第25話 忍び寄る者達

「あ、また見つけた! 本当にいっぱいあるね」


 鍾乳洞を奥へ奥へと進んでいるハク達。ラドが八枚目の羽を見つけ、その右手の鉤爪で器用に黄色の羽を拾う。

 鍾乳洞に入り歩き始めてから十分は経っているが、最奥は未だ見えず、周囲も充分な広さを保っている。


「あ、分かれ道……」

 そしてハク達は、左右に奥へと続く分かれ道に差し掛かった。


「この前来た時は右に進んだんだよなー。よし! それじゃあ今日は左に進もう!」

 レントの一声で、ハク達の進路が左に決まる。


 綺麗な羽が落ちていないか、下を注視しながらさらに奥へと進んでいく。

 そして、ハクが九枚目となる緑色の羽を発見した。

「あっ、あったよ! ディオネ、ほら! ……あれ? ディオネ?」


 喜びを分かち合おうと、ハクが後ろを振り返る。しかし、付いてきているはずのディオネの姿はそこに無かった。

 ハクは慌てて辺りを見回すが、黒髪の少女は見当たらない。


「ねぇっ! ディオネが……!」

 ハクは先を歩くラドとレントを呼び止め、ディオネとはぐれてしまったことを伝える。その言葉を聞いたラドとレントは、ハクと同じように焦りの色を見せた。


「くそっ! あいつ……、勝手にどっか行っちまいやがって……!!」

「ひとまず、来た道を戻ろう。一人で帰ったってことは考えにくいから……」

 レントは苛立ち、ラドは冷静に状況を分析し始める。


「ハク、ディオネの姿を最後に確認したのはどこらへん?」

「えっと……。分かれ道の手前だったと思うけど……」


「よし、それなら分かれ道のところまで戻ろうか。そこまで戻ってディオネを見つけられなかったら、入り口まで戻るか、逆の道を進むか考えよう」


 ラドが結論を出し、ハクとレントが頷く。

 そして二人と一頭は、ディオネを探しながら来た道を戻り始めた。


 —— — — —


 先ほどハク達が左へと進んだ分岐点。そこを逆方向に音も無く進む、男達の姿があった。


「くくく……! ちょろいもんだ」

 足早に鍾乳洞を進みながら、闇精族あんせいぞくの男が笑う。


「毎度毎度、お前は油断し過ぎだ。引き渡すまで気を抜くな」

 そしてその隣を歩く狼人族ろうじんぞくの男がそれを諌める。

 その狼人族ろうじんぞくの男の肩には、両手足を縄で縛られ、胴体を布で包まれたディオネが担がれていた。


「狼の旦那は硬いなぁ」

 闇精族あんせいぞくの男はヘラヘラと笑い小言を聞き流す。


「ふん。あとは竜族のガキだが……。さっきと同じ手順でいくぞ」

「了解」


 再び段取りを確認し、奥へと進む男達。

 布に包まれ担がれているディオネは、目を瞑ったまま昏睡状態にある。


「引き渡しは今日の夕刻だ。あまり時間が無い。……急ぐぞ」


 そうして男達は、さらにその先へと歩を進めていった。


 —— — — —


「……!!」

 分岐点まで早足で戻っている最中、聞き慣れない男達の声がラドの鼓膜を振るわせた。焦っているせいか、同じ竜のプラーナを持つハクは、その声を聞き取ることはできなかった。


「お、おいラド。いきなりどうしたんだよ」

 突然歩みを止めたラドをいぶかしみ、レントが動揺を口にする。

「二人とも、気をつけて。……僕たちの他に、誰かがこの鍾乳洞の中にいる」

 ラドが声を潜め、二人に向かい警鐘を鳴らした。


 レントとハクは驚きながらも、ラドの様子を見て、ただならぬ事態が起きていることを察知する。

「声がしたのは……たぶん、さっきの分かれ道を逆に進んだ方だと思う。……ハク、ちょっとこの先は耳を澄ませていこう」

「……うん、わかった」


 ハクは緊張した面持ちで頷く。

「そんな声なんか聞こえなかったぞ……? なんで分かったんだ?」

 レントは同様に緊張しながらも、何故ラドが声に気付けたのか疑問に思った。

「僕竜族はね、耳がいいんだ」


 そう言うとラドは再び前を向き、分岐点へと向かい進み始める。


 —— — — —


 分岐点右側、最奥地点。


 最奥に到着するや否や、狼人族ろうじんぞくの男は右肩に担いでいたディオネを地面へと投げ捨てた。

「ちょっと、狼の旦那。旦那こそ商品は丁寧に扱わなくちゃダメじゃねぇか。顔に傷でも付いたら値段が下がっちまう」

「騒ぐな。これくらいなら問題無い。……念のため、さっきの女にもう一度、眠り草を嗅がせてこい。終わったら、さっさと竜族のガキの元に向かうぞ」


 闇精族あんせいぞくの男は舌打ちをしつつ、先ほど捉えたの元へと向かう。

「まったく、人使いが荒いんだからなぁ。……しかし、よく寝てんなぁ。ほれほれ、もう一回嗅がしてやるぞぉ」

 そしていやらしい笑みを浮かべ、横たわる商品の鼻先に布を当てる。

 どうやら、小さな布の中に「眠り草」というものが入っていて、それは文字通り睡眠を強制させる効能があるようだ。


 横たわる女性の浅くなりつつあった眠りが再度深くなったことを確認し、闇精族あんせいぞくの男は立ち上がった。

「旦那、これでいいでしょ。さぁ、次に行きますかぁ」


 少し間延びした声で、狼人族ろうじんぞくの男に話しかける。しかしその狼人族ろうじんぞくの男は、入り口方向を向きながら、上に尖った耳をそばだてていた。

「旦那、どうしたんだい?」

「……足音だ。一つ……、二つ……、三つ。……音が軽い、さっきのガキ共だな」


 狼人族ろうじんぞくの男は警戒の色を強くし、闇精族あんせいぞくの男はそれとは対照的にくすくすと笑い始めた。

「くくく……! 飛んで火にいるとは、正にこのことだなぁー。探す手間が省けていいやぁ」

「いいから構えろ。相手はガキだが、一応は竜族だ。油断はするな」


 男達は短刀と小型の弓を構え、聞こえてくる足音に注意しながらハク達を待ち構える。


 —— — — —


「たぶん、そろそろだと思う」


 分岐点を先ほどとは逆方向に進んできたハク達。ハクとラドは、時折聞こえてくる男達の会話を聞きながら、おおよその距離感の検討をつけていた。

 ラドの一声で、より一層緊張感を増すハクとレント。


「お、おい……。でも、どうやって助けるんだ? 相手は誰だか分からないけど、大人なんだろ? それに、複数いるんだろ?」

 いつもは自信家で見栄っ張りのレントだが、実際の荒事を目前に控え、すっかり弱気になってしまっている。


「大丈夫、僕たちも複数だ。それに、少しなら作戦もある。……それには、レント。君の火の術法が必要だ」

「なっ……」


 ラドは少し自信ありげにそう言うと、困惑しているレントとハクに作戦の説明を始めた。

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