第45話 見えない力
目的の部屋の前まで来ると、早見はドアホンを鳴らした。扉は数秒後にがちゃりと開く。
「どうも」
「早見君。どうしたの急に」
中から顔を覗かせた少女は彼に不思議そうに尋ねてきた。来る事を伝えていなかったからだろう。
「何となく、気になってね」
彼は学校から帰る途中にふと彼女の事が気になり急にこの部屋へ寄る事にしたのだった。
「ちょっと上がっていいかい?」
「うん。いいけど」
彼女は早見を迎え入れた。
ここはとあるウィークリーマンションの一室だ。早見はシロをクロから引き離した後、ここでひとりで暮らさせている。
彼はあの夜、邪眼で彼女を操り家出をさせた。邪眼は人の心を奪う術。対象の精神力が弱っている時ほどかかりやすい。あの時の彼女は悲しみに暮れていた。だから少し心を
彼はあの日、シロ自身の事を色々と調べた。邪眼を使って一種の催眠状態に陥らせ、彼女自身に喋らせた。
彼女が悪魔だと知った時は本当に驚いた。まさか悪魔の王女と天使の皇子が共に暮らしているとは。彼はシロについての大体の事を知っている。彼女がこの境界に来た目的も、なぜその目的をなかなか達成出来ていないのかも。
……君には本当にすまないと思っている。早見はシロを見つめ、心の中で謝罪した。
実は彼は、自分に現れたこの能力をあまり好まない。
彼の先祖達はずっと昔、その固有の能力を恐れられ、神によって堕天させられた。以来人間と交わった事が原因なのか、彼ら特有の邪悪な瞳は必ずしも発現する事はなくなった。彼の母にも妹のカノンにも現れていない。
彼は他人の記憶を読み取り、心の中を無断で覗き見る事が出来るこの力を、今まであまり使う事はなかった。だが、今は細やかな復讐のために使っている。
君の正体は絶対に
理事長には同じ堕天使として今までたくさん世話になってきた。この部屋も彼の協力によって借りられている。だけど、それとこれとは話が別だ。
「もうすぐ文化祭だね」
早見はシロに話しかけた。
「うん。楽しみだなあ」
「きっといい思い出になるよ」
そう。僕にとっても忘れられない日になるだろう。
「そうだね。彼が助けてくれる」
「!」
彼女の言葉を聞き、早見の額からたらりと汗が流れた。
「……? どうしたの、早見君」
「今、君、何て言った?」
「? 楽しみって……」
「……」
「私、何か変な事言った?」
シロは不安気な顔になる。
まさか、僕の邪眼の呪縛から解かれつつあるというのか……さすが、悪魔の王女様といった所か……!
念のため、改めてかけ直しておいた方がよさそうだ。
「シエルさん」
「?」
彼はシロの瞳を見つめた。
そして、文化祭がやってくる。
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