第13話 プレゼント編 家は気合が入り過ぎていた
ドラゴンバスターオンラインの家システムは非常にカスタマイズ性が高い。これだけで一つのゲームとして成立するほど気合の入ったシステムで、家のカスタマイズだけを行う家専と呼ばれるプレイヤーも後を立たない。
家はモンスターの沸かないフィールドに建築が限られる。街の中には家を建築することはできないが、現在運営側では街にアパートを実装すると発表している。というのは、フィールド上に家を設置できる場所がだんだん少なくなってきているからだ。
一時的処置としてドラゴンバスターオンラインでは、一アカウントにつき家を一軒までと定められた。家の大きさはプレイヤー側で自由に定めることができるものの、フィールドの広さは限られているので、思うような土地に思うような家を建てるのはなかなか難しい。
家は何も平地にだけ建てれるものではなく、樹上、傾斜、浅瀬の上にでも建てることはできる。特殊な家ほど、建築者の腕が要求されるのだが、建築家たちはこぞってこういった特殊な場所へ建てることを好んだ。
家は誰からでも見ることができるので、非常に凝った家はプレイヤー間でも話題になり、ある種観光名所になっていた。
今ゴルキチが訪れているプレイヤーの家も凄まじく凝った造りをしている。巨木に縄梯子がかかっており、樹上に家が建っている。この家は平屋ではなく、巨木の構造に合わせて上へ上へと複雑に入り組んでいる。
よくここまで細かく建てれるものだとゴルキチは感心し、ツリーハウスを眺めるのだった。
「でだね、ゴルキチ君。家建築には大量の資材が必要なのは分かるかね?」
道化帽子にクルリンと巻いた髭の男が、緑の黒板らしきものをペシペシ叩く動作で、ゴルキチに講釈を垂れている。
なんで俺だけがこんな講義にと、ゴルキチはうんざりしながらも家建築の基本事項を聞かされていた。
「は、はあ。そらそうですよね。壁やら屋根やら資材はいりますよね」
「基本は木かレンガなんだが、ミスリルや龍の牙なんかも建築素材として使えるのだ」
龍の牙の家とか、とんでもない見た目になりそうだなとゴルキチは思いつつ、フンフンと頷いた。
フリー建築の建築素材はいくつか決められた形のパーツを組み合わせて家を作っていく。パーツの元となる素材は全て準備する必要があるため、家一軒建てるだけでも素材集めから、デザインから大変な作業になるのだ。
しょせんパーツと侮るなかれ、パーツの種類は1000を超える。これだけあればほぼ思い通りの家を作ることが出来るのだ。
一方、運営側の準備した家を建てる場合はお金を支払うだけで家がすぐ建つのでお手軽だ。
「じゃあ、俺は素材集めを手伝えば良いですか?」
「ぜひ頼む。他の皆とも協力して集めてくれたまえ。集めたものは表に設置してある宝箱に分けて入れておいてくれたまえ。素材には家具職人分の素材も含まれているからね」
「了解しやした!」
敬礼のモーションを行いつつ、ゴルキチはそう答える。
ドラゴンバスターオンラインの家具製作は、家具レシピと言われるレシピを元に、例えば、タンス(小)とか座椅子などを作成するのだが、作成段階で様々な素材を使え、作成後に製作者のオリジリティを出すために加工というコマンドを使って細かく調整できる。
さきほどの例なら、家具レシピでタンス(小)を作成後、加工で花柄を入れたり、色を変えたりするといった感じだ。
今回、リベールたんの家建築計画の大きな目標の一つに、「全ての素材は新しく自分たちで集めること」というのがあった。また家建築は二名、家具製作は三名に全て任せることになった。
他の人は完成まで秘密というわけだ。このやり方はゴルキチにとって幸いだった。それは、他のプレイヤーと距離を置くことができたのと、毎日建築の様子を見せられずに済んだことだった。
とんでもなく大人数でリベールたんの家建築がされていることに毎日恐怖するゴルキチではあったが、家建築は順調に進んでいく。
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[お家つくるよ!]少女騎士リベール その169ぺったん
152.名無しのジャッカル
家素材班完了だ!
