第16話

「文化祭実行委員に二人で立候補するですって!?」

 まあそういう反応になりますよね。俺も俊之から提案されたときには驚いたもんだ。

「まあまあひとまず話を聞いてくれ。これは昨日俊之が提案してきたんだが......」

 話は昨日にさかのぼる



「文化祭実行委員に上野さんと二人で立候補しろだって!?」

 急に何を言い出すかと思えば、俊之はいかにもいいことを思いついたという表情でそんなようなことを提案してきた。

「まあまあここはひとまずおとなしく話を聞いてみろって。まず第一に、お前ら二人はおそらく今まで行事にあまり関わってこなかったんじゃないかと思ってな」

 だから何だというのだろうか。

「そこで今度の文化祭だ。とりわけ、文化祭実行委員ともなれば必然的にクラスの人や他クラスの人とも話すことが多くなるだろ?いや、話さざるを得なくなると言ったほうがいいか」

「それとさっきお前がさっき言ったことと何の関係あるんだよ」

「いやなに、文化祭に関わってみれば人との距離感を取れるようになる、もとい取らざるを得なくなるってな。俺の経験上学校の行事で一緒に行動してたやつはそのあとも一緒に行動していることが多いからな」

「あ~確かに。行事が終わった後にできてる謎のコミュニティってのはあるな。特に学年最初の行事の後はいつの間にか周りがやけに仲良くなってて、俺はいろんなグループを渡り歩くってのが今までの流れだわ」

「お前......思ってたよりずいぶんひどいじゃねえか......」

 なぜか呆れられてしまったが、もう一度俊之の提案についてよく考えてみる。

 少なくとも今までの俺と違うことをするっていう点で、何か変化があることは間違いないだろう。今の俺のクラスでのイメージは俊之のおかげでなんか急にやる気出したやつにまとまっているはずだから何の不自然さもない。そして犠牲にするものは放課後の自由な時間くらいのもので俺には何の問題もない。問題は彼女がよしとするかどうかだがそれは後で聞けばいいだろう。

