26.実はチートじゃなかった
26.実はチートじゃなかった
世界は死に満ちていた。
元よりこうなる運命だったのだとしても。
他に道はなかったのだろうか?
俺は彼らを見捨てた。
選択肢は2択。
何度同じ選択を迫られても選ぶものは変らないだろう。
ただ、2択以外の選択肢が欲しかった。それだけが残念でならない。
体をゆすられて俺は目を覚ました。
ここはどこだ?
「マサヨシ、大丈夫か?」
心配そうに声をかけてくる男性。見覚えがある。
えーと。――ああ、カイサルさんだ。
カイサルさんの名前を思い出した事で意識がはっきりした。
ここはハウスさん家の俺の部屋だ。
……あれ? なんで俺の部屋にカイサルさんや他のみんなもいるんだ?
ああ、休憩時間が終わって、会議再開かな?
でもそれなら、誰か一人が俺を呼びにこればいいのでは?
「みんな。何かあったんですか?」
「何かって――」
カイサルさんが呆れたような顔をする。
「お前と一緒にいたはずのスーちゃんが俺達のところに来たから、何かあったのかとこの部屋に来てみりゃ。お前が床に倒れてたからな。何事かと思ったぞ」
床?
おお、ベッドじゃない。
意識を失った時に転がり落ちたらしい。それで首の骨が折れてデッドエンドとかだったら笑えない。ラブコメ漫画とかではたまにあるシーンだが、ベッドの高さでも首から落ちたら普通に死ねるからな。
さて。その俺が気を失ったかいがあったかどうか。
俺はステータスを確認してみる。
………………。
えーと?
スーちゃんいってみよう。
………………。
あー、うん。予想通りだった。
いや、予想の斜め上だったんだけど、そこまでが予想通りだ。
問題無い。
……本当に問題ないのかな?
まぁ、大は小をかねると言うしな。
「おい、マサヨシ。本当に大丈夫か?」
おっと、いけない。カイサルさんに心配かける訳にはいかない。
「大丈夫です。それよりも聞きたい事があるんですが」
なぜなら。
「聞きたい事?」
いきなりだったからだろう。カイサルさんは怪訝な表情になる。
「アルマリスタのダンジョンで一番稼げるのは〈赤い塔〉で合ってますよね?」
何しろ、カイサルさんにはこれから心配かけるんだからな。申し訳ないけど。
〈赤い塔〉。アルマリスタにおいて唯一の階層型ダンジョンにして、最高難易度のダンジョンでもある。
分岐型のダンジョンが分岐路で枝分かれし、出口が複数。対して階層型は各階層に出口が一つだ。階層型は出口がダンジョンの外につながっている訳ではなく、次の階層への入口になっている。出口は分岐型と同じく守護者が守っている。
階層型ダンジョンの最大の問題は、保険である帰還石が使えない事だ。それに加えて分岐型ダンジョンでは基本的に魔物は有限だが、階層型ダンジョンの場合は守護者のような特殊な魔物以外は無限湧きという鬼仕様。これは魔力溜りが分岐型よりも濃いせいらしいが。
階層型ダンジョンから出るには最上層あるいは最下層の出口から出るか、一定階層毎に出口と一緒に出現する別の魔方陣から出るしかない。
〈赤い塔〉の脱出用魔方陣が出るのは5階毎。つまりは一度足を踏み入れたが最後、最低5回は守護者を倒さなければならない。
スーちゃん情報によると、〈赤い塔〉の過去最高到達階数は30階。その階が最上階かどうかは不明。なぜなら、〈赤い塔〉から生きて戻ったもので30階の守護者を倒せたものはいないからだ。
ちなみに30階まで到達した冒険者がどうやって帰って来れたのかというと、分岐型と違って帰路が消えたりしないので25階まで戻ったのだ。もっとも、魔物が無限湧きの為、戻るのも一苦労だったと思われる。
階層型ダンジョンの最終層に到達した者は不死の霊薬を手に出来るとか、どんな願い事でもかなうとか、すっごいうさんくさい噂はあるが、真偽はさだかではない。
別に〈赤い塔〉に限った話ではなく、他の街の階層型ダンジョンでも最終層に到達出来たパーティはほとんどいないんだそうだ。
まぁ、噂はともかくとして。サハギンクィーンの宝箱の例もある。もし最終層の守護者を倒した場合、相応のモノが手に入ると思っていいと思う。
だが、俺が必要としてるのはいかに価値があるかではなく、いかに金に換金できるか、だ。
獲物は〈赤い塔〉30階の守護者。ゴーレム宮殿と名付けられた様々なゴーレムが襲い来る最奥にいるミスリルゴーレム。名前の通り、ミスリルという金属でできた魔物だ。
ミスリルは鉱山タイプのダンジョンでも滅多に手に入らないレアな金属だ。ちなみにレアメタルだと意味が違うらしい。ややこしい事である。
希少価値に加えて、魔法具の金属材料としては最高ランクのものだ。需要は高いし、ぶっちゃけ現物として支払いにも使えるだろう。ミスリルの価値が高すぎるので、現物と引き換えに出来るような取引があるかどうかはあやしいが。
予想通りというかカイサルさんには止められた。
うん、分かってた。
〈赤い塔〉30階に到達して、25階まで引き返せるような人は早々いない。
