レインの世界・2

 愚かで哀れな命がすべて一掃され、全ての存在がレイン・シュドー、もしくは彼女と心を同じにする存在に統一されてから、既に何千何万もの月日が流れていた。諍いも争いも、憎しみも悲しみも一寸たりとも現れない、真の平和に満ちた日々がとめどなく続いていた。

 この世界は、純白のビキニ衣装の美女の微笑みによって常に満たされていた。


「「うふふ、レイン♪」」

「「「「うふふ、レイン♪」」」」

「「「「「「「「うふふ、レイン♪」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「「うふふ、レイン♪」」」」」」」」」」」」」」」」

「うふふ、レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」…


 当然、この町に伸びる数十桁もの数に膨れ上がった道の上も例外ではなく、同じ姿形の美女によって足の踏み場や僅かな隙間もないほどびっしりと覆われていた。

 勿論レインたちも空間を何度も歪めて幅を広げ続け、どの道も自分自身が何百何千、果ては何万何億列と横に並べるほどになっているほどにまで広がってはいたのだが、それでもなお行き来するレインたちを裁き切れるには至らず、常に道はレインたちの肩や胸が触れあい、日々自分の美しい肌の感触を確かめあうようになっていたのである。だが、彼女たちにとってはまさにそれが狙いであり、最高の状態であった。道を歩いているだけで別の自分と思う存分触れ合うことができるのだから。


 しかも、レイン・シュドーの肌色の体に覆われているのは道だけに留まらなかった。


「レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」レイン♪」おはよう♪」…


 両側にどこまでも並び立つ全く同じ寸法の家は、揃ってレイン・シュドーと同じ肌の色や温かさ、そして滑らかさを有していた。触っただけであの心地よい感触が味わえる壁に触れて光悦に浸るレインもいたが、それ以上に彼女を癒し、目や心の保養になっていたのが、壁一面に描かれた無数の純白のビキニ衣装の美女、レイン・シュドーたちだった。まるで道を埋め尽くす彼女の傍をにこやかに眺めるかのように、横一列に並んだ純白のビキニ衣装の美女がどこまでも描かれていたのである。かつてこの世界を支配していた『人間』という存在が自分たちの心を癒すために用いた手段を真似たレインが試行錯誤の末に創り出した、何よりも美しい光景であった。


 しかもこれらの絵画は、愚かな人間たちが作り出した単なる壁に塗ったくった絵の具の跡とは異なり――。


「うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」うふふ、レイン♪」



 ――まるで同一の美女を次々に生産するかの如く、無尽蔵に実体化を続ける力を有しているのだ。

 この世界に存在する全ての事象、全ての物体はレイン・シュドーのためにある、それがこの『平和な世界』の義務、常識、そして意識せずともこなす当たり前の内容であった。

 


~~~~~~~~~~~


 そんな自分でぎっしり覆いつくされている地上とは異なり、空と地上の間に存在する空中にはある程度の余裕が設けられていた――。


「「「「ふふ、今日もレインでいっぱいね……♪」」」」

「「「「「「「「ずっと眺めていたいよね♪」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「うんうん♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 ――前後左右上下、どこの景色を目に入れても必ずレイン・シュドーが何十桁、何百桁も存在している事は変わらなかったが。


 無数の家々とそれを囲む道が規則的に数限りなく続く町の上に広がる空間は、自由自在に飛び回る大量のレイン・シュドーが支配していた。地上でぎゅう詰めになりながらたっぷり自分の体を堪能しきった彼女たちが、気分転換にそこから離れて思う存分空中を飛び回りながら体を伸ばしたり寛いだりする、という訳である。勿論、そんな場所でもレインは自分の欲望に抗うことなくどんどん新たな自分を生み出し続けていた。



「「「「あぁん、レインったら♪」」」」

「「「「「「あはは、ごめんごめん♪」」」」」」


 真下から新たなレインの頭が触れてしまったり、程よく筋肉が満ちたレインの脚を別のレインの胸が挟みこんでしまったり、空中でも数限りなく増える過程で起きるハプニングを、彼女たちは存分に楽しんでいたのである。もう何万何億、いやそれ以上の回数も繰り返され続けている日常であったが、レインたちは一切飽きることが無く、むしろもっともっと同じことを味わいたい、自分を増やしたい、という思いに溢れていた。それこそが、この世界がに包まれている証なのだから。


 そんな自分の楽園を、また別のレインたちは無限に広がる家々の屋根に腰掛けながらのんびりと眺めていた。右を向いても左を向いても、全く同じ家々とレイン・シュドーがどこまでも続く――彼女たちにとっても、これほど心躍らせる光景はなかった。


「「「「「……ふふ、どうしたのレイン?」」」」」

「「「「「「貴方と同じ考えよ、レイン♪」」」」」」」


 自信と同じ嗜好を有し、自分と同じ思いを抱き、そして自分と全く同じ姿形、同じ力を持つ存在によってもたらされた世界を見渡しつつ、一部のレインたちは自分が歩んできた道を改めて思い返していた。たった1人、人間たちの愚かさや醜さに苛まれながら懸命に戦い、『魔王』や『ゴンノー』による様々な策を時には利用し、時には逆に振り回されながら、この世界を自分の意のままに動かすことができるだけの力や能力、そして叡智を身につけてきた事を。既にすべての決着がつき、自信を取り巻いていた全ての真相が明らかになってから数えるのも億劫になりそうなほどの年月が過ぎ去っていたが、あの日々の記憶はレインから決して離れることなく、彼女の心にしっかりと貯め込まれていた。常にその時の心を忘れず、規則正しい生活や強くなるための鍛錬を重ね、よりレイン・シュドー好みの存在になる、という決意も大きな要因かもしれない――。



「「「「「「「「「……そうだ!」」」」」」」」」



 ――その時、屋根の上で思い出に浸っていたレインたちにある考えが浮かんだ。このままのんびりしているのも良いが、折角自身の決意を思い返す機会を得たのだからこれを利用しない手はないだろう、と。

 そして、彼女たちは互いに顔を見合いながら笑顔を交わし、この『屋根』の上にいる自分たちの考えは全て同じである事を伝え合った。確かに世界を手に入れるだけの力は身につけたかもしれないが、まだまだ『魔王』や『ゴンノー』=未来の自分自身の力には及ばない。あと1つ、大事な力を身につけるための鍛錬を続ける必要がある、という思いを。



「「「「「「「よし、行ってこようかな♪」」」」」」」」

「「「「「「「「「「私もいっしょに行くわ、レイン♪」」」」」」」」」」

「「「「「「え、本当?」」」」ふふ、嬉しいわ、レイン♪」」」

 


 そんなレインたちと同じ考えを抱いていた他のレインたちも何百棟もの家の屋根から立ち上がった後、皆で一斉に天高く飛び立った。この『町』がある空間から遠く離れた別の空間にある、彼女たちが絶えず強くなるための鍛錬を繰り返す場所――闘技場を目指して。



「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「いってきまーす♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


「いってらっしゃい、レイン♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」いってらっしゃい♪」…



 そして、彼女たちの眼下には、再び屋根の上から生えてきた新たなレインを含め、絶えず数を増加させ続けている純白のビキニ衣装の美女がどこまでも覆い尽くすがどこまでも広がっていた……。

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