07/05/15:00――フルール・種族間の差異

 何もかもが新鮮だ、とは言い難いが、良い経験をしていることは事実で、昼食とも夕食ともつかない閑散とした時間、宿の階下にある食事処でお茶を飲むフルールの傍らでは、テーブルに紙を広げて図面を引くハクナがいる。随分と集中しているようなので、会話は成り立っていないし、邪魔をしようとも思わないが。

 思えば、初めてハクナを見た時も、こんな様子だった。

 ――五年間、成長してもハクナは変わらず、基本をずっと忘れていない、その証左だ。

 しかし話し相手がいないのも、手持無沙汰だなと思っていたら、二階から降りてくるアルノの姿に、軽く手を挙げた。こちらに気付き、注文をして珈琲を片手に同じテーブルにつく。

「やあ、アルノ」

「フルール、だったか。それとハクナ」

「その通り。一緒の宿だったんだね」

「そうみたいだ。どうかしたか?」

「話し相手にどうかと思ってね。ハクナはこうなると、あんまり会話をしてくれないからさ」

「構わないけど……図面を引いているのか?」

「――そう。話聞いてる。そんくらいの余裕はある」

「なんだい、聞こえていたのか」

「なんの図面なんだ?」

「この街」

「地図――じゃ、ないんだな」

「地図じゃ詳しくわからない。――街の〝こころざし〟を理解するのには、必要」

「――志、か」

 どこか模索するような、けれど落ち込むような、そんな感情が見て取れて、ふむとフルールは思案する。何かあったのだろうけれど、その何かはわからない。けれど、関連はしているのだろうと。

「アルノ、君はこの街の歴史について、知っているかい?」

「いや、情けない話だけど、僕には興味がなかったから、無関心だった。でも今の僕は、専門外だと、切り捨てられなくてね」

「へえ? 誰かに?」

「うん、まあ……ギィールや、それからサクヤに、上手く指摘してもらったから」

「なるほどね。ま、たぶん図面を引いてるハクナが一番わかっているんだろうけれど、雑談としてだ、ボクの見解を聞いてくれるかい」

「ああ、いいよ」

「といっても、少し考えればわかるようなものだけれどね。おそらくこの街は、ごくごく小さいものだったろうと思う。それこそ、見張りの塔のようなものが原点だ」

「見張り?」

「そうさ。だってここは、海から一番近いからね、街にはならない。――海が開かれる前は、恐怖の対象だったんだ。といっても、君たちに実感はないだろうね。ボクであっても、まだ幼かったし、そういうものだと教わってきたから、現物を見たこともない。けれど、それは逆に言えば、危険だけれど、その危険を〝了承〟したのならば、盲点と呼ばれるものになる」

「危険だから避ける。けれど、避けないのならば裏をかける?」

「そういうことだよ。だから、せめて見張りくらいはしなくちゃね。たぶん当時の騎士制度は、国家単位で差異があったろうし、今のように大陸共通ではなかったはずだ。それなりに交流はあったところで、線引きもまた、あったはずだよ。であれば、この街は〝外周〟に建造を続けて広がったものだと、推測できる」

「海が開かれてから、港が使われるようになり――だな」

「おおむね合ってる。おっぱい小さいけど、私」

「おおむねって、そういう意味じゃないけれどね。確かにボクの方が大きい……ん? ちょっと赤くなってるね、アルノ。気にしなくていいのに」

「そういうところは目ざとく発見しなくてもいいんだ……」

「そんなものかい? まあいいけれど、そうなるとかつてと今じゃ、この街が抱えている〝意図〟そのものも、変化しているんだろうね。人も街も、同じだ。進歩する、進化する、変化する」

「……そういうものを、見てきたんだよな、旅で」

「はは、ボクに限って言えば、今回が初めてだよ。ボクはギィールと懇意にしていてね、実は子供の頃……ええと、七歳くらいだったかな、当時は。けれど五年前に、旅に出ると言ってね、その時は嬉しかったんだけれど――いざ離れてしまうと、やっぱり寂しくてね。今回のことを期に、ボクも同行することにしたんだ」

