旅立ちだ…フフ…
「はッ…!」
「だ、大丈夫ですか勇者様…?」
ぬう…また死んだのか…同じ場所で二度死ぬとは…
しかし今のは仕方あるまい…誰も振り向きざまに殴られるとは思わんだろう…フフ…
「また助けられてしまったな女僧侶よ…フフ…やはり君を仲間にしてよかった…」
「い、いえ、そんな…お役に立てて嬉しいです…」
また恥ずかしがっている…かわいい…フフ…
「さて…すまなかったな…話の途中で死んでしまって…」
さっき殴ってきた男へ話しかけたつもりだったが…いない
「ああ、さっきの奴ならあたしが話付けといたぜ。金払うっつったんだけど逆に置いてったよ。ハハハッ!」
一体どんな話を付けたのだろう…
「ふむ…そうか…それはありがとう…見た目通り頼りになるな…フフ」
「いやあ、慣れてるだけだって」
な、慣れてるのか…どうやら思ったよりおっかな…心強い女を仲間にしてしまったようだな…フフ…
「まあいい…仲間もできたし…もうここに用はない!さらば屈強な戦士たちよ!私は仲間と共に魔王退治の旅へと出る!私の留守中は頼んだぞ!ハハハハハハハッ!!」
酒場全体に響く大声で高らかに告げると、勇者はマントを翻し、高笑いだけ残して酒場を出ていった。
マントなんて王様から貰った時には付いてなかったのにいつの間に…
魔王を倒すべく国を発った勇者たち。女たち3人は行き先を知らなかったがとりあえず勇者の歩く方について行った。
「で?勇者さんよー、魔王はどこにいるんだ?」
「フフ…知らん」
「はあッ!?王様から話聞いたんじゃねぇのかよ!?」
「倒してきてくれとは言われた…場所は聞いていない…フフ…今言われるまで気付かないとは…」
「お前、意外とバカだな…」
「フフ…まあそう案ずるな女戦士よ…行く先々の村や町で聞き込みをすればいずれわかるだろう…空の天気まで変えてしまうほど影響を及ぼしているのだ…まったく誰も知らないという事もないだろう…」
「まあそれもそうか…どっかの村の長老さんとかが教えてくれたりしてくれるもんだもんな…
ていうかさー、その女戦士って呼ぶのやめない?なんか距離を感じるよ」
「フフ…そうか…では何と呼べばいいのだ女戦士よ…」
「あたしはレナスってんだ!あたしの事は名前で呼んでくれていいからさ。」
レナスか…なぜだか知らないが神に近い存在のような雰囲気を感じる名だ…英雄の魂を集めているような…高く飛び上がって光輝く翼と共に巨大な槍が現れる必殺技を使えそうな…そんな感じの名だ…
「フフ…良い名だな…私は好きだぞ…」
「お、そうか。サンキューな!」
レナスはまた笑いながら勇者の背中を叩こうとしたがすんでの所で思い出して寸止めにしておいた。
「で?勇者さんの名前は?」
「勇者に名前など無い!勇者は勇者であって勇者以外の何者でも無い!勇者は勇者であって然るべきだ!故に勇者の事は勇者と呼ぶがいい!」
「いや、いくら勇者でも親に貰った名前ってのがあんだろ?」
「無い!勇者は勇者と呼べ!」
「ああもうわかったよ…勇者の事は勇者って呼ぶよ」
「で、あんたは名前なんていうの?」
レナスは後ろを控えめについてくる僧侶のようなシスターのような恰好の子に話しかけた。
この子の名前は絶対に知っておきたい…
「わ、わたしの名前なんて覚えなくても…」
「いや気になる。教えてくれ。」
「なんで急に素の喋り方になるんだよ勇者」
「わ、わたしはエリカっていいます…あ、あの、お役に立てないと思いますが…よろしくお願いします!」
そういって彼女は被っているフードの端を握りながら勢いよく頭を下げた。
よくシスターが被っているような物とは違い、服にくっついているフードのようだ。
かわいい…フフ…フードの端を握って顔を隠そうとしているのがなんとも可憐ではないか…
エリカというのか…彼女とは全然違う性格のドジっ娘のような名前だ…スカートの下にマシンガンを隠していそうな…プリンが好きそうだ…
「エリカちゃんというんだね。なんとも可愛らしい名前だ…。君が役に立たないわけがないよ。君がいなければ私はあの酒場で死んでいた。」
「いえ、そんな…たまたま使える魔法があれだっただけで…」
「なあ、なんで勇者はエリカに対して喋り方が違うんだ?」
「知らないわよ!リリルに聞かないで!」
なんだか置いてけぼりにされてしまったリリルと自分の事を呼ぶ女の子とレナスは2人のやり取りを呆然と見ていた。
「ん…?おい…!敵だぞ3人とも…!」
いまさら自己紹介をしていた4人の前にぷよぷよした魔物があらわれた!
「スライムか…フフ…雑魚め…」
「え、ちょっと!順番的に次はリリルの番でしょ!?」
「うるさいッ!ガキに興味はないッ!それにお前の名前はもう自分で言ってるだろう!!」
「ムカッ…!ガキじゃないって言ってるでしょ!!!燃やすぞてめぇ!!!」
「燃やすならば魔物にしておけ!!」
王様から貰った鋼でできた銀色に輝く剣と中古屋で買った有名ブランドのケンちゃんちのお父さんに研いでもらった剣(1500ゴールド)を両手に持ち、切っ先を向けたまま右手を後ろに下げて、左手を前に出した「ちょっとそれっぽいかっこいいポーズ」のまま勇者は魔物とにらみ合っている。
チラッと横を見てみた。
エリカちゃんは怯えて後ろに下がっている。
レナスは「お手並み拝見」とばかりに腕を組んでこちらを見ている。
リリルはさっきの言葉にまだ怒っているようでそっぽを向いてぷんすかしている。
フフ…誰も助けてくれないという事だな…ハハハッ…いいだろう…
「さあ来い魔物よ!勇者の剣の錆としてくれようぞ!」
スライムは「そちらから来ないのならばこちらから行くぞ!!」と言わんばかりに体当たりをかましてきた!
だがそこは勇者。スライム如きの攻撃など庭においた犬のぬいぐるみとの壮絶な特訓で何千回と避けてきた!(イメージ)
ひらりと無駄に回ってかっこよく避けた!
そして勇者のこうげき!
両手に持った剣で二連撃を繰り出した!(回りながら)
ミス!スライムに避けられてしまった!
「フフ…今まで一刀流での戦いしか鍛錬していないからな…急に二刀流になったのだ…外れることもあるさ…フフ…」
フフ…だが次はそうはいかないぞ…と勇者は頭の上で剣をクロスさせた!
「必殺…」
おお、必殺技を出すのか!とギャラリーの女性3人が沸いた。
フフ…よい気分だ…悪くない…
そしてスライム目がけ、思いっきり切り付けようとした瞬間!
スライムが体を伸ばした反動を使った猛烈な勢いのストライクを繰り出してきた!
手を頭上に上げていたせいで腹にモロに食らった勇者は
「そんな攻撃…鍛錬の時はしてこなかったではないか…」
と呟きながら
死んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます