第68話 二度目の冒険はチートで


 「さあ、出発しようか!!」


 言葉遣いを砕けた男言葉に戻し、身体を洗った後、元々着ていた服と鎧を装備しなおしたシャルロットとアルタイルは旅立つために城門に向かっていた。

 

 アルタイルの尽力もあり、シャルロットは晴れて自由の身になった。

 シャルロットが並行世界から来たもう一人の王子であるとの説明は中々骨の折れるものだったが、アルタイルの国内での信用度と発言力もあり半ば強引に釈放に漕ぎつけたのだ。


 そしてアルタイルと共に城を発つ直前の事……城門の前に二人の人物が待ち構えていた。


「シャルル王様!! エリザベート王妃様!!」


 アルタイルの声にシャルロットは目を疑う。

 目の前には紛れもなく彼女の両親が立っていたのだ。

 まさか自分たちに居もしない娘を騙った疑惑の人物に王と王妃が直々に会いに来るとは思っても似なかったからだ。

 即座に彼らの前で跪くシャルロット。


「シャルル王様、エリザベート王妃さまにおかれましてはご機嫌麗しゅう……」


「そんな他人行儀はよい!!」


 突然、大柄なシャルル王にガバッと抱きしめられた。


「お……お父様?」


「ああ……多少姿が違えどこの抱き心地、この匂い……間違いなく我が息子チャールズだ……」


「お父様……」


 頬ずりしながら滝のような涙を流すシャルル。

 シャルロットも父に応え、背中に手を回し抱きしめ返す。


「しかし別の世界では王女として育てられたと聞くが……確かに若いころのエリザベートに似て美しいな……娘というのも悪くない……胸もあるそうだがどうやって大きくしたのかな?」」


