第十掌 移動中です
タブル村を出発してから数時間。
俺達は現在、ただただ歩いていた。
地球のように舗装された道ではないが、道だと判断は出来る。
なんか昔の外国の映画にこういう感じの風景があったなー。
まさか自分が歩くとは思いもしなかったけど。
「タカキさん?どうかしたんですか?」
俺がボーっとしていたからか、リリアスが心配そうに俺を見つめてくる。
上目遣いが強力だぜ。
「いや、何でもないよ。風景を眺めていただけ」
「そうですか?」
「ああ」
そう言えば、俺のこの世界での依頼のことをまだ、ぼかしてしかリリアスには伝えていなかったな。
これから一緒に旅をする仲間だし教えておこうかな。
「リリアス、実は俺の依頼のことについて教えておこうと思うんだが、いいか?」
「はい?依頼のことですか?それってあの神様から探しモノをしてくれって言われたことですか?」
「ああ。実はあの時はちょっとぼかしたんだ。でも、これから仲間のリリアスに伝えないのはなんか違うなって思ってさ」
「タカキさんに仲間って認めてもらえて嬉しいです!ちゃんと聞きます!」
「お、おう。嬉しいのは分かったから顔をそんなに近づけるのは止めような?恥ずかしいし・・・」
「はぅ!す、すみません!」
「おう。・・・ごほん!それでは気を取り直してっと。神からの依頼なんだけどな?本当は探しモノなんて生易しいものじゃないんだ」
「えっ⁉」
「本当の依頼内容はこの世界の神の眷属、もしくは使徒と言われている奴らの捕縛、もしくは殲滅だ」
「か、かみのしとのせんめつ?」
おいおい。
大丈夫か?
あまりのスケールに平仮名表記になってるぞ?
「ああ。今、神の眷属たちが好き勝手にやっているらしいんだ。それをどうにかするのが俺の役目。神の代弁者、代行者って意味では俺が神の使徒だな」
「タ、タタタタカキさんが神のし、使徒?」
「おう。まあ、俺はそんなのガラじゃないんだけどな。多分、神もそのつもりだろうな。わざわざ捕縛、殲滅対象を神の僕って言ってたし。でさ。流石に神の眷属を捕縛、殲滅って聞こえが悪いじゃん?と言うわけで、あいつらは便宜上、探しモノってことにしてくれよ」
「は、はあ」
「まあ、色々あるけど、気にするな。分からないことがあったらその都度聞けばいい。だから、世界を旅する旅人って考えていればいい」
「わ、わかりました」
フォローはしたけど、当分の間は緊張するかもしれないな。
まあ、そこは俺がその都度フォローしてやればいいか。
それはそうと。
「なあ、リリアス?」
「は、はい。何でしょうか」
「あれって何?」
俺がそう言って指差した方にはゴリラがいた。
正確にはゴリラじゃないんだけど。
なんか、眼とか赤いし。
尻尾があるし。
なんなの?
眼が赤いって中二病かよ。
「うわっ!あれはハウリングモンキーですよ!ランクCの魔物です!早く逃げましょう」
そのハウリングモンキーの前であたふたするリリアス。
「落ち着け。とりあえず俺がやってみる」
「やってみるって・・・。タカキさん、武器も持ってないじゃないですか!」
「おう。まあ、見てろって」
そう言うと俺は前に出る。
「ギギー?」
サルにしては低い声だな。
まあ、見た目は完全にゴリラだけども。
「さてと。いくぜ!」
俺はステータスに物を言わせてハウリングモンキーの懐に潜り込む。
「ギギッ⁉」
「シッ!」
俺は横蹴りを放つ。
すると、モンキーさんのお腹に穴が出来た。
「お、おう。まさかここまでの威力とはな」
流石の俺もドン引き。
「・・・・」
そして、後ろで見ていたリリアスも唖然としている。
まあ、仕方ないね。
こんなの見せられたら。
実は俺、たまに顔を出すくらいだけど、格闘技も少しだけ嗜んでるんだよねー。
まあ、一通り出来るつもりだけど。
嗜んでるレベルだからな。
それで、この威力。
ステータス補正がハンパないわ。
しかし、バトルにもならなかったな。
俺がそう思っていたら頭の中でファンファーレがなった。
<レベルが上がりました。スキル 瞬動を掌握しました>
え?
