第6章・2:レインが光を手に入れるまで(2)

レイン、感触

 世界を自らで埋め尽くす最大の障壁となっている自身の偽者『ダミーレイン』を打ち砕くべく、レイン・シュドーが魔王から光のオーラを利用する方法を見つけようと模索し続けていた。文字通り自らの命を犠牲にし続けるほどの非常に厳しい鍛錬を続けている間に、世界の情勢は少しづつ変化を見せていた。ダミーレインが世界各地に広がる動きがより加速し続ける一方、その動きに反する人々が、その動きの中心とならんとする村を目指して移動していたのである。その村に、ダミーレインを心底憎むが故に『勇者』の名を捨てた女魔術師、キリカ・シューダリアがいた事も大きな理由であった。


 人口流出をなるべく防ぎたい村や町は、その村の存在を徹底的に無視し、彼女がそこにいることも敢えて黙っていたが、それでも噂は伝わるもの。全く同じ姿形をしながら数限りなく増えるダミーレインに脅威を感じる人々は、その言葉を信じて自らの故郷を後にしていたのである。



 だが、そんな揺れ動く世界情勢の一方でレインたちは――。


「「はぁ……」」

「「「「「今日も駄目だった……か」」」」」


 ――未だに『光のオーラ』を利用する手段を見出せないままであった。


 今日も地下空間にある専用の闘技場で魔王から直々の鍛錬を受けた彼女は、それを体験していない別のレインたちが大量に蠢く場所――世界の果ての大地に広がる『本拠地』へと戻ってきた。そこで待つ何万何億、いやそれ以上の数に膨れ上がり続ける自分たちに今回の結果を報告し、互いに記憶を共有し合うためである。だが、そこに至るまでの過程で、空も大地も埋め尽くしながら鍛錬の成果を楽しみにしている自分たちに結果を報告するのは、鍛錬を受けた彼女たちにとって少し辛いものがあった。今回も会得できたのは光のオーラに耐える事が出来る時間だけ、それを過ぎてしまえば何をしようと大量の光に体が抉り取られ、文字通り『浄化』されてしまう――それを何度も何度も繰り返し続けていたからだ。


 そして、同一の記憶を持つ大量のレインたちは、再び一斉に溜息をついた。今の状況へのもどかしさを、そのまま吐き出すかのように。

 だが、それ以上の事――解決すべき点は何なのか、どうすれば光のオーラを『利用』出来るのかを考える事は出来なかった。


「「「「「「……どうしてなんだろう……」」」」」」

「「「「「「……って聞かれても、駄目だよね、レイン……」」」」」」」

「「「「「「うん、私もレインだから分からないし……」」」」」」


 ただ、自分たちの間で考えが見つからないので魔王に直接答えを尋ねに行くという手段を取っても、返ってくるのは答えを何重にも覆い隠しているよく分からない言葉だけである事を、レインたちは既に予測していた。魔王はあくまでも手駒であるレインたち自身に考えさせようとしていたのである。

 完全に行き詰り、あらゆる場所で意気消沈したような顔をしていたレインたちであったが、次第にそれらとは違う感情が混ざった声を出し始めた。


「「「……あぁん、ちょっとレイン♪」」」

「「「「あ、ごめんごめん……ってもう、そっちのレインも……♪」」」」」

「「「「「「「ごめんレイン、つい……♪」」」」」」」


 互いに注意しあう彼女たちだが、その口調は厳しいものではなく、むしろどこか嬉しそうなものであった。当然だろう、『本拠地』の大地や空を埋め尽くす、世界で最も美しく麗しく、そして世界を平和に導く事ができる唯一にして絶対の存在である、純白のビキニ衣装のみを身につけた美女の胸や胴体、太股、さらにお尻など様々な部位が、他の自分たちに触れていたのだから。


 今、『本拠地』に集まっているレインたちの数は日増しに膨れ上がっていた。勿論これまでもありとあらゆる手段で増殖を続ける純白のビキニ衣装の美女によって、同じ建物が延々と並ぶこの場所は賑わいを見せていたのだが、ダミーレインによる侵攻で一時征服していた町や村を奪還された結果、そこを占拠していたレインたちも次々にこの場所へと集まっていたのである。それに加えて未だに各地の『森』で生産が続いている新たなレインも毎日のように本拠地へ瞬間移動し続けており、毎日のようにレイン・シュドーでごった返す結果になった、と言う訳である。

 当然レインたちも自らの鍛錬を兼ねて空間を日々歪ませ、世界の果てに広がる『本拠地』を広くし続けていたのだが、こうやって集まるとつい以前まで『本拠地』に集まっていた時の感覚で自らの位置を決めてしまい、周りのレインたちと密集しあう事態になってしまうのだ。ただ、自分自身が世界で最も信頼が置ける存在とみなしている彼女たちは、むしろそれを喜ばしいと感じていた。今回のように、心の中に渦巻いていた悩みも、大量の自分たちが傍にいる事、その心地良さは絶対なものである事をたっぷり味わえば次第に解消されていくのだ。


 そして、またまたレインたちの口から出た溜息は、自分たちの不安が自分たちによって解消された事を示す笑顔から発せられた。


「「「「よし……ちょっとテンションが回復してきたわね、レイン♪」」」」

「「「「「レインたちのお陰よ♪」」」」」

「「「「「「もう、レインったら♪」」」」」」」


 とは言え、あくまでもこの快楽はその場しのぎでしかない事も、レインたちは承知していた。太陽が沈み、再び空に昇った後は再び『光のオーラ』を利用するための鍛錬が続く事になるからである。

 

「「「「「どうしようかな……」」」」」


 今日はこれ以上『光のオーラ』に関する鍛錬を続ける事を魔王から禁じられ、剣術や魔術も他のレインたちによる日課として終わっている。ここから先、次の鍛錬までどうやって過ごそうかと考えていた時だった。


「「「……そうだ!」」」


 何名かのレインの思いつきは、同じ考えを持つ他のレインたちへ瞬時に伝わった。

 ここ最近、ほとんどのレインはずっと本拠地と地下空間を行ったりきたりしてばかりである。勿論各地の町や村への偵察に赴くレインや、遠く離れたあちこちの『森』で生まれたレインたちと記憶を共有すれば問題ない話であるが、久しぶりに大多数でこの『本拠地』を後にし、日々新たなレイン・シュドーを創り出す『レインプラント』が無数に広がる森へ遊びに行けば、少しは億劫な気分を晴らすことが出来るのではないか、と考えたのだ。もしかしたら、こう着状態の現状を打破する良いアイデアが浮かぶかもしれない。

 次に新たなレイン・シュドーがレインプラントから生まれるのは翌日の朝と言う事もあり、今日はそのまま普段どおりに夕食を食べたり風呂に入ったり、何人かのレインで一緒のベッドで寝たりしながら時間を過ごす事にした。勿論、目的地である『森』で新たな自分が創られるのを見守り続ける別のレイン・シュドーからもぜひ来て欲しい、と承諾を得る事が出来た。自らの思念を飛ばす魔術を使えば、距離など関係ないのである。


 そして、地平線が見えるほどに空間を一気に膨張させ、何億何兆ものレイン・シュドーが一斉に入れるほどにまで膨れ上がらせた『家』の中で、彼女たちは夕食をとることにした。自らの漆黒のオーラを使って無から創造した食べ物と同時に――。


「ふふふ、レイン♪」あぁん、レイン♪」あははは、レイン♪」もう、レインったら♪」ごめんごめん、レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」…


 ――明日を楽しみにする純白のビキニ衣装の美女の感触を、身体いっぱいにたっぷりと味わいながら……。

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