Retrospect 2

= retrospect 2 =


『大下さんと真鍋さんは結婚しないんですか?』

会社の忘年会は無礼講だけど、いきなりだな。

というか、私と真鍋さんと結婚が並列する意味がわからない。

「意味がわからないな。」

正直に答えた。

『えっ?付き合ってるんじゃないんですか?』  

真鍋さんと社長は、1年目と2年目のスタッフのことを『若造』と言う。

22歳、新卒だけどもう8ヶ月経つよね。役職名は使わない社風だけど、一応、私上司だよね。

この自由さが、また新しい楽しいを創るのかもしれないと思うと微笑ましい。懐かしい。そしておもしろい。

こんなだったのかな、ゴリやカバにとって私も。こんな感じだったのかな?

「付き合ってないよ。大阪の会社で同期だったの。私は短大卒で真鍋さんは四大卒だから2歳先輩だけど。」

『えっ!大下さんって短大卒なんですか?』

話変わったのかな?

この自由奔放さが・・まあいいや。

『てっきり付き合ってると思ってました。だって大下さん、真鍋さんとよく呑みに行ってるし、真鍋さんの前では戦闘モードじゃなくなるし。すっごく優しい目になるじゃないですか。』

戦闘モードって久しぶりに聞いたな。

私、普段どんな顔してるんだろ?

瑛琳は凛々しいって言ってくれたけど。

しかし君、クライアントの前では敬語使えてるよね?

『てっきり付き合ってるんだと思ってましたぁ。』

だいぶ酔ってるね。

社長と真鍋さんに聞かれない方がいいよ、多分、その言葉遣いは。

でもその観察眼、センスある。この子の創るもの私好きかもしれない。

確かに真鍋さんとは最近よく食事や呑みに行く。

佐々田社長と三人で約束するけど、社長に予定が入ってドタキャンになるから、二人になるだけだけど。

佐々田社長や真鍋さんと過ごす時間は好きだった。大阪を思い出す。私の一番楽しかった頃を。

そしてゴリをカバを。

彼を。

彼をひたむきに愛していた自分を。

私の眼差しはきっと、一番幸せだった頃に帰るんだろう。

自分ではわかってなかったこと、教えてもらった気分。

私より5歳年下。

こんな風に見えていたのかな、あの頃のSHINに私は。微笑ましくて、あぶなっかしい。

最近は仕事をしているといろんなことを忘れている。忘れられている。ゴリやカバのことも、SHINから何も連絡がないことも。だからひたすら働いている。

でもSHINのことだけは忘れない。

PC で言えば画面を最小化して心の角に納めている感じ。

社長や真鍋さんと話すとそれがパッと開く。

特にオフの時間は、社長と真鍋さんが琴線になって甦る。

懐かしい時間の中の愛しいSHIN。

左手でピアスを触りながら耳を澄ます。

風が吹いていたらなお鮮明に、心の中にSHINの欠片が散らばる。


そんな私の心の動きが、表情に現れていたのかな。なかなか鋭いぞ、若造くん。

『じゃあ大下さん、彼氏いるんですか?』

すごく酔ってるよね? 隣の先輩くんが

『こらこらそれセクハラ。』

って。そうそう勉強会したよね。私はいいけどね。

『おまえ、主任口説いてんの?』

ってちょっと焦ったみたいに言って彼の頭を小突いた。

『すいません。教育しなおします。』

そう言って新人くんの頭を押さえながら、自分も頭を下げる。いいよ無礼講。

私はもう『若造』くんたちの中には入れない。ちょっと淋しいなあ。


明日はX'maseve。SHINがNoonで(happy Christmas)を歌わない5回目のX'masがくる。

今頃どこにいるんだろう。同じ夜空を見ているのかな。

帰ったら久しぶりに、じっくりDVDを観よう。

allelujahに浸ろう。

仕事のことも、今の状況も、全部忘れて。

社長や真鍋さんに向けるより、もっともっと優しくて穏やかな表情に戻って。

一番素敵なX'masに帰ろう。

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