第15話ベルセルク編 パンサー装備

 南欧風洋館に引っ越した日以来二階は怖くて覗いていない。もちろんどんな服があるのかもチェックしていない。

 二階のタンスにある服を見れば、どのような服が目立つのかは分かるとは思うが、どんなデザインが並んでいるのかと思うと戦々恐々として足が竦むのだ。

 竜二は我ながら重症だと思いつつも、復帰前に比べればまだマシだと自分を慰める。


 竜二は会社のオフィスに一人残っている。昼食の誘いを断りスマートフォンでチェックしたいことがあったからだ。もちろん、ドラゴンバスターオンラインのことだ。

 ドラゴンバスター公式サイトには以下のようにデカデカと新情報が記載されていた。


<秋の大型イベントの告知>


イベント第二弾パンサー装備!迷彩装備!


・公式イベント第二弾

難易度10「雷神の王狼」を討伐せよ。

期間中「雷神の王狼」の討伐をすると1ポイント付与されます、ポイントは素敵な景品と交換できますので、皆様こぞってご参加下さい。


・イベント期間:二週間


・100ポイント

パンサー装備(男女)

・50ポイント

パンサー色の染料

・20ポイント

パンサー机、椅子、タンスから一つ


※パーティ、ソロでの討伐どちらでも1ポイントづつ付与されます。

※男女装備はどちらでも選べます。装備はプレゼントボックスに入った状態で配布されます。プレイヤー間の取引も可能です。


難易度10「暴帝」を討伐せよ......

......

...


 パンサー装備がカッコイイ!竜二は過去の憧れの俳優が着ていたデザインに似ているパンサー装備に心を持っていかれる。あれ?このシチュエーションいつかあったなと竜二は少し既視感を感じるものの、すぐにパンサー装備の魅力でそのことは記憶の彼方へ追いやった。

 パンサー装備は、以前あった革ジャンのハードボイルドな雰囲気に似ているハードコアな少し世紀末風味が入った装備だ。


 「雷神の王狼」と「暴帝」は前回のイベントと同様に、二週間前から練習モードが解禁となる。そこで練習をしてから本番へ挑んでくださいというわけだ。

 「雷神の王狼」は難易度10ボスと発表されているだけに過酷な戦闘が予想される。ゴルキチ単独で倒せるか非常に不安だがやれるだけやってみようと思う。またリベールに頼ると専用掲示板だけではなく他の掲示板まで盛り上げてしまうことが予想される。

 自意識過剰かもしれないが、安全に安全を重ねることは悪くない。


 もう一つの問題もある。

 もし、リベールで狩った場合また変な風に足元を掬われないかだ。取るだけ取って、周囲の目のお陰で、パンサー女装備をもらうようなことがあってはならない!あってはならないのだ!

 パンサー女装備は、ビキニのようなヒョウ柄のデザインであるが、耳と尻尾が付いている。こんな装備をリベールでしようものなら、ぺったんが目立つだけでなく、耳と尻尾のネタまで提供してしまう。ますます注目を集めるような墓穴は掘ってはいけない。


 ゴルキチで困難と判断する場合、何としても装備が欲しくなりついリベールを頼ってしまうかもしれない。その時がないと思いたいが、リベールで討伐した場合でもパンサーの「男」装備を取るように理由を考えておいたほうがいいと竜二は思案する。

 思案するも、理由付けは非常に難航することになるのだが......


 余談ではあるが、「雷神の王狼」と違い「暴帝」はレイドボスと言われる特殊なボスになっている。ほとんどの攻撃が即死攻撃となり、体力も大幅に強化されていて、通常ボスと違い「暴帝」はパーティごとに出現しない変わりに、与えたダメージは「暴帝」が倒れるまで回復することはない。 何度も何度も挑んで倒すタイプの特殊ボスだ。独占を防ぐため、プレイヤーが死亡しなくても10分でボスエリアから追い出され、かつ一度挑戦すると一時間は再挑戦できない。

 また、「暴帝」のシンボルは動き回り、誘導し戦闘エリアを選ぶことも可能だ。戦闘開始時の地形によってボスエリアのフィールド内容が変わるのだ。

 「暴帝」討伐時には、与えたダメージによってポイントが振り分けられ、後からアイテムと引き換えることが出来るのだ。


 ボス討伐としては、「暴帝」のほうが楽しそうだが、竜二の欲しいアイテムはパンサーの男装備のみだ。以前の革ジャンのように、有名人が着ていたハードコアな感じのパンサー装備はぜひ欲しい。