154.名無しの家専
>>152
乙
155.名無しのテイラー
>>152
乙
156.名無しの魔法少女
>>152
乙
私はこのために転職した!大工やるわよ。
158.名無しの家専
>>156
期待!!
160.名無しのドラゴン
リベールたんのためと始まったものの、やってみると楽しいw
162.名無しのバスター
同意
166.名無しのテイラー
なんかイベントやってるみたいで、目的忘れて楽しんでることもあるわねー
168.ぺったんマスター
俺になんで服を作らせてくれないんだ?
169.名無しのテイラー
>>168
男キャラクターだし、君が作ると不穏なものを感じるから。
170.ぺったんマスター
なんでこうなったー!!!
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リベールは誰ともフレンド登録していないので、連絡を取ることは基本困難だが、必ず自宅でアイテムの入れ替えや調整を行うので、自宅で張っていればいつか出会うことができる。
今回は「天空王」を狩っていたので余計見つかる可能性は高かったのだが......
「リベールさん!」
待ち構えていた魔女帽子に捕まるリベール。リベールとしては、いずれにしても魔女帽子ら三人にはお礼を渡すつもりだったのでちょうど良いといえば、ちょうど良いんだが......
魔女帽子に引っ張られて郊外へ移動するリベール。連れてこられたのは、なんと港町ジルコニア郊外の海岸線沿いだ。
港町ジルコニアに近ければ近いほど、人気の土地となり希少価値と利便性が高く、プレイヤー間で取引される場合結構な金額になる。街への街道沿いは誰しもが通る道で、売り子NPCを置くには最適なので特に人気がある。
次に人気があるのは景観のよい土地だ。海岸線は水上コテージのような作りにすると船も横付けできることもあり特に人気が高い。
リベールの中の人竜二は、まさかこんなよい土地に家が建っているのかと頭がクラクラしてくる。
「リベールたん!」
「リベールさん」
「リベール殿」
そこには数人のプレイヤーが待ち構えていて、リベールを歓迎する。
「リベールさん、私たちリベールさんへのプレゼントに家をつくったの。どうかな?」
正直、予想以上にすごい。
海岸線から純白の桟橋が伸び、水上コテージへと続いている。水上コテージはタヒチやカレドニアで見るような木製の藁葺き屋根ではなく、南国風の洋館のようだった。
白い壁に白いアーチが巧みに使われている二階建ての家だ。家の前にはヤシの木が植えてあり南国モードを演出していた。
「え、私が......これを......?」
予想の斜め上を突き抜けていて言葉が出ないリベールに、歓迎した面々は首を振って肯定する。
「いや、こんないいものを貰うわけには......むしろ私は先日の法螺貝のお礼を持ってきたくらいなんだ」
二歩、三歩と後ずさりながらリベールは大きな袋を床に置く。
「リベール殿、法螺貝は皆楽しんでいたのでお礼とかは無しですぞ」
芝居がかった口調で世紀末風の男――ジャッカルはリベールに応じる。
ズズイと全員が迫ってくるので、なんとかせねばとリベールは焦る。
「わ、私には藁葺屋根の家があってだな」
「引越しボタン押せば全部のアイテムはこっちへ移動するのよ」
魔女帽子がリベールに迫る。
「引越し用のインベントリは多数用意しておりますぞ。アイテムロストはありませんぞ。ささ」
ジャッカルがリベールに迫る。
引越し用のインベントリとは、家が一軒までしか持てないため、家を譲り受ける際に使用するアイテムボックスである。あらかじめ引越し先にインベントリを準備しておけば、引越し元に溜め込んでいたアイテムは全てそこに自動で移動する。
また、引越し後はアイテム置き場としても使える優れものだ。
「リベールたん、どうぞ」
ニコーっと満面の笑顔で家の権利書を手渡してくるメイリンに、リベールは観念するしかなかった。
「あ、ありがたく受け取せてもらうよ。で、でもこんないいところ住めないよ」
後半思わず素が出てしまったリベールだった。
リベールは権利書を受け取り、「天空王」の素材が入った袋を「お礼」とだけ呟き走り去ってしまった。
その様子をニヤニヤと見守る方々。今日も掲示板が盛り上がりそうだ。
余談であるが、リベールが家の中を覗き驚愕するのはこのあとすぐのことだ。
※落とすとこまで落としてやるぞ。By作者
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