レイン、帰郷

「うふふ、レイン♪」「さすがレイン♪」「今回もばっちり成功よ、レイン♪」


「ありがとう、レイン♪」当然よ、レイン♪」だって私はレイン・シュドーだもの♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」…


 半球状の漆黒のドームに覆われ、外部との連絡が一切遮断された、昨日までごく普通の海辺にある商業の町だった場所は、今や無数の純白のビキニ衣装の美女、レイン・シュドーの笑顔が埋め尽くす異様な空間へと様変わりしていた。たくさんの建物の中や、それを取り囲むように連なる道の上ばかりではない。建物の屋根やあちこちに立つ木の上も、漆黒のドームに覆われているとは思えない青空も、全て大きな胸を揺らしながら微笑を見せ続ける大量のレインがどこまでも覆っていたのだ。


 とは言え、町の大きさに対してレインはあまりに増えすぎていた。前後左右どこを見てもレイン、レイン、レイン。どの方向へ身動きをしても彼女の豊かで大きな胸や滑らかなお尻に触れてしまい、上空も彼女でいっぱいになった結果、町全体が少し暗くなってなってしまうほどになってしまった。それでもなおレインには自分自身をもっと増やしたいと言う欲望があった。世界で最も強く正しく美しく、そして世界で唯一全てを平和に導ける存在は、いくら増やしても足りないのだ。

 とは言え、今はそういった欲望に囚われすぎてはいけない、という事もレインはしっかり認識していた。まだ世界を平和にしきっていない状況でやりたい事ばかり優先しすぎると、やがて足元をすくわれ、破滅してしまうかもしれないのだ。それを防ぐため、一旦彼女たちは自分の数を増やすのを止め、次の行動に移った。一部が彼女の『本拠地』へ向かい、侵略成功を報告するのだ。


 既にその出迎え要員――この町から遥か遠い前人未到の地から瞬間移動で現れた別のレイン・シュドーたちは到着しており、自分自身とたっぷり触れ合い続けていた。残る手順は誰が一緒に本拠地へ向かうか決めてもらうだけになっていたようである。


「「「「「どのレインが向かうか決めた?」」」」」

「私でいい?」「あ、私もー」「私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」私もー」…


 城の頂上から響いた数名のレインの声に対し、上空を飛び交っていた大量のレインたちの声が一斉に返ってきた。あまりに増えすぎたせいで足の踏み場すらなく、結果大空にあぶれてしまったレインたちである。勿論この場を離れる名残惜しさはあるものの、彼女たちはそれを我慢する事にした。世界をこのように覆い尽くし、思う存分増え続けるまではまだ長い時間が必要なのだ。


「それじゃ、またねレイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」またねー♪」レイン♪」…


 ひと時の別れを惜しむ声で溢れた後、この都市の上空を埋め尽くしていたレインたちは一斉にその姿を消した。高度な『魔術』の力を用い、彼女たちの本拠地まで瞬間移動したのだ。


「……じゃ、頑張ろうか、レイン?」そうね、レイン!」この町は私のものだもんね、レイン♪」うんうん、レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」…


 そして、残されたレインたちは、自分たちが占拠したこの都市を理想の場所へ作り変えるために動き出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~



 一方、5人の自分自身に導かれながら数万人のレイン・シュドーが魔術の力で瞬間移動した先で彼女たちを待っていたのは――。


「お帰り、レイン!」お帰り、レイン!」お帰り、レイン!」お帰り、レイン!」お帰り、レイン!」お帰り、レイン!」お帰り、レイン!」お帰り、レイン!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」お帰り!」…


 ――地平線まで果てしなく続く無数の建物の列と、その隙間を満遍なく埋め尽くす純白のビキニ衣装1枚のみを身につけた数万、いや数億人は余裕で超えていそうなほどのレイン・シュドーの大群であった。その数や規模は、先程までいた町やレインとは比べ物にならないほどである。溢れんばかりの理想の光景に、数万人のレインたちは一斉に笑みを返し、今回も無事1つの町を征服することが完了した事を伝えた。

 

 ごく普通の愚かな人間たちはただ恐れて近づこうとしない、無限に広がる『世界の果て』にあるこの場所は、かつては人間が足を踏み入れる事を赦さない、果てしなく広がる荒野であった。魔王を倒すため、たった1人で辿り着いたレインが見たものは、枯れ木や大きな岩だけが聳え立つ、どこまでも続く何も無い灰色の空間のみであった。だが、今やその面影はどこにも無かった。灰色だったはずの大地は、建物が延々と並ぶ巨大な町に変貌していた。ただし、どの建物も赤茶色のレンガによって造られた三階建ての住居とその傍で緑色の葉を茂らせる樹木のセットのみ、寸法も背丈も全く同じと言う、あまりにも異様な光景であったが。

 だが、それに加えて異様だったのは、この『町』のような空間の規模であった。確かに以前ここにあった荒野は、地平線が見えるほど果てしなく広く、まさに世界の果てにふさわしいものであった。だが、今ここに存在する町の規模はそれ以上であった。360度、どこを向いても見えるのは全く同じ家や木々、そしてレイン・シュドーの大群だけ。もはや総数を数えるのも困難なほどに膨れ上がっていたのである。

 

 これこそが、レイン・シュドーの持つ『魔術』の力であった。


「うふふ、レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」…


 本格的に世界に侵攻するにあたり、レインたちはかつての荒野の改造に取り組んだ。自らの魔術を使い、かつて世話になった宿屋の記憶を元に全く同じ家を次々と量産しつつ、世界の果ての荒地がある空間を自信の力で無理やり歪ませ、全く同じものを次々と生み出し、どんどん増築していたのである。それはまるで、同じ模様が描かれた紙を無限に並べ続けるようなものだった。


 だが、そんな不気味な空間をレインたちは好み、そしてとても愛していた。人間たちが住んでいた町も勿論捨てがたいが、何よりここは勇者を捨てたレイン・シュドーの新たな、そして永遠の故郷である。同じ家々が並ぶ光景に溶け込みながら無数の自分たちと戯れる事こそが、彼女の望む真の平和なのだ。


「また大きくなったのねー♪」「そうよ、レイン♪」「どんどんこの町を大きくするつもりだから♪」「そうそう、まだまだ物足りないもん♪」「うふふ、同感ね♪」「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」…



 そして、彼女たちはまだこの空間を広げ続けていた――。



「……ふん、戻ってきたか」

「あ、魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」魔王!」…



 ――レイン・シュドーの力を利用し、今度こそ世界を掌に収めようとする『魔王』の命令によって……。

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