第30話
翌日、俺たちはいつもの場所で昼食を採っていた。
「で、結局希望通りに備品係になったわけだけど」
「けど?」
「クラスの方と両立するのきついと思わないか?」
「そうよねぇ……」
そうなのである。考えていたよりもかなり仕事がきつい気がするのだ。
「当日まで放課後かなりの時間学校に拘束されると考えると……」
帰宅部的にもなんとも気が重い話である。
「まあそれは準備期間が始まってから考えるとして」
「問題は今後どういう風に身を振っていくかでしょ」
そう、ここまでは黙っていても話が進んだ可能性は高いしそもそもあんまりコミュ障の改善に役立ってもいない。ここから文化祭に向けてクラスの人や実行委員の人とどういう風にコミュニケーションをとっていくかが重要なのである。
「まずはクラスでどうやっていくかだけど」
クラスの企画はコスプレ喫茶で決定、各責任者も決まりあとは衣装と内装をどうするか決めていくだけだ。これには買い出しなども必要になってくるだろう。率先して買い出しに行くべきか否か、それはその時に考えるとして
「衣装ってどんな風になるんだろうな。そもそも作れる人とかいるのかな」
できればとびっきり露出が高いのとかでもいいんだけど。
「どうしたの急にニヤニヤして。気持ち悪いわよ」
思考が顔に出ていたようだ。それにしても気持ち悪いってひどくないですかね。
「コスプレ喫茶っていうくらいだからやっぱり何種類か用意するんでしょ? 私はメイドさんくらいしか思い浮かばないけど」
アニメのキャラクターになっても分かりづらいし、あまり過激な格好をしても実行委員に止められそうだしなぁ。
「まあ女子の皆さんに決めていただけばいいんじゃないかな」
「えっ、男子もコスプレするのに?」
「えっ」
どうやら俺と彼女の間には認識の齟齬があったようだ。
「てっきりかわいい女子を使って客引きをするためにコスプレ喫茶にしたんだと思ったんだけど」
「そうはいうけど、かっこいい男子を使えば女の子も客引きできるじゃない」
いや、言われてみたらそうなんだけど、俺の中の何かがそれは違うと言っているような気がしてな……。
「そうよ! 女装とかしたらいいじゃない! ありきたりだけど盛り上がるのは間違いないわよ」
「俺は食事時に女装なんか見たくないんだが……ていうか俺たちがやるわけじゃないんだからこんなの考えてもあんま意味ないよな」
「先に言い出したのはあなたでしょ」
「そうだったっけ? まあそれはともかく、実行委員ではどういう風にする?」
「クラスの方は何も決まっていないんだけれど……。まあそうね、備品の実行委員はもう一人いたわよね? 長山君だっけ、私はひとまずあの人と話せるようになればいいかなって感じかしら」
そうだ、頼れる長山がいたんだったな。長山になら少し備品係をひとりで任せることもできるかもしれない。
「それじゃあ長山と普通に話せるようになって、その他の有志の人にも少し話せる人ができたらクラスが大変だとか言って少し仕事を抜けてクラスの様子も見に行けばいいか」
「それって大丈夫なのかしら」
「備品の方が滞らない限りは大丈夫だと思うよ。去年も実行委員の人がクラスでも頑張ってたし」
それに上野さんも無表情にならなくなってきている。この間にできるだけ多くの人と話す機会を作った方がいいだろう。
「そういうものかしら」
「そういえば昼ご飯なんだけど、クラスの人と食べてみるのはどうかな」
突然の提案に目を白黒させる上野さん。
「俊之が前に言ってたんだけど、一緒に食事をした方が人と仲良くなりやすいんだってさ」
「確かに、私たちも一緒に食事をして仲良くなったわよね」
急にそういうことを言われてもちょっと照れるんですけど。
「……まあそういうことで、藤井さんと一緒に食べるなりしたら周りの人とも一緒に食べることになるだろ?今なら文化祭が共通の話題になるし」
「だけど、ここでも週二回は食事をしましょ。作戦会議は必要でしょう?」
「それは別にいいけど」
作戦会議ならSNSでもできると思うのだが。
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