Second memory 19
= second memory 19 =
金曜日、お休み。SHINはやっぱり出かけた。
『休みとってくれたのにごめん。』
って。しょうがないよ。
「いってらっしゃい」
って玄関で手を降って見送った。こういうことしたかったよ。
洗濯をしてベランダに干す。背伸びしてシーツを干した時に、あの日のことを思い出した。
嬉しかったことと、それを取り囲むように溢れていた幸せのかけら。そんなひとつひとつが小さなダイヤになって、今、私の耳で光っている気がする。
SHINがくれたカケラたちを大切にしようと思う。心の中に小さなオルゴールを置いてその中に入れていこう。何歳になってもメロディが流れたら取り出して、小さな幸せを思い出せるように、感じられるように。SHIN が近くにいる時もいない時も。思い出のカケラたちを慈しみ続けよう。
公園の木が風にザワザワいってる。この音もオルゴールの中に。どこにいたって木の葉の摩れる音を聞いたら、私はSHINを想う。
SHINは11時半に帰ってきた。ちょっと飲んでるみたい。でも歩けてるからほんとにちょっとだね。私より弱いもんね。
彼はなんだか一生懸命ブーツを脱いで、そのままPC に行った。そして電話とPC のモジュラーを抜いて、TV のコンセントも抜いてる。何してるんだろ?
『cherry!準備は全部終わった!土日はもうどっこも行かない!cherryしか見ない!外の世界は遮断する!』
やっぱりちょっと酔ってるよね?どんだけ飲んだんだろ。
でもありがとう。もしかしたら、最後の二日間を空けるために毎日遅くまで走り回ってたの?あんなに疲れてたの?ごめんね。ありがとう。背中から抱きついてきたSHINの腕を胸の前で抱きしめた。
土曜の朝に二人で近くのスーパーに食材を買いに行った。一人で行こうかと思ったけど1秒も離れたくなかった。SHINも同じ気持ちでいてくれたみたいで、一緒に行くと言ってくれたから。
それ以外は部屋から出なかった。郵便受を見に行く以外は。郵便受を見に行くときも二人で行った。近所の人が見たらとんだバカップルだろうな。郵便がくる時間を見計らって見に行ったけどRudrakshaはこない。お店に電話したけどテープの音声が流れるだけだった。
『もし間に合わなければ、くまのSHINにつけてて。きっとガネーシャの念が僕に飛んでくるよ。』
誕生日プレゼントのくまのぬいぐるみの名前はSHIN。金曜日にお店が発送してたら明日にはくるよね。きっと届くよね。ガネーシャ、お願い。
泣きそうになりながら郵便受を閉める私の肩を抱いて、SHINは
『大丈夫だから』
って言ってくれる。かえって心配させてるみたいだね。落ちこまないようにしないと。
「間に合わなければ、くまのSHINにかけて、私が毎日お祈りしとくね。」
そう言って笑った。それが精一杯。
こうしてる間も砂時計の砂は落ちている。もっと一瞬一瞬を大事にしなくちゃ。悲しい顔なんか見せずに笑顔でいなくちゃ。
今できる楽しいことをしよう。近い未来のことも遠い未来のことも考えずに、今、この瞬間にSHINがしたいことを全部。エレベータの中でそう思った。
明日の朝までもうポストは見ない。明日の朝、早起きして一人で見にくればいい。
「SHIN、お昼ご飯なに食べたい?」
がんばって笑顔で聞いたら、
『おにぎりが食べたい!』
って満面の笑顔で言ってくれた。
私たちの大切な2日間、まずはそこから。
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