First memory 31

= memory 31 =


私は、一生懸命ご飯を食べた。

彩さんの歌も、SHINさんの歌ももちろんすごく聴きたい。

でも、SHINさんと彩さんのデュエットは微妙。

少し前ならきっと平気だった。でも今は違う。

ちょっと辛くなる。

歌を歌っているだけじゃないかと言われるかもしれない。でも二人ともうますぎるんだ。だから、ほら、指笛も鳴らない。

みんな聴き入っているでしょ?

私とツーちゃんだけが、一生懸命ご飯を食べていた。

私の様子が変なことに気づいたカバさんが、小さな声で耳元で囁いた。

『だから、言ったでしょ。優しすぎるって。』

『ちゃんと聴きなさい。ちゃんと聴いて、もっと強くなりなさい。だいたい、そういうことのスタートが遅すぎるのよ。』

ゴリさんが頭を小突く。

そうだね、遅すぎるよね。

出逢ったのだって私はついこの間だけど、彩さんとSHINさんは、もう2年前からの知り合いなんだし。ちゃんと聴いて、ちゃんと楽しもう。こんなステキな(この世の限り)。

二人のデュエットが終わると、また盛大な拍手が起こった。もちろん指笛も。

深々と頭を下げた彩さんが、引き続きSHINさんにリクエストをする。

『SHIN、(帰郷)歌って。小山卓治の。みんなで歌いたい!あっちでで辛いことあっても、みんなのこと、SHINのこと思い出して頑張れるように。』

『だめだよ。あれは葬式の歌だから。今日はふさわしくない。』

SHINさんの言葉に、彩さんが応える。

『そんなのいい。主役の彩がいいって言ってるんだから!ねえー?』

最後のところはホールのみんなに。

おおーって歓声。みんながOKの返事?

SHINさんは、ちょっとため息をついてピアノを弾きだした。そして歌が始まる。

・・・ほんとだ。お葬式の歌・・・・

彩さんはなんでこんな悲しい歌をSHIN さんに歌わせるんだろう?

SHINさんがちょっとかわいそうになる。

と、彩さんがマイクをとった。

3番は彩さんが歌う。さっきまでの彩さんの歌とは違う感じ。

サビの部分がきた。

すると、ホール中で大合唱になる。すごい!

スタートはSHINさんのピアノだけだったけど、途中からいろんな楽器が入っている。

アコースティクギターを弾いている人、ウッドベース、さっきからは、私の近くで誰かがカホンを叩いている。

何番になったのかわからないけれど、同じメロディーが繰り返されているようで、最初から比べると半音上がってる?カバさんがマイクを持った。

カバさんも歌い始める。Aメロを歌い終わったカバさんが私の背中を軽く叩いた。

何回も繰り返されるサビを聴いたから、その部分の歌詞は大丈夫、メロディーも。

カバさんは自分でマイクを持って、私の声も拾うようにした。カバさんと二人で1本のマイクでサビを歌った。大合唱の中に溶け込むように、二人とも声量を極力抑えて。

そして、また半音あがった。何度も繰り返されるサビの部分を、私も一緒に歌った。

あちこちから聴こえるいろんな楽器の音。いろんな人の声。だけどそれがすべてひとつになって、ホールに響き、共鳴する。なんて気持ちのいい空間なんだろう。

お葬式の歌だけど、彩さんがこの歌を聴きたいって、歌いたいって思った気持ちが、手に取るようにわかる。

歌詞の意味じゃなくて、この空気を確認しておきたかったんだ。一人ぽっちになる前に、自分の帰る場所の空気を思いっきり吸っておきたかったんだ。

6ヶ月間、まったく知らない土地で、一人で頑張るために。彩さんの言葉を思い出す。

ーアメリカで辛いことあってもみんなのこと、

SHINのこと思い出して頑張れるように。ー

彩さん、頑張れるね、きっと。

こんなにたくさんの人たちに、ステキな人たちに待っていてもらえるんだから。

きっと頑張れるね。

彩さんには、帰る場所があるんだから。

ここが彩さんの帰る場所なんだから。



■Today 's Favorite sounds■

Swallowtail Butterfly~あいのうた~/YEN TOWN BAND

Don’t cry out loud/Melissa Manchester

あなたしか見えない/伊東ゆかり

Desperado/Eagles : Carpenters

M /princes princes

この世の限り/椎名林檎&斎藤ネコ&椎名純平

帰郷/小山卓治

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