Second memory 22
= second memory 22 =
月曜日も私が先に目覚めた。いつものようにそっと起きて朝ごはんを作る。これがSHINが出発する前に二人で食べる最後の食事で、彼が出発前に日本で食べる最後の食事になる。
SHINたちは、大阪国際空港から韓国のインチョン国際空港に飛んでトランジットでバンコクに向かう。
そこからどうやってアフガニスタンに入るのかは教えてもらっていない。いつ頃現地に着くのかも。
教えてくれないというか、いくつかのパターンが想定されているのでわからない、というのが真相みたいだ。もうそんなことに不安は抱かない。
相変わらず気持ちよさそうにスースー寝息をたてているSHINの背中を見ながら、昨日のことを思い出す。
本当にあれでよかったのかな。
私の感覚で、私の想像で、私の決断。
本当はSHINは私に止めてほしかったんじゃないか・・違うね。そんな人じゃない。
自分の中で葛藤があっても彼は行くことを選ぶ。そこは妙に納得ができた。もしかしたら私は、SHINのそんな部分も本当は好きなのかもしれない。皮肉だね。
そしてもうひとつの決心。これはわからないけど、どうなるかわからないけど、どんな結果でも後悔はしない。絶対にしない。万が一、SHINが帰れなくても。
11時半、SHINは先に巨大な荷物を車に積みに出た。大きなリュックを背負ってドアを出て行く姿を見ただけで、胸がいっぱいになる。車に積んだらすぐに戻ってくるとわかっているのに。
結局最後までどちらが運転するかでもめたけど、じゃんけんの結果、SHINがハンドルを持つことになっている。帰りは私が一人で運転して駐車場に停める。
SHINが部屋のカーテンを閉めた。火の元の点検もしている。
カーテンを閉めて出かけるのは初めてでしょ。なかったものね。
カーテンを閉めてるのは、私が夜にここに帰ってくるかもしれないことを想定してるんだよね。私の安全のためだよね。でも、いきなり暗くなった部屋の中が辛い。出発だね。
車の中ではずっとSHINの好きな音楽を聴いた。彼はずっと歌ってる。ちょっとしたミニライブだよ。でもいつもはいろいろ話すのに。
当たり前だよね。行くのはSHINなんだから。命の危険がある場所に行くんだから。いつもと違ってあたりまえだね。
でも、ハンドルをピアノみたいに叩きながら、歌いながら運転するSHINを見て、今のあなたの運転の方が私より絶対危ないと思っていた。
CDが終わったときに彼がいきなり言った。
『ねえ、(time after time )を歌って。この間みたいにゆっくりだと眠たくなったらいけないから、いつもみたいに。シンガーCHERRYの時みたいに。僕は好きたったんだよ、CHERRYの歌の中であの曲。知ってた?』
知らなかったよ。だって普段も歌ってって言わなかったじゃない。
きっと歌詞の意味を考えてたんだよね。だから言えなかったんだね。大丈夫だよ、歌える。
真っ直ぐに前を見つめながら、SHINのリクエストに答えて大好きな歌を歌った。今の私の気持ちのままの歌を歌った。
空港の駐車場は広い。
大阪国際空港でもこれだけ広いんだから、関西国際空港にSHINが帰ってくることになったら・・。
とにかく夏の間に何度か車で行って練習しておかないと。そんなことをポロっと呟いたら、SHINはその場合は電車で帰ってくると言いはった。
だから運転の練習しなくていいって。
それは私の心配?車の心配?笑いながら、これから彼がどこにいくのかということを考えないようにしている。もう空港の駐車場だから。トランクからSHINが巨大な荷物を出して背負っているから。
『cherry、どこに停めたか何かに書いておいて。きっと君はわかんなくなるから。』
って。失礼だな。でもSHIN はポケットからいつも使ってる水性ペンを出して、私の掌に駐車番号を書いた〈H53〉。
「えー!」って言った私に
『石鹸で洗ったら消えるから。』
って笑いながら言った。
その細い体で、よくその荷物を持って普通に歩けるねって感心するくらい、彼は普通に歩いている。
やっぱり私が入ってても大丈夫そうだね。
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