第一章

「本当に具合なんて悪くないんだけど……。あたしそんなに酷い顔してるの?」


 眉根を寄せながら自分の頬を擦る天音。


「うん。すっごい青白い顔してる。授業中だってずっと俯いたままだったじゃん。寝不足なだけならそれで済む話なんだし、とりあえず休むだけでもさ。ね? ほら、立って」


「う、うん……」


 私に肩を叩かれ、渋々といった感じで天音は立ち上がる。


 途端、バランスを崩すようにふらついたのを見てそっと身体を支えた。


「ほら、やっぱり普通じゃないよ。登校してくるのだって辛かったんじゃないの?」


「ん……」


 指摘され、ばつが悪そうに目を伏せる友人を促して廊下へと歩きだす。


「あれ、あんたらどこ行くの?」


 教室を出る直前、隣の席に座る男子と喋っていた郁代がこちらに気づき見上げてきた。


「天音、ちょっと具合が悪いみたいだから保健室に」


「……ふーん」


 チラリと天音に視線を這わせてから、郁代は微妙な様子で頷きを返してみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る