第89話 第三の巨人
「こっちでいいのねサファイア」
『はい、こちらの方向から特に強い反応があります』
効率よく目的を達成するために二手に分かれたシャルロットたち……こちらベガとサファイアのコンビは第三の巨人が眠っていると思しき海岸線を散策していた。
「アタシ達が元居た世界でもあなたの妹さんはこの島に居たのよ、もっとも既に身体が朽ち果てていて機能していなかったのだけれど」
『そうでしょうね、私もあちらではこの子ほ反応は感知できませんでしたから』
「やっぱりあなたたちも姉妹に再会できることは嬉しいのかしら?」
『どうでしょうか……そういった人間的な感情は今の私にはまだ理解できません』
「そう……悪かったわねおかしなことを聞いてしまって」
『いえ、私もシャル様やあなた方のように笑ったり怒ったりしてみたいといった願望はあります』
「願望ね……あなたはもう十分感情を持っていると思うのだけれど」
優し気な視線でサファイアを見つめるベガ。
そんな時、サファイアの身体からけたたましい電子音が鳴り響いた。
『ベガ様、多数の魔力反応が私たちを取り巻いています……ご注意ください』
「姿が見えないわね……まさか」
突然砂地から何かが飛び出す、それも夥しい数の……それらは二人を円で囲うように包囲し始めた。
「あれは……タコ?」
何かの身体から砂が落ち始めて露出した姿は人間大のタコであった……しかも複数の足を使ってこちらに向かって歩いて来るではないか。
『陸ダコと呼ばれるモンスターの様ですね……恐らくは妹の発する救難信号の魔力に引き寄せられているのだと思われます』
「それで今度はアタシ達にターゲットを変更した訳ね……悪いけどあなた達、アタシの好みじゃないのよ」
『大した敵ではありません、すぐに排除しましょう』
「ええ、もちのろん」
ベガは魔法の杖を構えた。
そして数分後。
辺りはタコの焼けた香ばしい匂いが充満していた……ベガの炎の魔法、エクスプロジオンで陸タコたちは全て焼き尽くされてしまったのだ。
「パパならきっと喜んでこのタコの丸焼きを食べそうね」
デネブは以前、捨てられた世界で女王イカの丸焼きを食らっていたことがあったが、どうやらその悪食は随分前からの様だ。
『ベガ様、あちらを見てください……地面から何かが露出しています』
エクスプロジオンの余波で抉られた地面から何かかが顔を出している。
「どれどれ、この金属とも陶器とも区別がつかないものは……これって……」
色が黄色であることから間違いない、これは彼女たちが探していた第三の巨人に他ならない。
『ジャイアントモード』
サファイアの身体が見る見る見上げる程の蒼い巨人の姿に変わる。
そしてその大きな掌で次々と地面を掘り起こしていく。
「便利よね~~~あなたがいればお城の建設なんかもすぐに終わりそう」
『世界が平和になったらそういった活動もしてみたいものです……物を作るのは楽しいですから』
「フフッ、そうなればいいわね……きっとシャル様も喜ぶわ」
破壊の化身ともいえる絶望の巨人が平和について語りモノ作りが楽しいと言う……なんと革新的な事か。
それも全てシャルロットが起こした奇跡ともいえる。
ベガは改めてシャルロットの不思議な力に思いを寄せるのであった。
程なくして黄色い巨人の顔が現れる、最初に見えたのは頭に生えている角だったのだ。
こうしてみるとやはりどことなく巨人化したサファイアに造形が似ている。
大きく違うところは背中から肩にかけて生えている大きな筒だ。
これがサファイアが以前言っていた魔導砲なのだろう。
それからも更に掘削作業は進む。
「半分くらい出土したかしら?」
『はい、あとはこのまま上に引き上げます』
巨人サファイアが黄色い巨人の脇の下に手を回しゆっくりと引き抜く……徐々に全身を現す黄色い巨人。
しかし急激に手ごたえが無くなり、すっぽ抜けるようにスルリと黄色い巨人の身体が穴から抜けてしまった……予期せぬ事態に巨人サファイアも後ろに勢いよく倒れてしまったのだ。
「ああ、びっくりした……サファイア大丈夫?」
今の激しい振動で尻もちをついてしまったベガ。
『これは……妹の足が欠損しています』
巨人サファイアの上に圧し掛かっている黄色い巨人には足が無かった……正確には破損して大腿部から下の部分が欠損しているのだ。
念のため更に穴を掘り進めるが足にあたる部品は見つからなかった。
「どう? 妹さんの具合は?」
『魔導炉と魔導頭脳回路は生きています、休眠状態ではありますが……私の魔導炉と接続して再起動出来れば問題ないかと思われます』
「そう……でも問題は脚よね」
『はい、今は直すための材料も施設もありません……あの帝国と呼ばれていた土地の地下に行けば修理可能なのですが』
「ちょっと待って、あなた今さらっと重要な事を言ったわね?」
『皆さんにはお伝えしていませんでしたね、私の姉が眠る場所は私達巨人の製造施設でもあるのです』
「そういう事なら是が非でも帝国を奪還しないといけないって訳ね……面白いわ」
ベガは興奮していた……彼は魔導士でありながら探検家でもある、そのため未知の情報を集積したり未知の場所を探索することには心が躍る。
『取り急ぎ妹を再起動します……ベガ様、手を貸していただきますか?』
「いいわ……で、どうするの?」
サファイアの胸の一部のパネルが開き、太いケーブルがスルスルと伸びて来る。
『そのケーブルを妹の胸の同じ位置に接続してください』
「ここかしら?」
横たわる黄色い巨人の胸を見ると、丁度サファイアの胸と同じ位置にスリットがあり、ベガはそこに指を掛け蓋を開いた。
そしてケーブルを露出したアタッチメントに接続したのだ。
「これでいいのかしら?」
『はい、ありがとうございます……これから私は数時間身動きが取れません、ベガ様周囲の警戒をお願いします』
「オーケー、分かったわ」
そうこう言っているうちに再び砂地から陸ダコの群れが現れた。
サファイアの魔力が増大したのを感じ取ったのだ。
「さあ来なさい、みんなタコ焼きにしてあげる」
ベガは陸ダコに向かってファイアボールを放った。
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