「そうだったのか」

「そうだよ。だから今朝のことに関しては、正直、どうかしてるとしか思えない」


 あれはなんというか、変な意味で頭が痛くなった。


「サラサが容疑者になった。だから犯人を確保した。二十分ほどの短時間で犯人を特定して尋問開始、証拠品が出て来てサラサが釈放――という流れだったね」

「ああ、かなり早い解決だったと思う」

「ここまではいい。確かに早い解決だったけれど、なるほど、五年も旅をしていれば、こういう対処も上手くできるようになるのかと、頷ける話だ。ボクにできるかどうかは別にしてね」

「ありえなくもない、という話なら、僕も頷いておくけど?」

「問題はここだ。いいかいアルノ、ギィールも、サクヤも、無事に釈放されたことに肩の力を抜くのならばともかくも、あの二人は、あろうことか、サラサが二次被害を出さずに済んだことに安堵していたんだよ……! わかるか! 次からサラサのトラブルを背負うのはお前だと役目を押し付けられたボクの気持ちが!」

「はっきり言ってわかりたくない」

「そして今まで起こしたサラサの所業の数数を聞かされたボクの心労がわかるか⁉」

「……えっと、ハクナ、これ、僕はどうしたらいいんだ」

「大丈夫。育毛剤作ってあげるって約束したから」

「ストレスで禿げる心配はしなくてもいいんだよ! むしろ、サラサのトラブルを減らすか、ボクへの負担を減らしてくれ!」

「サクヤとギィールが、そこらへん、やらなかったと思ってるの……?」

 ばったりと、フルールが机に突っ伏した。慌てて珈琲のカップを手にしたので無事だったが、アルノは隣のテーブルに視線を向ける。ハクナは素知らぬ顔で図面を引いていた。

「えっと……」

「アルノは、魔術師?」

「え、ああ、そうだ。基本は分析アナライズだけどね。あとは巨人族でもある」

「――巨人族オーガ

 のそりと、フルールが顔を上げた。見れば、どこかやつれたような表情だ。

「小柄な割りに、とは思っていたけれど、そういうことか。純血かい」

「そうだよ」

「なるほどね。実際、巨人族の多くは人型であり、そして、サイズ……スケールそのものも、人と大差ないから、混じって生活することが多い。たとえば竜族の故郷といえば三番目が該当するけれど、君たちの場合は、そういう意味での故郷は、ないんだろうね」

「まあね。何しろ、人に混じって生活できる。そうやって長く生きてきたから、各地に散らばっているし、巨人族だけが集まっている場所であっても、集落と、そう呼べるような小さなものだ。隔離でも除外でもなし、古巣とは言えないね」

「竜族のような特別意識がなければ、それはもう人と同じだからね」

「まあ僕たちは変身もしないから」

「……え? 一つ目の巨人とかにならないの?」

 作業の手を止めてまで振り向いたハクナは真剣そのもので、さすがにアルノも苦笑を返した。

「ならないって。そういう〝機能〟は持ってない。ただ、僕のように小柄なのか、大柄なのか、その極端になる場合が多いかな」

「そういえば、うちで一番低いのはハクナだったかな?」

「ん? うんそう」

「いくつだい?」

「一四八。センチメートルだけど」

「小柄だね。ボクとしては可愛らしくて大変好意的なんだけれど、うん、さすがにハクナよりもアルノの方が高いね」

「十センチくらい高いくらいなもんだよ。男としては低い部類だし、なんというか、背丈が欲しいと思うこともあったよ」

「力が強い種族の特性が影響しているんだろうね。幼い頃から力が強い影響で、早い内に肉体として完成してしまうんだろう」

「小さいのはそれで納得できるけど、じゃあ大きい連中は?」

「生まれた時の体格さだよ、たぶんね。厳密には調べなくちゃ何とも言えないけれど、生まれた時にそこそこ大きくて、そして力の発現――いや、発現というよりも、レベルそのものかな。一つの完成が遅ければ、力のために肉体が成長する。君たちは〝大差〟を感じているのかもしれないけれど、大柄と小柄、その体格差における自重などを除外したところで、単純な力そのものには差がないと、ボクは捉えている。いわゆる個性を除いてね」