その帰還したパーティ――。いや、それはもはやパーティと呼べるものではなく。生きて帰ったのは2人だけだ。カイサルさんとシルヴィアさん。他のパーティメンバーは全員ダンジョンで死亡したそうだ。そして、シルヴィアさんは右足を失って、冒険者を引退。
カイサルさんが止めるのは分かる。それは、地獄だったんだろう。守護者に敗れての撤退だ。魔物が無限湧きの為、4階下の脱出の魔方陣にたどり着くまで、どれだけの絶望と心が折れそうな思いを味わったのか。
だが、俺にはそれは分からない。分かってはならない。
他に手段が思いつかない。生き残りの村人達の件もある。エステル達を殺したのが見せしめの為ならば、生き残った人が殺される事はないと思うが。それは乱暴に扱われないという事ではない。
カイサルさんが止めるのは当然で、その権利もあると思う。だが、俺が従う義務はない。たとえ、カイサルさんの心を踏みにじる行為をしてでも、俺は行く。それが俺が選んだ選択だ。
で、だ。
〈赤い塔〉の入口前。俺は今、頭を抱えている。
カイサルさんが一緒に来るのはまぁ分かる。止められないなら、せめて一緒に。そう考えたんだろう。後、一つ約束させられた。まぁ、その件については、全部が片付いたら俺からお願いしようと思ってたのでいいだろう。
ハリッサさんとニコライさんも……。まぁ、あの場にいたからな。
もうちょっと危機感もとうよ、ハリッサさん。これから行くのって最高難易度ダンジョンだよ? そのちょっと素材取りに行くみたい感じで誘うのはどうなの。
そして。
「なんであなたがここにいるんですか」
聞くと首を傾げるニーナさん。この人の場合、からくり人形みたいにカクッってモーションなので怖い。
左右の手にサイズの違うカマを装備。ああ、ダークソウル3の
「あなたに何かあったら、賢者ギルドが困るでしょう」
「許可はとってきました」
俺の説得はあっさりと撃墜される。
ダメでしょ、賢者ギルド!? 何してんの。たとえ祟られたとしても、止めなきゃいけないでしょ!!
「自分の身は自分で守りますので大丈夫です。それにみんなもいますし」
この人の場合、
「それにマサヨシさんがカイサルさんを説得した言葉。危険を承知で進むのは冒険者の権利だって。それを言ったマサヨシさんが私を止めるのですか?」
いや、あなたは冒険者じゃないでしょう。――と言っても無駄なんだろうなぁ。
俺は思わず頭を掻いた。カイサルさんみたいだ。クセがうつったか?
仕方ない。幸いというかなんというか。最悪、全員を守れるだけの力を俺は手にした。なんとかするさ。
「分かりました。じゃぁ、行きますよ」
俺は改めて〈赤い塔〉の入口を見た。他のダンジョンと違ってここは魔方陣ではなく、その名の通り赤い塔型の建物になっている。もっとも、外観と内部の広さは違うらしいが。
カイサルさんが挑戦した時は30階まで三日かかったらしい。が、俺はもちろん、そんなにかける気はない。
最速で突き進む。
こうして俺達の〈赤い塔〉攻略が始まった。
最速でと言ったばかりだが、低層では俺は様子見状態だった。
理由は戦力分析の為だ。敵。そして味方の。
かつて30階まで到達したカイサルさんはともかく、他は足を引っ張るようなら、容赦なくプライドを叩き折る真似をするつもりでいた。死なずに済むなら、プライドの一本や二本は耐えてもらおう。それで憎まれるなら――それでもかまわない。
だが、俺は彼らを過小評価し過ぎていたらしい。《自由なる剣の宴》の面子はカイサルさん以外Cランク。だが、一口にCランクと言ってもピンキリである。その
今もヴィクトールさんが、フレイムハウンドの群れをラッセル車よろしく、【盾:防壁】で押し返し、壁で押しつぶしている。
……あれって防御スキルなんだよな?
ヴィクトールさんの突進から免れた残りも、【暗技:隠遁】を解いたハリッサさんの【短剣:スラッシュ】により葬られていく。【暗技:隠遁】はハウスさん家で見せてもらった認識阻害スキルだが、獣系の魔物にすら気取られないところに、ハリッサさんの能力の高さを物語っている。
だが、ハリッサさんの恐ろしさは【暗技:隠遁】でも【特殊:第六感】でもなく。実は【短剣:スラッシュ】こそが彼女の武器だった。
〈赤い塔〉行きの参加を渋った俺に明かしてくれたのだが、彼女は3種類のスラッシュを持っている。
【戦技:スラッシュ】
【暗技:スラッシュ】
【短剣:スラッシュ】
別系統で同じスキルが存在するのは知っていた。実際、俺のスキル【召喚魔法:召喚】は、ゲートさんの【種族:召喚】と同じ効果のスキルだ。
だが、同じ効果で別系統のスキルを揃えるとどうなるかは知らなかった。
結論から言えば、どのスキルを使っても効果は同じだが、威力が上がるらしい。それも乗算レベルで。
単体攻撃スキルなので、物量攻撃には弱いが、カイサルさんですらその威力には届かないそうだ。――なんで、この人Cランクやってるんだろうな。やっぱり、性格が問題なのかな?
