18.新たな選択肢

18.新たな選択肢






 とりあえず、謎お告げの件は置いておく事にした。

 それに気をとられて同じ轍を踏む訳にはいかないし。


 ふと、ソードレギオンがいつまでもいる事に気付いた。

 あれ? 他の連中はどっかに消えたのにな。

 どうやら、何か用があるらしい。

 それを聞く前に、名前をつける事にする。他のはスケルトンに使わせるつもりだったし、何よりも数が多いので名無しのままだったが、せっかくのユニーク個体だ。


 ケンザン。漢字にすると剣山。いつものように本人(?)以外の苦情は受け付けません。


 さて、改めてケンザンから話を聞く。さっき、スーちゃんにやられた影響か、ちょっとヨタヨタと危なっかしいのだが……。俺、回復スキルないんだよね。それ以前に普通の回復スキルが通じるのかも疑問だが。一応、致命傷じゃないっぽいし、大丈夫だろう。

 で、用件は。


 ん? 仲間が他にもいる?


 どうも、ケンザンの仲間も一緒に契約して欲しいそうだ。仲間というとフライングソード? それとも他のユニーク個体かな?

 まぁ、俺は契約数無限だから、特に問題ないよな。


 俺が了承するとケンザンが通路の奥へと飛んでいく。たぶん呼びにいったんだろうな。

 カイサルさんに事情を説明し、休息を兼ねてここにしばらく留まる事となった。

 そして、およそ30分後。

 ケンザンは戻って来た。


 大量の魔物を引き連れて。


 さすがにこの量は予想外だったよ。うん。通路がぎっしぎし。

 ケンザン。君、お友達多いね。

 冷や汗をかいてる俺にカイサルさんが話しかけてくる。


「本当に全部と契約するつもりか?」

「まぁ、その。言っちゃいましたしね」


 ケンザンとしては同僚(?)が倒されるのは心苦しいものがあったのだろう。それぐらいなら、一緒に行こうぜ。な感じか?

 様々な武具系魔物が勢ぞろいだ。これにあわせてスケルトンを召喚したら、ゲートさんが過労で倒れるんじゃね? ってくらいいる。


「……守護者までいるんだが」

「はい?」


 ヴィクトールさんの視線を追うと、武具系の魔物が並ぶ中、異彩を放っている連中がいる。巨大な絵画、椅子にテーブル。そしてティーポット。どれも目があったり口があったりするんだが。

 別荘地下の終着点は豪華な客室風の部屋になっており、守護者は家具の形をした魔物。ちなみにその部屋の魔物以外の家具のうち数個は呪われている。どれが呪われているかはランダム。依頼の品はその呪われた方の家具だ。どうも、そういった呪われた品のコレクターが結構いるらしい。理解は出来ないが、そういった人達へんじんもいるから冒険者は食っていけるのだ。

 で、守護者がここにいるという事はだ。最奥の部屋は空じゃね? いいのか、それ。

 口はあるが、会話が出来ないようだ。何の為の口だ。あ、食うためか。

 仕方ない。範囲を目いっぱい広げて。発動。



【契約魔法:召喚契約】



 一応、この世界には念話テレパシーのようなスキルがあるようだが、あいにくと俺は使えない。

 ただ、契約が受け入れられないまでも、保留中なら意思のやり取りが出来る。

 出来るのだが。全員契約出来たよ。あっさりと。守護者まで。

 お前ら、本気でいいのか。ここ守ってたんじゃないのか?


 え? なんとなく? 気分?


 えーと。どうやら、この人(?)達。どうもここに来た人達冒険者を倒さなければならない。そんな感じの緩い義務感でここにいたらしい。うん。緩いんだ。目的がなかった頃はともかく、ケンザンからこの人(つまり俺)について行こうって言われて、現場放棄しちゃうくらいの緩さ。なんかゲートさんと通じるものがあるなぁ。やっぱ、人為的なもの感じちゃうよな。

 でも、他はまだしも守護者が最奥放棄するのはありなの?


 私達がいなくなっても代わりがいる?