 シャルル王の頬が見る見る赤くなる。

 段々スケベおやじの顔になっていく。


「あなた!!」

「はいいっ……!!」


 後ろから見ていたエリザベートの一喝で気を付けの姿勢で直立不動になるシャルル。


「まったく……女装しているとはいえ実の息子に欲情する父親がどこにおりますか」


 額に手を当て呆れ顔でかぶりを振るエリザベート。


「お母様……」


「チャールズ……いえ、あなたはシャルロットでしたね……うっ」


 エリザベートが悲しみに顔を歪め、口を押え声を押し殺している……シャルロットは元の世界で母が自分に泣いた顔を見せたことがなかったことを思い出す。

 息子そっくりの自分を見て感情の抑制が効かなくなっているのだろう。

 それ程、行方知れずの息子チャールズを思っているのだと実感する。


「泣かないでお母様……」


「チャールズ……ううっ」


 今度はシャルロットの方から母を抱き寄せ背中を軽く叩く。


「必ずや魔王を討ち倒してもう一人の私、チャールズを助け出してまいります……待っていてください」


「ありがとう……シャルロット……」


 エリザベートが落ち着くまでしばらくそのままで抱き合っていた。




「こっちだよ、僕に付いてきて」


 城門を出た後、シャルロットがアルタイルを連れて現れたのは国のはずれの空き地だった。


「姫様、ここには一体何があるのですか? それにその子供用のドレスは何に使うのです?」


 シャルロットが背負っている荷物の中身は一着のドレスだった。

 城を出る前にシャルロットは女児用の青いドレスを所望した。

 これから冒険に出るというのに……。

 それにどう見ても彼女が着るにはサイズが小さい。

 アルタイルには不可解だった。


「ちょっと近道をしようと思ってね……これを何に使うかはすぐに分かるよ」


 とある一角でしゃがみ込み、地面の砂を手で払う。

 やがてその部分から人工的な石畳が現れる。


「ほう、こんな所に人の手が加えられた形跡があるとは知りませんでしたよ」


「僕も元の世界で偶然見つけたんだよ、その辺、足元が不安定だから気を付けて」


 シャルロットが恐る恐る石畳を足先で軽くつつく。

 すると石畳が崩れ、地中へと落ちていった。


「うん、僕の記憶通りだ」


 更に穴の周りを慎重に踏み抜き、穴を大きくしていく。


「ここに入るよアルタイル」


「ここは?」


「古代の遺跡さ、麓の遺跡は君も知ってると思うけど、ここから行ける最深部は今の時点では誰も踏み入ってないはずだよ」


「それは興味深いですね」


 勝手知ったる何とやら、一度ここを訪れたことがあるシャルロットはひょいひょいとどんどん下へと飛び降りていく。

 アルタイルはというと魔法力を放出してゆっくりと下降していく。

 程なくして二人は遺跡の一番下まで到達する。

 そして石で組まれた細長い通路を抜けて大広間に出た。


「この巨像は……巨人!? まさか文献にある古代の魔導兵器、『絶望の巨人』ですか!?」


「ご名答、さすがアルタイルだね」


 以前の通り、そこには青い巨人の像が台座の上に座っていた。


「また会いに来たよサファイア……」


 今や大切な仲間であるサファイア……あの謎の空間から出る時にはぐれてしまったが、無事だろうか……彼女のことを思い出し少しだけ感傷に浸り瞳が潤む。

 

「いや~~~これは大発見ですよ!! こんな時でなければじっくり調査したいところです!!」


 探求心の塊のようなアルタイルの悪い癖が出ないうちにシャルロットが次の行動に移る……鎮座している青い『絶望の巨人』に手を触れたのだ。

 直後、大広間自体が激しく振動を始める。


「うわわっ!! 何事です!?」


「大丈夫、すぐに収まるから」


 『絶望の巨人』がゆっくりと腰を上げて立ち上がった。

 今は前の様にシェイドがおらず、シャルロットの制御下に置かれているためそのままの姿勢で停止した。


「まさか、今のは姫様が動かしたのですか?」


「そうだよ、どうやらこの子たちは僕の反応を感知すると活動を開始するらしいんだ……でも心配はいらないよ、この子はもう僕の友達だから」


 以前、サファイアとのやり取りを今、まとめて一気にこなしたのだ。

 無論契約は完了している、呼び名はサファイアが戻って来た時に混乱しない様、アイオライトと名付けた。


「さあアイオライト、一度小さくなってもらえるかい?」


『了解シマシタ』


 ガシャガシャと金属音を立てアイオライトの全身の装甲が開き、次々と内側に折りたたまさっていく……相変わらずどこに収納されているのかは謎だが、やがて小さな少女の姿になった。


「よくできました、じゃあこれを着ましょうね……はい、両手を上げて?」


『ハイ』


 シャルロットが甲斐甲斐しくアイオライトにドレスを着せ始めた。

 はたから見ると仲の良い姉妹のようにも見える。


「なるほど、この子供状態の『絶望の巨人』に着せるためのドレスだったのですね」


「どうだい? これで僕がどれだけ冒険の経験を積んできたか理解してもらえたかな?」


「はい、あなた様が我々の知らない情報を多数有しているという事は理解しました」


「うん、まだ打つ手があるはずなんだ……だから僕は、僕の知りうる限りの情報を駆使してこの世界の魔王に挑むつもりだよ」


 凛々しい表情を浮かべ拳を握り締める。


「さて、ここでの用事は済んだからそろそろお暇しよう」


『出口ハ、コチラデス』


 以前はシェイドと戦闘になり、床を打ち抜いて落下してしまったが、今回はアイオライトの案内のもと、本来の通路を歩いていく。

 すると驚くほどすんなりと麓の遺跡まで行くことが出来た。


「今回は遺跡を破壊しないで済んだね、平和になったら好きに調査するといいよ」


「はい!! 今から楽しみですよ!!」


 遺跡を出るとそこはもうエターニアの国外だ。

 

「さて次は『グリッターツリー』に向かうよ、こちらのツィッギーはどんな感じなんだろう……会うのが楽しみだよ」


「『グリッターツリー』……ですか?」


「うん、何か問題あるかい?」


「いえ……」


 アルタイルが妙に歯切れが悪い。


「エターニアと耳長族に親交がないのは知ってるよ、でもそんなのは僕が何とかするつもりだけど」


「いえ、その点はあなた様にお考えがあると思っていますので口出しする気は毛頭ありませんが……」


「さっきからどうしたんだい? はっきり言って欲しいんだけど」


 どうも先ほどから要領を得ない……一体何がアルタイルを躊躇させるのか。


「『グリッターツリー』は数か月前の魔王軍の襲撃で焼き払われているのです、ご神木すら残っておりません……」


「何だって!?」


 アルタイルが口籠っていた理由……それはシャルロットにとって最悪のものであった。

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