あれだけで?
俺は急いでステータスと確認する。
タカキ・ヤガミ 男
種族 ヒューマン?
レベル 11
HP:213/213(+100)
MP:210/210(+100)
STR:243(+100)
DEF:209(+100)
INT:224(+100)
AGI:250(+100)
MND:1700(+100)
固有:全掌握(下位の把握を偽装として表示できます)
スキル:オール・ブースト
疑似神眼
疾駆
瞬動
魔法:なし
加護:地球神の祝福
おおう。
一気にステータスが倍になったぞ。
これもオール・ブーストとMND効果か。
ヤバいな。
っていうか、MNDだけ伸びがハンパないんだけど⁉
どうなってんだよ。
「これは今度聞いてみるか」
リリアスのところまで戻るとリリアスはハッとする。
どうやら今まで意識がどこかに旅立っていたらしい。
原因は俺なんだけどな。
本当にごめん。
「す、すごいですね!」
「俺もここまですごいとは思わなかった。あの時、村人たち相手に攻撃とかしなくてよかった」
「そ、そそそんなことしたら大惨事ですよ!」
スプラッターなことになるところだった。
危ない危ない。
「そんなことより、ランクって何?」
「え?」
「ほら、言ってたじゃん。ランクCって」
「ああ!ランクっていうのは冒険者のモンスターに対する強さの基準です」
「ほうほう」
「駆け出しの冒険者、つまり、一番最低ランクの冒険者であるG級冒険者が一人で倒せるのがランクG。G級冒険者が十人集まって倒せるのがランクFって感じでランクが分かれているんです」
「なるほどな~」
「詳しくは冒険者登録をしたときに受付の人に聞けばいいと思いますよ」
「さんきゅ」
「いえいえ。こんなことでいいならいつでも聞いてください」
本当にリリアスがいてくれて助かるわ~。
「それで、さ」
「はい?」
「これ、どうしよう?」
リリアスからレクチャーを受けたのはいいが、そのままずっと放置だったハウリングモンキーの死体。
「流石に持って行くわけにもいきませんし、とりあえず倒した証拠としてキバだけ持って行きましょう。依頼が出ていたら登録した後なら報酬がもらえますし」
た、たくましすぎるぜ。
リリアス!
・・・
タブル村を出発してから半日が過ぎようとしていた。
辺りはすっかり夜だ。
「なあ」
「はい、どうかしましたか?」
俺はある重大なことを思い出していた。
というか、今まで考えてすらいなかった。
「寝る場所はまだいいんだよ。最悪野宿でも」
「そうですね。あんまりきちんとしたものを持っていないですから」
「でもさ?」
俺は顔を引きつりながら言う。
「食料はどうするの?」
「あ」
そう。
俺達はほぼ無一文だ。
リリアスはお金なんて滅多なことじゃ使わない村の出だし、俺なんて着の身着のままでこの世界に放り出されたようなものだ。
つまり、端的に言えば俺達はこのままだとベルルクに着く前に野垂れ死にする。
「ま、まったく考えていませんでした」
「俺もだよ」
村を出発するときはなんだかんだで興奮していたからな。
そこまで考えが回らなかった。
「ど、どうしましょう⁉」
「お、落ち着け。何とかなる・・・・・っていうか何とかする!」
流石にあそこまで大見得を切っておいて食料がないから帰ってきましたなんて言えない。
「一食程度なら抜いても大丈夫ですけど・・・」
「流石に三日続けてはきついな」
「何かいい案があればいいんですけど」
二人してうーんと唸る。
って待てよ?