「なあ、この場合俊之のサポートはありと考えていいんだな?」

「それは別に構わないぜ。言い出しっぺだしな。でもあまり期待されても困るぜ?あくまでお前が実行委員をやるんだからな」

「わかった」



「......という流れで立候補しようと思うんだけどどう思う?」

 かなりすっきり伝えられた気がする。我ながら会心の出来だ。と思わずドヤ顔になってしまう。しかし彼女はいつの間にか無表情になっていた。

「ええ、ひとまず私のコミュ障がいつの間にか渡会君の知るところとなっていることがわかったわよ」

 あ、しまった!今の説明じゃそうなっちゃうよな~

「大丈夫!俊之だから!」

「私は彼のことなんて全然知らないわよ」

 無表情なのにこの迫力は一体何なんだ!俺は恐怖のあまり後ずさる。

「......はあ、まあいいわ。渡会君を信じてるあなたを信じればいいのよね」

 緊張感がなくなり俺はゆっくり深呼吸をする。なんだか勝手に謎の論理で納得してくれたのは僥倖だ。

「それで、実行委員に立候補するのよね?何かメリットはあるのかしら」

「メリットか、う~ん。文化祭で退屈しないで済むとか?」

「なんで疑問形で私が毎年退屈してる前提なのよ......まあ否定はしないけど」

「あとはそうだな、少なくともクラスの人と関わりを持たざるを得ないってのは俺たちにとっては大きいと思うんだけど」

「確かにそれはそうだけど......」

「......これも俊之が言ってたんだけど、最初の行事は最初にして最後のチャンスらしいよ」

「そこまで言われたらやらないという風にも言えないじゃない!あのリア充オーラ野郎が言うといやに説得力があるわね!」

 今度はあっさり俊之の言うこと信じちゃったよ......。まああいつは確かにリア充筆頭みたいなオーラまとってるもんな。

 とはいえ、ようやく彼女がやる気を出したようで一安心だ。


「はあ~。でもそんなにうまくいくものかしらね?」

「まあ心配いらないんじゃない?ああいうのって仕事自体は結局誰でもできる範疇におさまってるはずだしさ」

「そうよ、普通の人ならね。でも私たちはコミュ障なのよ......普通は誰でもできる仕事ができなかったらどうしましょう」

「やめてよ。不安になるじゃん」



「やると決めたからには今のうちに対策立てるわよ」

 と、上野さんが言い出したのでいろいろ考えてみることにした。

「一番肝心なのはまず確実に実行委員になることよね」

 言われてみれば確かにそうだ。うちのクラスにそういったことをやりたがるやつがいないとも限らないわけだしな。

「とりあえず募集がかかった瞬間に速攻で手を挙げなきゃいけないってことは確かね。くっ、いきなり私には難易度が高いじゃない!」

 自分で言ってダメージを受けている。

「そうは言ってもそれしかないんじゃないかな。実はやりたいけど周りの様子を窺ってるなんてやつはそれだけで蹴落とせるだろ?少なくとも立候補はしづらくなるんじゃないかな」

「わかってるわよそれくらい。でも考えてもみて?私とあなたが急に揃って手を挙げたらなんか変じゃない」

 そうだろうか。それはなんか考えすぎのような気がするんだけど。そんな考えが顔に出ていたのか、彼女はこう続けてきた。

「あなたが急に私に挨拶してきて変な空気になったの忘れたの?そこで示し合わせたように二人が一気に立候補なんてしたら何かあるって思われるに決まってるでしょ」

「いやいややっぱり考えすぎなんじゃないかな。クラスの中ではあのことは俺が急に挨拶してみただけってことになってるし、俺たちの接点なんて席が隣くらいのもんだよ?」

「溝部君はわかってないのよ......女子の想像力は恐ろしいものなのよ......」

 また何か地雷でも踏んだのだろうか......少し気なる。

「じゃ、じゃあまずはどちらかが立候補してから片方が後に続けばいいんじゃないかな」

「う~ん、そうね。それじゃあどっちから立候補しましょうか」

「そりゃあ俺からになるよね」

「どうして私からはダメみたいな言い方なのかしら?」

「基本的に男女一人ずつの実行委員の片方に上野さんみたいのがなったら男子の立候補者がたくさんになっちゃうかもしれないじゃん」

 容易に想像できてしまうな。

「......この前も思ったんだけど、本人を目の前にしてそんなことが言えるあなたは本当にコミュ障といっていいのかしら?だんだんわからなくなってきたわよ」

「何言ってるんだよ。上野さんだから大丈夫なんじゃないか」

 友達だからこそ言えることだと思うんだが違うんだろうか。

「わざとやってるようにしか思えないわよ......そうじゃないことはわかってるんだけどね」

 結局そのあとのことは提案者である俊之に相談してみるということでその場は解散した。


 放課後、俺と俊之は俺の家にて二人で話をしていた。

「へ~案外普通に話に乗ってきたんだな。望み薄だと思ってたわ」

「どういうことだよそれ!」

 あらかた彼女との会話の内容を説明すると俊之はそんなことを言い出した。

「いやだって、自称コミュ障さんに急にこんなこと言っても普通、断固として拒否するだろうと思ってな。乗せられやすいお前ならまだしも」

「ひどい......」

 何がひどいって、何から何まで俺に対するこいつの評価がひどい。

「まあその点ではあれだな。むこうもお前のことを頼りにしてるんだろうな」

 どうなんだろうか?俺が数少ない昔からの仲である俊之を頼りにしているようなものかな。

「まあ自分で言うのもなんだが、今のところ唯一の友達って感じだしな」

「あー......まあそうだな」

「なんだよ。歯切れが悪いな」

「いやいやなんでもないって」

 最近こいつはこんな感じの態度をとることがよくあるな。まあむかつく態度でもないし時期に何か教えてくれるだろう。

 それにしても彼女と二人で話してもいい案は出ないし、俊之とわざわざ後から話すのも面倒だな。

「なあ俊之、お前も昼休み一緒にご飯食べないか?」

 そうだ、この手があった!と言わんばかりに提案してみる。

「やだ。絶対ヤダ。」

 しかし返ってきたのは強い拒絶だった。

「え~なんでだよ。俊之が直接いてくれたほうが話すのも楽じゃん」

「いやーまあそうなんだがな、こればっかりはちょっと遠慮させてもらうぜ。理由は自分でしっかり考えてみてくれよ」

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