カイサルさんは安定している。十の姿を持つ魔法具を様々に変化させ、魔物を倒していく。まぁ、30階まで到達したこの人が低層で苦戦するはずもない。
前衛がこの調子なので、後衛組はあまり出番がなかった。
そういえば、リズさんがいつぞやの話に出た【弓:三連】を使っていた。字面から矢が三つになるのかなとか思ってたらその通りだった。ただ、それが三つともホーミングするのまでは予想してなかったけど。
ハリッサさんが彼女を呼んだのは、恐らく火力としてより
俺とニコライさんは、共に観戦組。
いや、だって本気でやる事ないんだもん。守護者を瞬殺とかされるような状態で何をしろと?
後、ニーナさんも待機してもらってる。
いや、この人。冒険者じゃないんだし。賢者ギルドの重要人物みたいだし、怪我されても困るわけで。さすがに面と向かって言えないので、手が足りなくなったらお願いしますとだけ言ってある。
ちなみにスーちゃんがいるのは当然として、ケンザンも召喚してる。ただ、俺が参戦する時は追加を召喚するつもりだ。
そんな状態で10階の守護者を突破。途中で魔物の素材取りは行わない。お金の為に〈赤い塔〉に入った訳だが、ミスリルゴーレムの事を考えると、正直微妙。今のミスリル相場だと誤差レベルにしかなんない。
そして11階から様子が変わり始めた。急に魔物のランクが上がったのだ。
あらかじめカイサルさんから警告は受けていた。10階よりちょっと強いくらいのつもりで11階に入るとエライ事になる。
――ここで終わっちゃった冒険者も少なからずいるんだろうな。
なんて感傷に浸るのは先人に失礼なんだろうね。冒険者は危険を承知で進む権利はあるが、そこで終わってしまう覚悟を持つ義務もあるんだから。
そして、ここからパーティのフォーメーションが変化。
まさかのカイサルさん後衛。さらにリズさんが前衛に。
最初は当惑したが、カイサルさんが、武器を以前に見たクロスボウ型のスリングに変化させて、爆裂玉を次々と射出する。
巨大こうもりの魔物であるアークジャイアントバットが次々と直撃や、爆発の衝撃で落下する。例え直撃しなくても落下したらこんがり焼けます。前衛は無傷。ヴィクトールさんの【盾:防壁】でハリッサさんと共に火炎と爆風を防いでいる。
後、リズさんが空飛んでる。いや、見間違いじゃないよ。正確には跳んでる、かな?
何もないはずの宙を蹴って、さらには地面にアークジャイアントバットを蹴り落とす。さてはこの
このあたりから、スーちゃんとケンザンも投入。といっても準備運動みたいなものだけどね。別にこの面子に隠すつもりはないけど、火力過剰にする意味もない。
カイサルさんのクロススリングも、範囲攻撃というよりも魔力を温存してるっぽい。
そして、14階までの守護者はリズさんに蹴り殺される。
胸と反比例するかのごとく火力が大きすぎる。実は前衛なのか、この人。って、うぉ!? 弓での接射までこなしてる。なんでもありだな。
まぁ、味方が強い事にこした事はない。喜ばしい事だ。
うん、強いのは良い事のはずなんだけど。
ニーナさんがいつの間にか前衛に混じってる。
一応、スーちゃんの分体に見張っててもらってたのだが、気付いたら前衛にいたそうな。
今のスーちゃんの監視を抜けられるってどんだけよ……。
戦闘スタイルは相手の背後に回って
虫系の魔物はしぶといのが売りのはずだが、でっかいムカデであるジャイアントセンチピードを一撃で仕留める。リズさんですら何度も蹴っていたにもかかわらずである。
まさかと思うけど、あれって即死効果?
スキルとかステータスが当たり前にあるこの世界でも、即死なんて効果は伝説級のシロモノ。その存在の真偽は今も賢者ギルドで議論されているらしい……。けど、この人賢者ギルドの人だよね?
あー、うん。よく分かったよ。世界は広いんだ。
俺だけが特殊なんだと思ってたけど。そうじゃなかった。みんな異常なんだよ。おれの能力って実は
なんか悟りみたいなもんを開きつつ20階突破。ちなみにこの階の守護者を倒したのはニーナさん。
悪意の霧、イビルミストを普通に切り殺しました。
やっぱり、おかしいよ……この人。
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