女勇者、占領

「あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」……


「……」


 力の勇者『フレム・ダンガク』が所有する屋敷の中に現れた魔王の前に広がっていたのは、昨日まで広がっていたものとは全く違う光景であった。ポニーテール状の髪、大きな胸に整った腰つき、健康的な肌、そして体を包む純白のビキニ衣装――前後左右、どこを見てもそこにいたのはかつての女勇者、レイン・シュドーばかりだった。何十何百、いや下手したら何千人もいるであろう彼女は、巨大な屋敷を埋め尽くしつつ互いに戯れあい、歓喜の声を出し続けていたのである。


 静かにその様子を眺めていた魔王だが、一切自身が現れた事に彼女が関心を示さないと見たのか、大きな杖を右手に召還し、床を叩いて何度も大きな音を出した。屋敷の中に轟いた怒り混じりの響きに気づいたレインは一斉にその方向を向き、魔王がこの場所を訪れた事にようやく気づいた。


「あ、ごめん魔王!」嬉しくなってつい……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」えへへ……」……


「……ふん」

 

 愉快そうに謝る未熟な存在たちを、魔王は鼻で笑った。


~~~~~~~~~~


「作戦の結果……は言うまでもないな」

「うん、大成功♪」「面白い具合に上手く行った感じ♪」「あんなにすんなり行くなんて、ね♪」「うんうん♪」


 嬉しそうに語るレインの言葉通り、魔王から指示されて実行した人間たちへの『宣戦布告』は、彼女たちも驚くほど鮮やかに成功した。かつての勇者であり、今のレインが最も憎む相手の1人であった男、フレム・ダンガクの屋敷は、今やそこに暮らしていた人物――フレム本人や彼に仕えていたメイドもろとも全てが魔王とレイン・シュドーによって完全に征服されたのである。


 メイドたちを「レイン・シュドー」に変えることは非常に簡単だった。贅肉が体を包み込み始めるほどに堕落したかつての勇者『フレム・ダンガク』。それに仕えるメイドたちもまた、彼から与えられる報酬と、かつての勇者の元で働く事ができる名誉に目が眩み、真実が見えなくなっていた愚かな存在だった、とレインたちは回想した。そうでなければ、例え非常に心地よい香りが漂ってきても誰もその出所を疑わず、呆気なく受け入れてしまう事などないからだ。


「私は嗅いでも大丈夫なんだよねー」「そーそー」「だって『レイン』用の薬だもん」「あ、そうか♪」「もう、レインったら♪」


 あの心地よい香りの正体は、以前に彼女たちがが村を乗っ取った際に用いた「錠剤」の中身と同じものであった。彼女の魔術によって生み出されたこの物質には、中身を体の中に入れてしまった人間の体を変化させ、純白のビキニ衣装の女勇者『レイン・シュドー』に変貌させてしまう効果があるのだ。

 村の人々に使った際は一晩かけてじっくりと変化させたのだが、物質の濃度を上げれば今回のように僅か数分でメイドたちを眠りに就かせ、全員をレイン・シュドーにしてしまう事もたやすい事だった。そして、メイドたちが1人残らずレイン・シュドーに変貌した時、今回の作戦はほぼ成功したも同然になったのである。



「勿論、ちゃんと食事にも加えたからね」「そうでなきゃ、フレムをあんな状態するなんて」「絶対出来なかったよね」「そーそー」

「……ふん」


 

 大量のレインが嬉しそうに今回の作戦の経過を報告するのとは対称的に、魔王は相変わらず無表情の仮面を被ったまま、そっけない返事をし続けた。そして、彼女たちの報告が終わるや否や、無数のビキニ衣装の美女に興味が無いかの如く魔王は足早に廊下を進み、最も訪れたかったであろう目的地――昨晩、フレム・ダンガクが最後の宴を繰り広げた大広間へと向かった。


 堕落したかつての勇者、フレム・ダンガクは、夜になると毎日のように宴を開き、たくさんの美人メイドを侍らせては美味しいご飯を食べ漁り、贅沢の限りを尽くしていた。その堕落ぶりは、メイドたちが全員レイン・シュドーが変身した偽者であるという事に一切気づかないほどであった。かつては様々なものに変化した高位の魔物を一瞬で見抜くほどの力があったというのに、一体どこに失ってしまったのだろうか。レインは一様に心の中で呆れ、哀れんでいた。

 ただ、愚かだったからこそ、あのようにフレム・ダンガクに安らかで一番幸せな最期を迎えさせる事ができたのも確かである、とも彼女は考えたのだが。


 

 大広間に向かうにつれ、レインの数はどんどん増えていった。既にこの屋敷は外も中もどこへ行っても彼女だらけなのだが、この一帯は廊下の右側も左側も、さらには場所がなくなったのか、天井までもが空に浮かぶビキニ衣装の美女に覆われていたのだ。


「おーいレイン!」「魔王が通るよー!」「ちょっとどいてー!」

「あ、ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」ごめんごめん♪」……


 より高くに浮かんだり横に詰めたりしながらレインは自らの協力者である魔王に道を空けたのだが、それでも1人がギリギリ通れるほどの空間しか作る事ができなかった。魔王の視界は、どこもかしこもびっしり純白のビキニ衣装の美女が笑顔で埋め尽くされていたのである。


 いくらこの屋敷のメイドがたくさんいたとしても、ここまでぎゅう詰めになるほど雇われてはいなかったはず。何故レイン・シュドーはここまで増えたのだろうか。

 その秘密は、魔王がたどり着いた大広間にあった。



「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」……


 そこにあったのは、1個の大きな肉塊だった。大広間の一番奥、椅子のある場所に置かれている少し生臭くなり始めたその物体は、無数のレイン・シュドーの微笑みの顔に埋め尽くされ、輪郭も判らない状態になっていた。そして、大量のレインの顔は次々とこの塊から飛び出し、あっという間に新たなビキニ衣装の美女になり、楽げに笑いながら屋敷を覆い尽くし続けていた。塊はまるでレインが湧き出る泉のようであった。



 これは一体何なのか、魔王もレイン本人も既に把握済みであった。意識も感覚も無く、ただレイン・シュドーを生み出す物体に成り果てた大きな肉塊こそが、かつての彼女の仲間であり、すっかり堕落していた力の勇者『フレム・ダンガク』の成れの果てである事を……。

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