第一章

「どうしたの、こんな朝から。貧血にでもなった?」


 何か書き物をしていたらしい先生が、椅子ごと回転してこちらを向いた。


 ショートカットの整った髪がサラリと揺れる。


 去年この学校に来たばかりの、若い先生。


 名前は、坂下さかした玲菜れいな


 以前にちょっとだけ話をしたときは、まだ二十五歳くらいだと言っていたような記憶がある。


 細身で美人で、かけている眼鏡も似合っている。


 何と言うか、どこかの研究所で働いている研究員のような印象を受けてしまう。


「あの、天……百瀬さんが朝からずっと気分悪いみたいで、しばらく休ませてほしいんですけど」


 天音の背中をそっと押しながら、先生の側へと近づく。


「んー? 本当だかなり顔色悪いね。熱は?」


 ジッと天音を見つめてから、小首を傾げる仕草をして先生は訊いてくる。


「いえ、ないと思います……」


 おどおどとした態度で答え、天音は遠慮がちな視線で先生を見つめ返す。

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