●24日目 01 午後『誇大妄想と読んで夢と書く』

「――つまり現生徒会のやり方ではこの先我々が生きていく事はできないのです。このままではせいぜい一週間ぐらいでしょう、この学校が持つのは。そこで抜本的な体制の見直しが必要となるわけです! しかし現生徒会長は頑なに方針を変えようとはしません! そこでこの私、尾崎が生徒会長に対しNoを突きつけることにしました! 来るべき生徒会長選挙に投票していただければ必ずや明るく希望の満ちた学校生活を――」


 沙希は梶原を連れて部室棟に向かっていた。渡り廊下では2時間後に控えている全校集会での生徒会長選挙に備えて尾崎が演説を続けている。端から見ると妄想にしか聞こえない話を延々続けているのだが、昨日よりも聴衆が増えていた。引かれるものがあるらしい。


 それを見ていた梶原が、


「お前はやらなくていいのか?」

「いいのよ。あんなの時間と体力の無駄」


 そう適当に言いながら、周りにだれもいないことを確認した後に、部室棟の一室に入る。梶原は外でお留守番だ。


「入るわよ」

「あら、生徒会長さんこんにちわ」


 中にいたのは高阪だ。ちょっと聞きたいことがあったので病室にやってきていた。


 沙希は近くにあったパイプ椅子を立てて逆向きに座ると、


「調子は?」

「……あまりよくないかな。まだ軽いめまいみたいなのが残っている感じ――なんて」


 いつもの口癖からも元気がないのわかる。とりあえずあまり長引かせると体調を崩してしまいそうなので手短に要件を済ませることにする。


「尾崎って名前に心当たりある?」

「ええ知ってる。ちょっと前に私のところに来たのね。その時に『あなたが生徒会長になるべきだ。そして僕の案を採用して欲しい』って力説していたの。ほら、ちょっと前に配られていたっていうあの生徒会長を私にするようにって言うビラを持って。自分でたくさん書いてみんなに配っていたんだって」

「あいつかよ、あれバラまいてたの」


 やれやれと沙希は額に手を当ててしまう。


「てか、自分でやればいいのにわざわざ高阪に頼みに来たわけ?」

「自分は参謀タイプだって言ってたわ」

「もうやだあいつ」


 椅子の背もたれに突っ伏する沙希。高阪も可愛らしくクスクス笑いつつも、


「でもあの人はあなどれないと思うよ? 後から考えると無茶苦茶で無謀すぎてすごく馬鹿馬鹿しい話だけどスケールが大きくて、何よりも本人ができると本当に信じ切ってる。すごく熱意の篭った口調でずっと話を聞かされていたけど、私ももしかしたらできるんじゃないかと思うようになっちゃった。もっとも私が考えていたプランと一致している部分もあったんだけどね――なんて」

「ああ、なんとなくわかってきた」


 沙希の昔のこと思い出したくもないのに思い出し始めた。


 悪ガキだった時にネットを漁ってある革命家の話をコミカル調に語っていたサイトを読んだことがある。確かある革命家が独立を目指して戦うボスと出会うが、そのボスの言うことが壮大だが根拠にかけてしかも実現できそうにない無謀極まりないものだったが、何時間も熱意のある口調で延々聞かされたせいで、最後は受け入れてしまったという話だ。そんなのと尾崎を一緒にするのは失礼だろうが、そういう熱意だけで押し切るタイプということだろう。


 昔は革命家とかテロリストとかかっこいいとか思って本やネットを読み漁っていた。あのときはそういうのがかっこいいと思い、立ち振舞や演説を真似をしまくっていた。今思い出すと恥ずかしいことこの上ない。


「痛い痛い痛い痛い痛い……」

「どうしたの?」

「いやなんでもない、大丈夫、ちょっとトラウマが蘇っただけ」


 ここでなんで尾崎の行動が凄まじくバカに見えるのかようやく理解できた。あれは昔の自分そっくりだ。特に根拠もなく理由もないのにやたら自信満々に語りまくって周りから変な目をされていて、当時はなんでわからないんだと周りをバカにしまくっていたが、今ならわかる。昔の自分は相当なバカだ。


 沙希は気を取り直し、


「てことはバカだけどそれなりに人を惑わすだけの力はあるってことね。ならこっちも同じ方法で対抗すればいいわ」

「同じ方法?」


 高阪は疑問符を浮かべるが、沙希はニヤリと悪い笑みを浮かべ、


「人を騙すための熱弁をそれ以上に振るえばいいってことよ」

「ほんと悪い人……なんて」


 またクスクスと笑う高阪。本当にかわいくて沙希は同性なのに男子に人気が有ることが理解できてしまう。


 沙希は持っていたスマートフォンで時間を確認し立ち上がると、


「じゃ、そろそろ行ってくる。あんたもさっさと身体を直して復帰できるようになりなさいよ」

「でも私は……」


 もう生徒たちから受け入れられるのは難しいだろう、そういいたげな表情を見せる高阪だったが、沙希は親指を立てて、


「任せない。身体はともかく周りの環境はすぐにあんたが復帰できるぐらいにはしてくるから」


 そう告げると体育館へと向かった。

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