Second memory 35

= second memory 35 =


一日一日があっという間に過ぎていく。

お盆前に嬉しいことと、哀しいことがあった。

嬉しいことはSHINからのメールがきたこと。ネットが繋がる場所に移動したらしい。また繋がらなくなるらしいけど。

ラブレターみたいなたくさんのメールと、笑顔の写真。髭生やしてる。似合わない。ちょっと痩せたけど元気そうだ。よかった。

肝試しのあと、私も毎日写真を撮って送っている。ご飯食べてるとことか、イベントの遊園地での様子とか。必ず笑顔で。その写真たちも受け取れたかな?


哀しいことは、本当に哀しすぎて泣いた。

ツーちゃんが〈SHELLEY 〉を卒業した。

前々から東京のタレント事務所にスカウトされていたらしい。crazy night のあと、大阪のTVには何回か出演していたから、そこで声を掛けられたみたい。

カバやゴリに反対されたこともあって、悩んでいたけど、山田さんとの別れで決心したって。

『条件いいの。手術するお金もすぐに貯まりそう。淋しくなるけど頑張ってくるね。ごめんね、一緒にSHINを待てなくて。』

ツーちゃんはそう言って東京に行った。

新大阪駅で、ママとゴリとカバと四人で見送ったときは、二人で抱き合ってワーワー泣いてしまった。ツーちゃんは間違いなく、初めてできた私の親友だから。私の胸を初めて触った、SHINよりも先に触った私の親友。

だから淋しいけど応援する。頑張って。テレビ見るから、どんな深夜枠でも。

ツーちゃんの壮行会で、初めて二人でデュエットをした。ツーちゃんのリクエスト。

DREAMS COME TRUEの(サンキュ)。

二人で手を繋いで泣きながら歌った。

カバもママも泣いてた。ゴリまで涙ぐんでた。

絶対に忘れないデュエット。

生まれて初めての友達とのデュエット。

夢を叶えたら帰ってきてね。

お休みのたんびに帰ってきてね。

帰ってきてね。

がんばろうね。ステキな大人になろうね。離れていてもお互い。


8月がもうすぐ終わるのに、SHINが帰って来る予定がわからない。

正確に言うと、9月の最初の月曜日で約束の2ヶ月。私の忙しさはまだ続いている。

目標にしてたピアノの練習も8月に入ってからできていない。SHINの部屋に行っても、DVD を見てはベッドで眠ってしまってばかりいる。ダメじゃない。

お兄ちゃんのことも気になるけど、あれから大下にも帰っていない。

お母さんと電話で話すけど、お兄ちゃんの話はお互いにしなかった。お兄ちゃんにメールをしたけど

『ボチボチやるわ。朋も忙しそうやから夏はもう会えんな。』

という返事が来ただけだった。

とにかく8月が、世間の夏休みが終われば・・。

夏の終わりはいつもなんとなく淋しく感じて、まだ終わらないでって思ってきたけど、今年は1日でも早く終わってほしい。

そう言えば昨年の今頃は、crazy nightで走り回ってたなあ。もうあれから1年経ったんだ。


9月3日、約束の月曜日。

でもまだ帰ってくる予定の連絡はない。SHINからのメールもこない。オーナーの方ではSHINのチームがいる場所は把握できているとゴリが言っていた。みんな無事だからって。

仕事は落ち着いた。デスクワークのみに戻っている。夏の間に集まったアンケートの集計や分析の仕事はたまっているけど、夏休みの休日出張の代休もあるし、私はいつでもどこでもSHINを迎えに行ける。


9月3日の夜から、夢の中にSHINの背中の傷が出てきて、目が覚めることが続いている。

メールがないということは、まだネットが繋がらない場所にいるっていうこと。約束の日なのにまだ帰るための移動をしてないっていうこと。

いつ連絡があっても迎えに行く日に休暇がもらえるように、夏休み中のアンケート集計と分析を黙々と続けた。これを全部終わらせたら、SHINが帰ってくるかもしれないと思って、ただひたすらに。

ランチタイムもほとんど休まなかった。デスクでパンを食べる。その時間も書類を読んだ。

1日でも1分でも早く、この夏の集計を終わらせるんだって思っていた。今年の夏を終わらせるんだ。

残業のときも夕食は、片手でマウスを操作しながらパンを食べた。真鍋さんはムリするなって心配してくれたけど、そうしている方が妙な不安に蓋ができていた。

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