「それが、フルールの言う〝完成〟っていう、一定レベル?」

「そういうことさ。体格差については、それなら納得がいく理屈だよ」

「……」

「どうした、腕を組んで」

「いや、今まで僕は、有利不利でしか感じていなかったなと、ちょっと反省ぎみだ」

「利点を探るのは良いことだろうさ。事実、君はその力で、鋼を打っていたんだろう?」

「分析の術式で設計図を描きながら、ね。けれど僕は知ったよ。どれほど形状を変えても、どれほど硬くしても、あるいは柔らかくしても、それは結局、同じものでしかないってね」

「難しく考えなくてもいいだろうさ。ボクは鍛治師でもなし、好き勝手なことを言うけれどね、きっと今までのアルノは勘違いをしていただけだ」

「勘違い?」

「そうだ、ごくごく基本的な勘違いだ。椅子を作ろうとしていた人に、建築用の大木槌を渡す人はいないし、釘を使いたいのにのこぎりを一緒に持ってこられたって、どうしようもないじゃないか。君のしていたのは、きっとそういうことさ。誰が使うのか、そして、何に使うのか――そういう基本的な考えが、いつしか欠落してしまっていただけだよ」

「……そんな、ものかな」

「たぶんね。まあボクの知り合いにも何人か鍛治師、というか作り手を知ってはいるけれど、担い手ではなかったよ。その両立は困難だ」

「作ることと使うことが、違うものだからか?」

「いいや、使うことは延長だけれど、担うことは別物だ。そして、ボクが知る中で最も腕が立つ作り手はね、完成したものを使っても、それは〝性能試験〟にしかならないと、そう言っていたよ」

「――そうか、そうだよな。そうなるんだ」

「はは、頷くんだね。そういえばアルノは、オトガイを知っているかい?」

「ん、ああ、ちょっと前に店をたたんでしまったのは聞いているし、イウェリア王国にもあったから、知っているよ」

「内情は?」

「武器屋……くらいだけど」

「まあそうだね、ボクは詳しい情報を持っているし、どうしてなくなってしまったのかも知っている。けれど、世界規模での商人であることは確かさ。――ギィールはね、かつてオトガイで刃物を専門に作っていた人の得物を、二千本ほど壊したことがある」

「……は?」

「性質が違う刃物を二千本だ。だから、相手が悪かったってことさ。……うん? しかし、そうなるとあれか、普通の武器が使い手によって〝得物〟になるって可能性も、少なからずあるのかな」

「すんなり話を進められると、僕としては対応に困るが、そういう場合もあるのか?」

「おそらく希少だけれどね」


「――そうでもない」


 ようやく描き上がったのか、ハクナは腕を組みながら図面を眺めつつ、口を挟む。

「建築家は、家を作る。でも、帰る場所にするのは人だから」

「なるほど、慧眼だね。さすがは技術屋だと褒めるところだ。――ところでアルノ、君は技術屋と鍛治師の違いは何だと思う?」

「手にするものの違いじゃないのか?」

「一次産業と二次産業」

「やれやれ、僕が言う前に出てしまったな。アルノ、君は金属を加工できる。そして、加工した金属を使うのが技術屋さ。君はそういう〝領分〟を、もう少し意識した方がいいよ。し過ぎてもいけないものだけれどね、それも経験だ。これもまた、当事者じゃないボクが勝手に言っていることだから、聞かなくてもいいけれどね」

