火打石への旅路3 匂い

「まあ、そうなったらそうなったで、新たな村を作ればいいし。小屋ぐらいはすぐに作れるだろ」

「小屋だけじゃ無いんですけどね。あの場所はなにをするにも最適の場所ですから」

「なにかってなんなんだ?」

「農業とかですよ」

「そうなのか?」

「農業をするには、畑を耕す土地と灌漑をする水資源が要りますからね。他の場所で農業をするとなると大変ですよ。畑を作っても水が手に入らないから天候まかせの農業となってしまいます」


 そういえば地球の文明発祥の地は何処も川のすぐ近くと聞いた事が有るな。

 やはり川は村作りにとって重要か。

 そうなると、なにがなんでもあの村に戻らないとな」


「それにお魚の獲れる漁場も完備していますし海にも近い、あの村はパラダイスと言っても差し支えない場所だと思います。何としてもあの村に戻るべきです」

「あの村の位置ってこの島だか大陸のどの辺りに位置しているのか解る?」

「冬ごもりを除くと、あの村から出たのが初めてなので解らないですね」

「僕も当然わからないんだけど……。ところで月夜はあの山に火打石が有ると言っていたけど、行ったこと有るのか?」

「いいえ、ありません」

「じゃあ何であの山に火打石が有ると解るんだ?」

「あそこには火打石が有りますから」

「それじゃ、僕の質問の答えになってないだろ?」

「有るから有るんですよ」


 月夜は何かを隠してるような、言いたくないような感じだ。

 これ以上追求しても月夜が言わないのは解っていたのでこれ以上その事を追求するのはやめておいた。


「随分と村から離れた所まで来てしまったんだけど、せめて目印になる物を置きながら歩いて来れば良かったな。でもここまで来てしまったらもう手遅れか。もうあの村には戻れないかもしれないな……」

「そんな物を置いたとしてもこの丈の高い草むらの中じゃ、埋もれて見えませんよ」

「そう言われるとそうだな」


 僕が暗い顔をしていると夕焼けが心配そうに声を掛けて来た。


「どうしたにゃ?」

「もうあの村に戻れないかもしれないんだ」

「なんでにゃ? 王様と作ったあの村に帰りたいにゃ!」

「帰り道が解らなくなったからなんだ」

「それなら大丈夫にゃ」

「何か目印になる物でも有るのか?」

「大丈夫にゃ。匂いを嗅げばいいだけにゃ」

「匂い?」

「王様の匂いとあの村の匂いにゃ。それを嗅いで戻ればいいだけにゃ」


 そう自信満々で得意気に言う夕焼け。

 犬じゃあるまいし、そんな事ある訳ないだろ?と言いかけたがやめといた。

 野生児の夕焼けなら、そんな事も出来そうな気もする。

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