 お前らもゲートさんと同じか。


 ま、もういいや。後で拠点ハウスさん家になる所で召喚するから。解散して。


 そして、魔物達はどこかへと消えていく。まじでどこ行ってるんだろーな。


「終わりました」


 魔物がみんな消えたので、一目瞭然な気がしたが一応報告。

 カイサルさんは釈然としない表情で聞いて来る。


「あれ全部と契約したのか?」

「はい」

「守護者も?」

「一応、大丈夫なのか確認は取りましたが、大丈夫との事なので」


 意思確認って大事だよね。

 カイサルさんは顔を手で覆った。


「いやいやいや。ありえねぇって。あれだけの数の魔物と一度に契約。しかも守護者までって。Bランクの召喚魔術師でも無理だぞ。いや、例えAランクでも――」

「まぁまぁ。DランクだからOKという事で」

「んな訳あるかぁ!」


 怒られた。軽いジョークだったのだが。

 頭痛を堪えるような表情でカイサルさんが、《自由なる剣の宴》のメンバーに言った。


「ここで見た事は口外無用だぞ。分かったな」


 みんなコクコクと頷く。

 すいません。ご面倒かけます。



 それから最奥の部屋にいくと、すでに出口につながる魔方陣が出ていた。


「前に来た時は、部屋の中が酷い有様だったのにね」

「部屋の中で戦ったからな。ドアも閉められた状態だったしな。外に誘い出せれば、また違ったんだろうが」


 ヴィクトールさんとリズさんは感慨深そうに部屋を見渡している。

 ハリッサさんは部屋をちょこちょこ移動しながら、家具を観察している。何か目的がありそうな行動だけど。もしかして、【特殊:第六感】で呪いの有無が分かるのか?

 視線でカイサルさんに問う。


「ハリッサは【無:鑑定】スキル持ちだ。物の価値が分かる。呪いの有無もな」


 便利スキルだな。無系統なら俺でも覚えられるかな?


「見つかったか。ハリッサ」

「はーいっす。これとこれですねぇ」


 ハリッサさんが寄って来る。って、呪われた品を素手で持ってるよ、この人!


「ハリッサさんっ、それっ、それっ!」

「マサヨシ、どうかしたっすか?」


 燭台と膝掛けらしきものを抱えたまま、小首を傾げるハリッサさん。


「それ! 呪われてるんですよね!?」

「平気っすよ。レジストポーション飲んでるっすから」


 レジストポーションとは特定の耐性をあげるポーションお薬の事である。今回の場合、呪いに対する耐性をあげるものを服用済みだという事だと思うけど。


「それって耐性があがるだけで絶対じゃないでしょ?」

「心配しすぎっすよ。万が一呪われても、神明様の教会で解呪してもらえばいいんだし」

「そういう問題じゃないでしょ!?」


 俺はカイサルさんを仰ぎ見るが、彼は残念そうに首を横に振った。


「諦めろ。ハリッサはそういう奴だ」


 それで済ませていいの!?


 カイサルさん以外も慣れているらしく、誰もハリッサさんの行為を咎める人はいなかった。



□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□-□



 ダンジョンを出るとすでに陽は落ちていた。

 ダンジョンと行き先によっては、中で夜を明かすという事もあるそうだ。

 冒険者ギルドの事務業務はとっくに終わってるはずなので、そのまま剣の休息亭に帰る事になった。

 依頼品の呪われた家具はカイサルさんに預かってもらって、明日依頼完了の報告と共に引き渡してもらう。俺の分の報酬はギルド預かりにしてもらうようお願いしている。

 夕食を早めに切り上げて部屋に戻る。スーちゃんに抱きつこうとするリズさんと、俺に絡むハリッサさんを振り切るのは大変だったが。



【無:ステータス解析】


 所有

  召喚師強化パック


 実績

  職業パックを使用

  召喚師

  連携を意識

  はじめてのダンジョン

  慈悲をかけた



 ステータス表示内容は変更可能。そして、初期設定デフォルトでは表示されない項目もある。

 別荘地下の謎お告げに関する事もそれだ。


 実績、そして召喚師強化パック。


 実績は何らかの条件を満たすと達成させるものっぽい。それ自体はいいのだが、問題なのはどうやらこれは俺だけのステータスらしい事だ。図書館で調べた限り、そしてスーちゃん情報を検索した限りでは、実績なんて項目はステータスにはない。


 所有も同様に本来はないはずのステータスだ。


 あるはずのない項目なのもあれだが、それが機能しているのも問題だ。

 実績は達成する度にスキルを取得したり、今回は召喚師強化パックという訳の分からないものが追加された。

 所有に関しては、恐らくかつては職業パックがここにあったのだろう。俺が召喚師というユニーク職業に就いているのは、それのおかげだ。通常ならば、職業は訓練と適性によって手に入れるものだ。


 なんなんだ? いったいこれは。


 ある程度折り合いをつけたつもりだったのに、改めて現実を突きつけられたように感じる。

 俺は別世界の人間だ。だから、他の人間とは違う部分がある。それは分からない事もない。だが、この誰かがお膳立てしたような感じはなんだ?


 職業パック?

 万能言語?


 ああ、もう一つあったな。



 あんたは何か知ってるのか。ヘルプさん。


『回答を拒否します』


 なぜ?


『設定された禁止事項に触れるからです』


 ……つまりは設定した誰かさんがいるって事だな?