「いや、そんなことはない。今までの僕が、考えることを止めてしまっていただけだ」

「殊勝だね。ボクのたわごとなんて、右から左へスルーすればいいのに」

「うんよくやってる」

「ハクナ、君はもうちょっとボクの話を聞いてくれても良いと思うよ!」

「聞いてる。……いつもうるさい」

「おっと文句が出た、これは藪蛇だ。さてアルノ、雑談を続けていいかい」

「ん、ああ。なんだ?」

「騎士制度というものがある、それはある程度わかった。そこでだ、君たちがどう制度と付き合っているのか、つまり幼少期からの〝教育〟に関して聞かせてもらいたいんだけど」

「あ、待って」

「うん? なんだい、ハクナ」

「サクヤきたから、それからで」

 フルールが二階へと視線を向けると、確かにサクヤが降りて来ていた。一度も視線を向けていなかっただろうに、よく気付くものだと視線を戻すと、ハクナは図面を綺麗に畳んでいる。

「おー、アルノもいたか」

「まあね。フルール、話を続けよう」

「頼むよ」

「僕たちにとって騎士は身近だ。街の警備や、国の軍、そのいずれも騎士が行っている」

 ああその話かと、ハクナのテーブルに座ったサクヤは、手にしたお茶を置いて、腕を組む。

「フルールがどこを知りたかったのかはわからんが、俺としちゃお前ら、この大陸の人間にとって、〝どこまで〟が騎士なのか、それは聞きたかったな。いうなれば、お前の両親だって騎士証を持ってたはずだ」

「うん、そうだな。この大陸で生まれた子供は、十二歳になると10等の騎士証を受けるための試験をやる。たぶん、お前たちがやったのとそう変わらないようなものだろう。そこでようやく、僕たちは〝騎士学校〟の選択権を得られる」

「そこはやっぱり、エリートだの何だのと、あるのかい?」

「経験で話せば、イウェリア王国には六つの学校がある。というのも、あの国は七つの区画に分けられて、それぞれ違う近衛騎士が統治しているからだ」

「七つ目の区画は〝王城〟ってわけか」

「へえ? つまり、その区画を統治する騎士に〝憧れ〟を持つのならば、そちらの騎士学校に入りたいと思うのかな? もちろん、中にはカリキュラムそのものに着目する人もいそうだけれど」

「僕なんかは、自分が住んでる区画だったし、そういう子も多い。多いといっても実質、七割くらいか……」

「学校では何をするんだ?」

「僕が入ったのは第三区画のティーアル騎士学校だ。基礎訓練が一年、スタイル別で一年が最低限のカリキュラムで、そこからは選択制になる。騎士とは何であるか――という座学もあるけど、ほとんどは戦闘だよ。一応、十八歳までは学校にいられるし、卒業時には五等くらいは、最低でも取れていたかな、うちの学校は」


 そして。


「そこから〝騎士団〟に就職した人間を、僕たちは騎士と呼んでいる」


「それは行政に少なからず関連する〝職業〟を統括したものと考えていいのかい?」

「合ってる。街の巡回、出入りの警備、トラブルの解決から、最悪の場合は軍の一人として動く仕事だ。その中で等級を上げて、いわゆる出世をすれば、国王直下、近衛騎士団への任命なんて〝栄誉〟が得られるって感じだよ。高給取りでいけ好かないヤツもいれば、今でも一緒に酒を飲んで、金はあるが良いばっかの仕事じゃねえと、愚痴るヤツまでいろいろ」

「――アルノ。あまり大きな声で言いたくはないが、ここ近年での〝戦争〟はあったか?」

 やや声を控えての問いに対して、アルノは首を横に振る。

「少なくとも僕が生まれてからはないし、大きな戦争もないよ」

「だろうな……」

「へえ? サクヤ、予想していたみたいだね」

「軍属がいるのと同様に、中立に限りなく近い騎士もそれなりの数がいて、アルノみたいにこうやって〝外〟に出てきてるんだ。戦力そのものを〝囲う〟のが難しいのなら、国家間闘争それ自体が減っている。やるなら暗殺が一般的だろうし、その損益を秤にかければ、よっぽどの馬鹿じゃない限りは実行なんてしないさ」