 なので、「暴帝」討伐は余力があればやってみよう。レイドボスの導入は初めてのことだから。


 今回も練習モードが解放され、しかも期間は長めの二週間あるので、「雷神の王狼」と「暴帝」のマクロ作成とゴルキチの操作練習は共にこなすことができるだろう。



 練習モードが開放されるとすぐに竜二は「雷神の王狼」と「暴帝」に挑戦することにする。


 「雷神の王狼」は、名前の通り狼をベースにしたモンスターであるが、雷神という名に反して蒼い体毛が薄らと輝いていて、大きな鈎爪を持つ。口から伸びたサーベルタイガーのような牙、目は紅く輝き獰猛な薄く青に光る吐息を吐いている。


 さあ挑戦だ!竜二はとりあえず様子見でセイラーのままのゴルキチで「雷神の王狼」のボスエリアへと移動した。

 ボスエリアは思わず見惚れてしまうような風景だった。中秋の名月が空に光、それと合わせてだろうかフィールドにはススキが生い茂っている。ススキの穂先は膝上まで来る高さで視界を遮るものではない。


っ!


 何が起こったか分からなかったが、ダメージを受けボスエリアを放り出されてしまった。


 後ろからやられたか!今度は職業をソードマンへ変え、昔作ったレア防具と片手剣に盾のスタイルで望むことにした。片手剣に盾のスタイルは一番オーソドックスなスタイルと言われている装備で、攻撃力は落ちるが盾があることで防衛に優れ、相手の様子を見るにはちょうどよい。


再度、お月見エリアへ入場し、「雷神の王狼」をしかと見据えるゴルキチ。

すると、「雷神の王狼」の姿がブレた!バックステップしたと思うと突然視界から消失する。


上か!


 ゴルキチはそう判断し、真後ろに盾を構えると、「雷神の王狼」の後ろ足が盾に当たる。そのままさらに跳ねる「雷神の王狼」はゴルキチの盾を足がかりに回転し次は前足での攻撃を行うものの、ゴルキチはサイドステップでそれを回避する。

 まだ「雷神の王狼」の攻撃は終わらない!前足が着地すると再度跳躍し、ゴルキチの背後に回ろうとする。ゴルキチは冷静に後ろへ剣を突き出すが、「雷神の王狼」は器用に体躯をひねり回避すると、蒼い体毛が一気に光輝く!


放電か!


 盾でかろうじで防ぐものの、スタミナをごっそり削られるゴルキチ。蒼く光輝いた「雷神の王狼」は時に強烈に発光し、フィールドに雷のトラップを作る。これに触れるとダメージは受けないもののしばらく動けなくなってしまう。


 こいつはタフだなとゴルキチは呟き、いったん練習モードを終わらせた。


 竜二は「雷神の王狼」の分析を進めながら、「雷神の王狼」の強さはさすが難易度10だと感嘆せざるを得なかった。以前やった「黄金獅子」に似たところがある。とにかく体が柔らかくダメージは爪以外はどこに当てても通るが、攻撃のラッシュが凄まじい。

 「黄金獅子」は緩急があったが、「雷神の王狼」はまさに疾風怒濤だ。その分、攻撃力は「黄金獅子」には劣るか。ゴルキチでの攻略練習は繰り返すとして、リベールのマクロも作成し始めよう。

 リベールのマクロ研究は、ゴルキチでの攻略にも繋がるから。と思い竜二はリベールをログインさせる。


 リベールの今の職業はフェンサーだが、今回は時間があるのでさらに攻撃力のある職業を選びたいと思う。そうすることで時間短縮に繋がる。

 グラディエーター、近衛騎士、ベルセルク、ウィザード、グラップラーなど多数の特化職業が準備されているが、今回選んだのはリベールのプレイスタイルと相性のよいベルセルクだ。


 ベルセルクは狂戦士と翻訳される職業で、狂化して操作不能となるとゲームにならないので、他の職業より攻撃力のボーナスがある。

 ベルセルクは、他にも攻撃力の上がる職業や、相手の硬いところへのダメージが増える職業があったり千差万別あるものの中では最もオーソドックスなものでただ純粋に攻撃力が1割り上がり、その分防御力が下がる。


 しかし、他の特別なスキルは無く、武器は両手斧のみに限られ、防具も金属鎧は装備不能になる。とはいえ、ドラゴンバスターオンラインでは様々なモンスターの鱗や骨、毛皮があるので装備選択肢は減るものの不足はしない。最もどうしても防御力は減るが。

 リベールはそもそも防具を余り必要としないキャラクターなので、防具は問題ない。両手斧はレンジの長く、振りの遅い武器で、槍に比べると攻撃回数が少なくなる代わりに一発の威力があがるといった武器である。


 竜二は差し当たり、手持ちに両手斧がなかったので適当に一つ作成し、リベールで「雷神の王狼」へと挑みはじめた......


※竜二、そろそろ学ぼう。イベント品に手を出すと痛い目にあうってことを。

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