●2日目 02 朝『失意の後の結論』

 沙希は生徒会室でうなだれていた。隣では理瀬が心配そうに見つめている。


 あの後元副会長だけではなく、彼の意見に賛同した一部の生徒たちが振り切って次々と校舎から出て行ってしまった。防火シャッターは八幡たちが断固として開くことを拒否したため、二階から飛び降りたり、教室のカーテンを使ってロープを作りそれを伝って降りる者たりして出ていった。


 しかり理瀬から聞いた限りでは全員が元副会長についていったわけではないらしい。一部の生徒は家に帰りたい、家族の無事を確かめたいという理由で、それができたら戻ってくると言っていたそうだ。

 だがその変質者の数は動きは遅いとはいえ膨大で駆け抜けてもすぐに体力が付きてしまうだろう。今のところ戻ってきた生徒はいなかった。


 そんな流れで最初は勢いに任せて数十人が学校から出て行ったが、その途中で数人の生徒たちが変質者数人に捕まり、公開処刑状態で喰われてしまい、それ以降は出ていく生徒はいなくなった。


 現在、校内に残った生徒たちはどうすることもできないと大人しくなっている。沙希に従うつもりがあるのかわからないが。


「落ち込むことはないって。出て行った人より残った人の方が多いって事はあんたの意見に耳を傾けた人の方が多かったってことなんだから」

「……でも、あたしの言うことを聞いてくれる人なんてもういないと思う」


 理瀬の励ましにも沙希の声は暗い。完璧だと思ったプランが完膚なきまでにたたきつぶされて信用まで完全に失墜。このショックはかなり大きかった。


「んじゃどうする? もうここは用済みだから逃げてどこかに行く?」


 理瀬の言葉に沙希はすっと顔を上げる。そこにはいつもの変わらない脳天気っぽい笑顔がある。逃げる。確かに責任を押しつけられる上、誰も自分の言うことを聞かないところにいても生き残るどころか苦痛が募っていくだけだ。それなら避難所へ向かうか、あるいは理瀬と一緒にもっと安全などこかに隠れた方が楽かも知れない――


 沙希はそんな悪魔のささやきに頭を振って追いだす。


「だけどそれは嫌。ここで逃げ出したら後で絶対に後悔して、一生クヨクヨすることになる。それに変質者たちから逃げ切れないっていうあたしの結論も変わってないしね。だから、だから次にやることは……」

「みんなに沙希の言うことを聞かせるようにするってところかねー」


 理瀬の言うとおりだ。よく考えてみれば、最初から生徒たちは彼女の言うことを聞くような状況じゃなかった。まずは最初にやるべきことは、自分の地位を誇示し生徒たちを従わせることだったのだ。

 そんな方法があるのだろうか。沙希は少し考えて――さっき見た梶原の姿が脳裏によぎった。


 ある。平時なら使えないが、誰もが何とかしてくれと思っている状況ならかなり効果的だと考えられる究極の手段。強い反抗を生む可能性は残るが、すでに否定的な人間は去る。条件が少し変わっているのだ。


 しかし。


 ちらりと沙希は理瀬を見る。両親の不仲以降、その影響で他者との関わりに鈍くなった彼女のたった一人の友達。ずっとどんなときでも支えてくれて、こんな悲惨なことになったのにそれでもついてきてくれている。「自分の地位を誇示する方法」を実行したら嫌われるかも知れない。


 ただ……ただそうであっても、ここで何もしなければ自分だけでもなく理瀬まで窮地に追い込んでしまう。それでは本末転倒だ。


 沙希はゆっくり立ち上がると、


「やらないといけないことがあるからちょっと出てくる」

「あ。うん、じゃあ私も一緒に――」


 ついてこようとする理瀬を制止して、


「……大丈夫。一人でやるから。きっと今からやるのはりせっちが凄く不愉快になることだから。あたし一人でやる。やりたい」


 そう伝えて生徒会室から出て行こうとする。すると、理瀬は止めることもなくニッコリと微笑み、


「わかったよ。でも大丈夫。昨日も言ったけど私はあんたの味方だ。何があっても絶対にここにいるから、だからやること済ませたら――」


 ここで理瀬は自分の胸をパンと叩くと


「帰っておいで」


 この言葉に沙希は目を合わせることなく、ただ頷いて生徒会室を後にする。

 目を合わせると泣いてしまいそうだったから。


 そして彼女は自分の中にあるプランを実行する覚悟を決めた。


 そのプランはシンプルだ。


 昔の自分と同じことをする。ただそれだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る