「何とかなるかもしれない」
「えっ」
「リリアス、この世界にはステータスってやつがあるんだよな?」
神にも確認していなかったので、この世界の住人であるリリアスに確認を取る。
「は、はい。あります」
「俺のステータスとスキルがあれば何とかなる!」
「お、教えて貰ってもいいですか?」
「ああ。でも、その前に座ろう。ちょうどあそこに木陰がある」
俺は街道の端に木が何本が生えているところを指差す。
「分かりました」
二人で木にもたれかかるように座る。
「それで、その案って何ですか?」
「ああ。俺のステータスはリリアスも見てきたように結構高いだろ?」
「は、はい」
「あとさ、俺には疾駆と瞬動のスキルがあるんだよ」
「へえ、移動系のスキルを二つも持っているんですか!流石タカキさんです」
「ははっ、ありがとう。でね、俺のステータスと、この二つのスキルを使えれば、明日には到着出来るんじゃないかなって思ってさ」
このスキルを手に入れたときは条件を満たしたって感じだったからな。
それを今度はスキルとして意識的に使えばあの時よりもさらに速くなるだろう。
「分かりました。私はその後を追いかけますからタカキさんは食料の調達をお願いします」
「え?」
何言ってんの、この娘?
「一緒に行くに決まってんじゃん」
「ふぇ?」
不思議そうにするリリアス。
「まあまあ。明日になれば分かるよ。とりあえずはここで一夜を過ごそう」
「は、はあ。分かりました。それでは私が見張りをしていますね」
「待った待った!どうしてリリアスは自分が大変になることばかり率先してやろうとするの」
「いえ・・・。私にはこれくらいしかタカキさんのお役に立てることがないですから」
ネガティブ!
ネガティブだよ、リリアスさん!
「そんなことないよ。この世界に来て、リリアスが一緒でよかったって思っているし」
「あ、ありがとうございますぅ」
顔を真っ赤にして俯くリリアス。
多分、俺と数歳しか違わないはずなのに、何だろうか。
この守ってあげたくなる気持ちは。
「じゃあ、俺が先に見張りをやるよ。途中で交代ね?」
「で、でも!」
「ハイハイ。リリアスは俺の召使いや奴隷じゃないんだから。旅の仲間でしょ?」
「うぅ。はいぃ」
俺の言葉に折れたのか、見張りの件を認めるリリアス。
「じゃあ、先に寝てて。何かあったら起こすから」
「はい。お願いします」
そう言って横になるリリアス。
あんまり納得はしてないっぽいけど。
「・・・・・・」
それから俺は周りを見ながらボーっとしていた。
暇だ。
まあでも、先にリリアスを見張りにしたら絶対朝まで起こさないだろうし。
これでいい。
そうして夜が明けていった。
・・・
次の日。
リリアスとあの後、交代の時間が来てから交代した俺は特に語ることもないくらいに普通に寝た。
俺はリリアスに優しく起こされる。
「タカキさん。タカキさん。朝ですよ」
「うーん。あさ?」
「はい。朝です」
「そっか。いつも起こしてくれてありがとう、沙羅」
「?私、リリアスですよ」
「?・・・・あれ?」
どうやら寝ぼけていたようだ。
うっかり妹の名前を出してしまった。
「おはようございます」
「おはよう」
「それで、サラさんって誰なんですか?」
「ど、どうした?リリアス。そんな怖い顔して」
「いえ、何でもありません」
いや、明らかに怖かったよ。
にこやかだけど目が笑ってないもん。
「それより、昨日言っていた一緒に行くってどういうことですか?」
「ああ。それは簡単さ。すぐに分かるから荷物の準備をして」
「はあ」
準備をしたらさっそく出発だ。
「準備、終わりました」
「おう。それじゃ行こうか」
「はあ。それでどうするんですか?」
「こうするのさ」
俺はそのままリリアスを抱き上げる。
いわゆるお姫様抱っこ。
将来、一回はやってみたいとは思っていたんだよね。
「きゃあ!」
リリアスは突然のことに動揺する。
「タ、タタタタタタタカキさんっ⁉」
「行くぞ~」
リリアスは何か言いたげだったが、そこはスルー。
「<疾駆>、<瞬動>」
いずれは口に出さなくても発動できるようになりたいけど、今はこれで。
俺と俺にお姫様抱っこされたリリアスは勢いよく出発した。
・・・・・・・風、ハンパないね。
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