『回答を拒否します』


 そうかよ。



 俺はベッドに寝転んだ。不貞寝に近い。

 スーちゃんが心配するかのようにくっついてくる。

 ……あるいはスーちゃんとの出会いすら。




 いやいやいや。


 やめだ。やめ。俺はスーちゃんに助けられた。助けられてきた。何であろうとこれは事実だ。

 だったら、それでいいじゃないか。

 例えば、誰かの手のひらの上で踊っているとして、それがどうした。

 踊ってやるよ。華麗によ。それでいいじゃないか。




 俺は見捨てる事を選択した。だからここにいる。それでいいじゃないか。



 最後に考えた内容の意味に気付かず、俺は急速に襲ってきた睡魔に意識を奪われていった。








 翌朝、やけにスッキリした気分で目覚めた。

 何か頭の中にあった重苦しいものが転がり落ちたかのように。


 今日はどうする?


 冒険者ギルドへの依頼完了の報告と素材買取はカイサルさんにお願いしている。

 となるとやっぱりあれだな。


 召喚師強化パック。


 こいつを調べる必要がある。

 ただ、ここでやるとまずいな。なにせ、何が起こるのか分からないんだ。

 俺は外出用の冒険者服に着替えようとして、部屋着に着替えずに眠っていた事に今更気付いた。


 昨日はよっぽど疲れていたんだな。色々あったし。


 俺は思い出してため息をつきつつ、俺以外には見えないドアを開ける。ハウスさん家につながるドアだ。ハウスさんの【強化:隠蔽】によって、俺以外には見えないし、開けない。まぁ、ハリッサさんなら【特殊:第六感】で見つけられそうだが。……部屋に突入されないように注意しよう。

 俺に気付いたハウスさんが会釈をしてくれる。出会った頃と違って存在感があり、見かけは人間と変わりない。一見して精霊と見抜ける人はいないだろう。

 ここハウスさん家なら、誰かに迷惑をかける事もない。念の為にハウスさんにお願いして裏庭へ出してもらう。

 おっと、裏庭にはゲートさんがいたっけ。……まぁ、ゲートさんならたいがいの事なら大丈夫だろ。


 裏庭に出た俺は召喚師強化パック・・・・・・・・という言葉に意識を集中する。


 かつて、俺がこの世界に来たばかりの頃に見た、あの光のスクリーンが再び現れる。




 召喚師強化パックを実行しますか? Y/N



「イエスだ」


 光のスクリーンに一覧が表示されるが、かつてのような量ではない。



共闘型

砲台型

万能型

生贄型

召喚特化型

キャンセル



 何かひとつヤバげなのが混じってるんですけど……。

 そ、それはともかく、この内のどれかを選択すればいいんだろうけど、たぶんやり直しはきかない。それを考えると慎重に選択するか、あるいはどれも選択をしないか、だ。

 ……まさかと思うけど、キャンセルも選択肢の一つってオチじゃないよな?


 うーん。これ、ヘルプさんに聞いたら分かるのかなぁ。


『まず、キャンセルは普通に実行の取り消しです』


 あ、分かりますか。良かった。


『信頼されていないようですね。傷心はーとぶれいくです。好感度を5下げますね』


 うぇーい!

 それ、自分で下げられるのか!?

 それに好感度下がりすぎ! 残り何ポイント!? ゼロになったら何が起こるの!!?


『それぞれの型については簡単な概要なら説明可能です』


 好感度についてはスルー。でも、ちゃんと説明はしてくれるっぽい。

 お願いします!


『共闘型

 召喚契約した存在と共に自身も戦闘に加わるスタイル。

 現在の適性に加え、戦士系のスキル適性も備わります』


 うーん。どうやら召喚師強化パックというのは、召喚師という職業を単純に強化するのではなく、俺自身の強化が主体っぽい?



『砲台型

 召喚契約した存在を前衛とし、後方からの遠距離攻撃をするスタイル。

 現在の適性に加え、魔術師系全般のスキル適性も備わります』


 さっきのが戦士版で、こっちは魔術師版ってところか。

 とりあえず、次お願い。



『万能型

 あらゆる系統のスキルの適性を獲得します。

 ただし、召喚師が持つスキル適性は現在よりも下がります』


 器用貧乏って奴か。サマルトリア型ってやつ?

 ………………。

 聞くのが怖いけど、聞かないと後が怖い気がするので。次お願いします。



『生贄型

 召喚契約した存在を犠牲に強力な攻撃を放ちます。

 犠牲にした存在が高位であるほど、あるいは数が多いほど、大きな力を得ます』


 うぇーい!

 うぇーい!!

 うぇぇぇぇーい!!!!!

 パスパスパスパス、パース。

 なんじゃそりゃー。絶対選ぶかそんなもん!!

 なんでこんなもんがあるの!?


『私に聞かないで下さい。呪いますよ?』


 はい、すいませーん。というかヘルプさんって呪いまで使えるの? 多機能すぎる。

 じゃ、最後お願い。


『召喚特化型

 召喚契約した存在を強化し、進化を促します。また、召喚契約した存在を保護する事も可能です。

 ただし、スキル適性は現状のままです』


 一つ前があれだったから、少し構えちゃったけど。

 まぁ、普通だった。スーちゃんがこれ以上強くなるの? という気はしないでもない。




 さて、どうしようか。


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