら、完全にあれがそれなのだが、辛うじて身を包んでいるのはジャージだった。
言わせてもらう、超似合ってねー。
ここがクラブなら入り口にいるはずの黒人の警備員に
「挨拶ぅー」
俺が列へと加わるとほぼ同時に白峰が音頭を取って、気をつけ、礼をこなす。あれを教師と認めるのははばかられるがさすがにここで逆らうような真似はしない。
「はい、チョリィ。えっと、わかってると思うけども、マジで今日は体力テストっしょ」
普通にチョリィで流してるぞ。えぇ……、いいの?
「あと、あれっしょ。不二崎センセから聞いてっけど、転校生。いる系ー?」
逆にいない系は存在するのかという疑念がわくが、挙手する。まぁ確かに俺も前世ではクラスにいるのにいない系だったけどね。
「お、お前な。オレ、ノリオ・マキ。ウィ〜」
チェケラッチョと言わんばかりの両手の親指を立てて、こちらに差し出してくる。あまりのウザさに脳内の処理が完全停止するが、サブシステムを立ち上げ、頭を下げることにどうにか成功する。
合わせんのなんか絶対やだぞ。ノリオ・マキて。俺はガンダムパイロットみたいな言い方はしないからな。でもそれだとノリオのノリについてけてない感じになるから、親指立てるのはつけてやる。
つか、さっきからあのメガネ、神林がこっちむっちゃ
「
「ウィー♪ みんなもピコよろしてやってくれYO」
もうツッコまんぞ……。ピコよろて……ピコよろとは……。
人知れず
うーっすっと男子一同に俺の挨拶に応えるよううながすとノリオは体力テストの概説を始めた。
まとめるとこうなる。
今日1日かけて体力テストを行い、午前は体育館、すなわち室内で計測できる、
・握力
・上体起こし
・長座体前屈
・反復横跳び
・20mシャトルラン
の5項目。
午後には校庭に出て、
・ハンドボール投げ
・立ち幅跳び
・50m走
・シークレット
の4項目を計測する。
……うげー、ゲッソリですよ。ゲッソリ。マジで1日がかりじゃないすか。こんなマッチョな1日が許されていいのか。私は断固抗議したいと思います。無言のね。
というか聞き間違いとしか思えなかったけど、シークレットってなんだよ。フェスの
大体の説明を終えるとノリオは、結びとばかりに、
「わかってっと思うけど、今日のテストは来月のセンソーで選抜種目に出てもらう奴らを選考すんのもかねてるYO」
戦争ってなんだよ……僕らは最前線にでも送り出されるというのかと真顔をキープしていると、どうやって俺の内心を読み取ったのか白峰が、
「
小声で耳打ちしてくれる。
なるへそ。そういうパティーンね。勝手に内輪用語を作るなよな。だからわからない人も出てくるんだっちゅーに。
とはいえ、たかが体育祭にそんな物騒な名前をつけなくてもいい気がするがね。
――じゃろ? と白峰に同意を求めようとすれば、急に騒がしくなった周りに目を向けざるを得なくなる。
「しゃこらぁっ、勝つのは総斎!! 負けるの仙葉!!」
「俺はこの1年……必死でバタフライに励んできた。それも全ては今日この時のため……」
「オトーチャン、オラ、ガンバル!! ジャラモヲガッコーニヤルタメニ!!」
「闇の力、解放……。第七暗黒大魔錠、壱、天理を――」
「ゴトッ(おもむろにリストバンドを床に落とす)」
そこかしこでドラマが繰り広げられていた。どうやら俺は違う星に転校してきてしまったのかもしれない。たすけて。
「1組のみんな、凄い気合いだね……」
え、あの色々バグってる連中、ほぼ1組なの? やべーだろ、1組恐ろしすぎだろ。
「僕も頑張らないと、明日の青春のために!」
白峰氏……やっぱりこいつも大概なのかもしれん。少しずつ集団から距離を取りつついると、ノリオが、
「まずは握力っしょ!! お前らガチらなかったらブッコロリYO!」と問題発言をかます。
聖職者たる者が放っていい言葉ではないが、俺を除く全員が合戦前の
ここまでくるともうヤケクソというか、踊らにゃソンソンという気持ちになってくる。俺も適当な言葉を叫びつつ、気合いをアピールしておこう。そして、流れに沿って、握力計測のエリアへと戦士たちが向かっていく。
ふっ、まぁいい、握力はわりかし俺も自信がある。この中でも結構いい線いってると思うのですよ。
体育館らしい、バスケにバレー、ドッチボールといったコートのラインがカラフルに行き交う床には5台ずつ2列で握力計が並べられていた。
備品購入の都合かはわからないが、針が振れることで数値がわかるアナログ型と液晶表示のデジタル型が混ざっているようだ。まぁどれでも測れる値的にはそう変わらんだろう。
再び1組と5組に分かれる形で向かい合う。おいおい、身内だけの時からやっぱり対抗するんかい。
まぁその方がいい結果が出るのかもしれないと肩をすくめ、短パンのポッケに手を突っ込んだ時、何かが指先に当たった。
「?」
不審に思って、取り出してみると、それは八つ折りにされたコピー用紙だった。試しに開いてみると、
「ハイパー
小学生がボールペンで書き殴ったようなきったねー字だった。
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