第二章

 覚悟を決め、私は天音の部屋に近づくと小さく二回ドアを叩いた。


「……天音、私。さっきメールした通りお見舞いに来たよ。入っても良い?」


 言って、中からの返事を待ち耳を澄ませる。


 だけど、ドアの奥からは物音一つすることなくただ静寂だけがドアの隙間をすり抜けて流れていくだけ。


 おばさんの顔を一瞥し無言のまま中に入る許可を求めると、おばさんもまた暗黙の了解として頷きを返してくれた。


 ドアノブを回し、ドアを引く。


 鍵は掛かっていなかったためあっさり開いたドアの向こうを、私は恐る恐る覗き込んだ。


 まだお昼過ぎだというのに、カーテンが閉められ薄暗い室内。


 扇風機もクーラーも点いていないようで、異様に蒸し暑い。


 おそらく、窓を開ける程度の換気もしていないのだろう。澱んだ重い空気が、開けたドアから放牧された羊みたいな勢いでリビングやキッチンの方へ走り抜けていった。


「天音……?」


 部屋の奥。

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