第14話
「そういえばあなた、一緒に教室に帰ることって今までなかったわよね」
昼食を少し早く食べ終わった上野さんが今更そんなことを聞いてきた。
「まあそうだね。俺のほうが食べ終わるのも早いことが多いし、二人で行くと目立つでしょ」
彼女と一緒に教室に帰ったらほかの男子から根彫り葉彫り説明を求められるに違いない。
しかし彼女は首をかしげていた。
「目立つ?別に友達と二人で教室に戻っても目立つことなんてないと思うのだけれど、何か問題なの?」
どうやらこの人、周りからの自分の評価を理解していないらしい。
「ちょっと待って。上野さん、自分が周りからどう思われてるか知ってる?」
「そりゃあ根暗で普段から余計なことは喋らないとか、真面目とか、とりあえず、陰キャラ?......はっ!もしかして嫌われてたりとかするの!?」
本当に自覚がないようだ......。美人が自身を過小評価していることほど嫌味なものはないと思う。
このままではコミュ障脱却に支障が出ると思うので俺は簡単に彼女が周りの人からどんな風にみられているのかを説明した。さすがに本人に向かって美人だのなんだのどうこう言うのは精神的にくるものがあったが仕方ない。
「......まっさか~そんなわけないでしょ?......ねえ、あなたもそう思ってたの?」
言えるわけないでしょう!と内心で絶叫しながら冷静に誤魔化す。
「いや~最初にここで会ったときイメージがどうのこうの言ってたから自覚はしてるんだと思ってたな」
「最初にここで会ったとき......?そういえばあなた高嶺の花だと思ってたとか言ってたわね......」
そういうと彼女はそのまま俯いてしまった。口元はなんかごにょごにょ言っているが何を言っているかはよくわからない。
こちらも恥ずかしさが限界に近づいて来たのでこの場を立ち去ることにした。
「そ、それじゃあ先に教室戻るよ!」
それから教室に戻ってきた俺の様子を見て、なんだか俊之がにやにやしていたが何か言うわけにもいかないのでそのまま自分の席に座る。
俺が次の授業、日本史の予習をしておこうと資料集をパラパラめくって時間をつぶしていると、いつの間にか上野さんも教室に戻ってきていた。
先ほどの様子とは一変し、いつも通り無表情に何かしらの勉強をしているようだ。切り替えが早いのか、動揺が振り切れて無表情になっているのかはどっちかよくわからない。考えても仕方のないことだが少し気になる。こっちはめちゃくちゃ恥ずかしかったのに相手はノーダメージだったらそれはもうバカらしいからね。
そんなことを考えてるうちに予鈴も鳴り、教室に帰ってきた生徒たちが各々の席に座り、少ししてから先生も教室に到着、授業が始まった。
午後最後の時間は学級会になっていた。やる気のある人がやる気のある人の意見だけ聞いてやるアレである。今日は特にすることがないらしいので最初の学級会から数人ずつ行われている自己紹介の続きをすべて終わらせてしまってから、初めての席替え、残れば自習とのこと。席替えと聞いて少し嫌な予感がしないこともない。席順は男女混合、完全ランダムのくじ引きである。このシステムの恐ろしいところは周りを女子で囲まれてしまう可能性があるところで、ただの授業ではそれほど酷なことはないが、もし授業中にグループを作れと言われたとき、男子一人になってしまうこともあるのだ。
まあそんなことになる可能性はほとんどないのだが、コミュ障を自覚してしまった今の俺には死活問題である。
俺は回ってきたくじの入った箱を凝視し、祈りを込めてくじを引いた―――
嫌な予感がここまで的中したのはいつ以来だろうか。周りは女子で埋め尽くされている。せめてもの救いは窓際の席で隣が一人だけということか。しかし、コミュ障脱却を目指している俺にとってはある意味ではチャンスなのかもしれない。ここはひとつ、隣の人にくらい挨拶をすべきだろう。大丈夫だ、上野さんと話すことによって女子と話すことには慣れ始めているはず、自発的に挨拶をすることがコミュ障脱却のカギになるはず。
決意を固め隣を見ると......そこには上野さんが座っていた。
いやなんでや!俺の決意を返して!......いや、女子には変わりないか。俺は努めていつも通りに口を開けた。
「上野さん。これからよろしく」
「ええ。よろしく」
返事はこの前よりも自然に返ってきた。
全員が席について落ち着いたところを見てから委員長が何か言い始めた。
「えー中間テストが終わってから文化祭があるので、クラスの出し物について今度かその次の学級会で決めようと思うから考えといてください。それと文化祭クラス責任者も今度決めます。」
そういえばそうだったな。うちの学校では文化祭が比較的早いこの時期にある。近隣の学校と被らないこの時期に開催するせいで毎年すごい人数の来場者があり、地域の人気イベントの一つになっているようだ。
今年は俊之も同じクラスだし、一緒に見て回ろうかな。
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