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「おはよ」
「うわっ」
「気づかなかったんだ、本当に」
四ノ倉柚希がいた。
「ば、おま、いつからそこに」
盤面の小さな腕時計と俺の顔を見比べて、
「十五分間待ったけど、全然動かないんだもの。寝てたの? 何してたの?」
と真顔で聞かれた。
「『何してたの』って俺のセリフだ!十五分間も人の顔を……」
(そうか、そんなに寝顔を見られて……)
「なんか、顔色いいね」
「うるさい! 違う! これは……違うんだよ……」
俺は熱を帯びる頭を抱える。は、恥ずかしい。
「で、何してたの?」
四ノ倉柚希は、ツンツンした形状の雑草ばかりを一本一本抜きながら聞いてきた。俺は、真剣に答えを求めたいと思っていた。抑揚に気をつけて、芝に横たわったまま言った。
「沢山、あったんだ。でも一番引っかかるのは、どうして俺は、お前が生きていて良かったなんて思ったんだろう、って」
「死んでいれば良かった?」
……やっぱり、そうなるよな。
「違うんだ。悪い、言い方が悪かった。自分なんて生きていなくていいって思ってる俺が、どうして他人のことを生きていて欲しいなんて思ったんだろう」
彼女は意外にも、考えるそぶりさえ見せずに即答した。
「自分自身のためだけに生きている人って、本当にいるのかな」
俺はつい、彼女の表情を凝視する。この言葉の先に何が繋がるのだろうと、興味をそそられる。
「自分自身のためだけに生きて、自分のことだけを考える人生を送る人なんて、つまらないよ。少なくとも私は、あなたをそうは評価しない。
それに、死は必ず悲しみをもたらす。逆に言えば、悲しみが生まれなければ、人は嬉しい」
どう? とばかりに彼女は述べてみせた。そして、あの言葉を繰り返す。
「答えは探さず、作ってもいいのよ」
その言葉で、俺の中の何かが吹っ切れた。上体を起こし、腕を伸ばす。
「じゃあ、俺の答えはこれだ」
その手で彼女の腕を掴んで引き寄せる。少々強引だったが、想いに任せ強く強く抱きしめた。
「お前が……柚希が俺にとって大切な存在だった、っていうのはどうだ?」
柚希は笑ってくれた。なかなか見せてくれない最高の笑顔で言ったのだ。
「すごく、いいと思う」
俺は、有頂天だった。柚希が俺の思いを拒まなかった。それどころか、笑って受け入れてくれたんだ! 夢心地で、集中力が散漫になっていたのは紛れもない事実だった。
どの高校にも必ずやってくる定期試験。その結果にひどく面食らった。ホームルーム中にも打ちひしがれ、柚希の顔は涼しげであった。
(こんな俺じゃあ、ダメだろ……)
決断する。竹林に向かう足の歩幅を、意識して大きくする。
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