「――それでも〝派閥〟はあるんだ、サクヤ。制度そのものは統一されていても、たとえばヴァンホッペ王国なんかは、自国増強のために騎士学校をかなり厳しくやってる」

「悪手だな。重点的にやればやるほど、伸びるのは〝個人〟だ。軍には突出した人材は必要ない。強ければ強いほど、弱いやつらが足を引っ張るのが目につくからだ。そういう連中は結局、連携って考えをしなくなる。そして、弱いやつらは強い連中に甘えだす。仕方がないと諦める。中庸な連中が敵になった時に、そういう部隊は真っ先に潰れるのが常だぜ」

「なるほどね。だったら平均的に育てればいいのかい?」

「馬鹿、お前は記憶力はあるし考えるけど、閃きが弱いよな、フルール。そういう問題じゃねえんだよ」

「うん? ボクへの評価はさておいて、どういうことだい?」

「捉え方の問題だ。騎士を育てるんじゃなく、部隊を育てろって話なんだよ。結局のところ、部隊運用をどれだけするか、あるいは最小単位である班がどれだけ一緒に過ごして経験したのか、軍隊を育てるってのは〝そこ〟なんだ。複数人を〝一つ〟として捉えろ」

「ああ、そういうことか。確かにその通りだと頷きたくなるけれど、それはどの軍隊でもやっていることじゃないのか?」

「あのな……どれほど一緒の時間を過ごしても、〝危機〟を乗り越えなきゃ〝絆〟は固くならないんだよ。わかるか? 部隊運用は戦場で行われるもので、班の経験とは即ち、戦場での経験だ。実感は乏しいが、ギィールの言葉を借りるのなら、――戦闘と戦場はまるっきり別物なんだよ。ここまで言えば、お前でもわかるだろ」

「ん……そうだね。厳しいことだけれど、つまり、生き残り続けなければ、育まれるものじゃないと、そう言いたいのか」

「そういうことだ――っと、悪いなアルノ、話が反れちまった」

「あ、ああ、いや、いいんだけど……凄いな。よくそんなことを思いつくものだ」

「思いつくっつーか、今までに何度も考えていたことだからな。〝教育〟関連はギィールが好むところだし、そこに付随するもんだろ。よく意見を求められたし、話し合った。だからまあ、ついでに言っておく。これは〝人間族〟の話だってな」

「――、他種族では違うのか?」

「人間ってのはさ、他種族と比較して何が勝っていると思う?」

「簡単だ。汎用性だよ、そうだろう?」

「そうだ。それは逆に言えば、デメリットでもある。アルノは巨人族だったよな?」

「ああ」

「つまり、力が強い。人間族と比べれば、格段にな。だから腕力に物を言わせてってわけじゃなくて――それは、一つの指標なんだ。腕力そのものを基準にして、組み立てることができる。人生設計そのものも、あるいは、部隊運用もだ。竜族なんてもっと顕著だ。あいつらは空を飛べるし、鱗が固くて、火も吐きやがる。それが基本だ。強い弱いの話をしているんじゃないぜ、アルノ。基準の話だ」

 あるいは、それを基本と呼ぶのかもしれないが。

「人は努力する生き物だ。それは他種族だって同じだよ。けどまあ、基礎が違うんだよな、そういう部分の。簡単に言えば、上手く〝生かせる〟ことができる。腕力が強けりゃ、でけえ得物だって持てるさ。けど、人間はそうもいかない。小柄なら得物は限られるし、その中から模索する。指標があるってのは、道が決まっているように思えるかもしれないが、突き詰めることができる――という点においては、圧倒的に有利だと、俺は考える」

「目的のために腕力を鍛える、そういう前提が僕たちには必要ないってことか」

「まあな。それを優劣だと勘違いするクソッタレなトカゲ連中もいるけど――なあ?」

「ははは、ボクに聞かれても、なんのことかさっぱりわからないなあ」

 人も他種族も優劣など、ありはしない。そんなことはフルールにとっては常識的なものだ。

 けれどしかし、未だに竜族の連中は人間を劣等種だと考えている流派が存在するのだから、笑い話だ。


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