第3話
次の日の昼休み、俺は久々の校内を探険していた。弁当をもって手頃な食事場所を探す。もちろん上野さんの行方が気になったが流石にあとをつけるのは不味いだろうと思いグッと堪えた。あわよくば見つけようという気もあるがな!
この時間帯には理科担当の教師しかいないであろう理科棟を散策する。物理教室や化学教室、生物教室や地学教室といったそれぞれの教室はもちろん1、2階ぶち抜きのサイエンスホールという講義室や各文化部の部室まで入っている。この理科棟は去年工事が終わったばかりの新築で設備も本当にいいものになっている。天文部には展望台まであって4階建ての一番上にぽんとのっかっている。ぱっとみUFOみたいだ。
屋上は基本立ち入り禁止となっているらしい。ただ階段は一番上までのぼれるのでためしに一番上までのぼってみた。うん。なにもないな。本当になにもなかった。あるのは階段、ただそれだけだったがよくよく考えると階段に座って飯を食える。なにもない場所で一人静かに飯を食える。そう考えたらここがとてもいい場所のように思えた。早速弁当を食べようとしたそのとき、下から鼻歌混じりの足音が聞こえてきたのだった。
「ふんふふんふふん♪カレードーナツに焼きそばパンがあって今日はラッキーだったな~」
誰もいないはずの階段で、いや俺がいるんだけどさ。盛大に大きな独り言を発して階段をのぼって来るのは……
「早速味わって食べなきゃね~ふふふふふ♪」
……上野さんだよな?まるで別人だ。あっ目があった。向こうもようやくこちらに気付いたご様子。
「えっ?」
「えっえと、こ、こんにちは?」
「こ、コンニチワ……見た?」
「さてと、なんのことやら」
「そう、見たのね……まあいいわ。べ、別にみられて困ることじゃないし!一人で寂しくご飯を食べてようとしてたわけじゃないし!」
「あっ、そうですか」
どうやらこの娘はあまり関わらない方が良さそうなタイプのようなのでそのまま階段を降りて去ろうとした
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「なんでしょうか?」
「その~……一緒にご飯食べない?」
急に何を言い出すんだこの娘は。その意図がつかめず思わず聞き返した。
「えーと、なんで?」
「うっ……いや、その、こんなところに弁当持って一人でいるくらいだからあなたはいつも一人寂しくご飯を食べてるんじゃないかなって。だから私が一緒にご飯を食べてあげようかなぁ~とか」
なんというか分かりやすい人だな。
「それ上野さんのことなんじゃ……」
「ち、違うわよ!私は別に一人でも寂しくないしっ!」
「はあそうですか」
何となくかわいそうになってきた。どうしたもんかな。
「と、とにかく一緒にご飯を食べましょ?ねっ?」
「は、はぁ」
こうしてなぜか学年1の美少女と食事を共にすることになったわけだが、
「………………」
なんなんだこの空気は!気まずいことこの上ない。
「あの~」
「………………」
「上野さんってあまり人と関わろうとしないという風に聞いてたんだけど、これはどういった風の吹き回しで?」
「……だと思って」
「はい?」
「その、仲間、だと思って」
「仲間って言うと、一人寂しくご飯を食べてる仲間、かな?」
「ええ」
「俺は普段教室でご飯食べてるけど他の人と一緒に食べたりすることもあるよ?」
嘘は言ってない。俊之とか俊之とか、あと俊之とかな。
「そうなの?じゃあどうしてこんなところに……まさか私をつけてきたのっ!?」
「いや違う」
少しはその気があったけどさ。
「実は食事するのにちょうどいい静かな場所を探しててさ。そんでもってここを見つけたときにちょうど上野さんが鼻歌を歌いながら階段を上がってきたってわけ」
「ほんとかしら?」
「逆にこっちから聞くけど、いつもここで食事を?」
「ええそうよ。なにか文句でも」
「文句はないけど、寂しいなら他の人と食べればいいのに」
「わっ、私は別に寂しくなんか……」
「じゃあどうして俺と一緒に?」
「いやそれはだから、その……」
「その?」
「人と話すのが苦手だからよ!」
ですよね。話しててちょっと思ったわ。だけどここで疑問がひとつ。
「俺と話すのは大丈夫なの?」
「あら?確かにおかしいわね。いつもは人と話すと緊張しすぎて無表情になってなにも言えなくなるんだけど、あなたはなにかしら?そうね、多分あなたのその超普通オーラが緊張感をなくしてるのかしら」
普通で悪かったな普通で
「それと最初にぱっとみ、仲間だと思ってたからかしら?そんなに抵抗がないわ」
先から失礼なことこの上ないが親近感を覚えられているのは少し嬉しい。
「コミュ障っぽいところとか?仲間かなと」
前言撤回。ちっとも嬉しくないぞこんなの。
「ほんとに失礼なやつだな……そんなんだから友達いないんじゃないか?」
「そ、そんなこと、友達ならいるわよ!」
「クラスに友達はできた?」
「くっ、ぐぬぬ」
「ははは。今まで高嶺の花だと思ってた人が実はただのコミュ症だったなんて驚いたよ。」
「高嶺の花ってなによ……皆には言わないでね!イメージってものがあるんだから」
「言っても誰も信じないと思うけどね。おもしろいからまた明日もここに来るよ。それじゃ教室で」
「えっ!ええ……」
本当におもしろいものを発見してしまった。まあ憧れの気持ちはなぜかすっ飛んでいったけどね。これからの昼休みは楽しい時間になりそうだ。
「おっ樹~どこ行ってたんだ?」
「ああちょっとな」
「?まあいいけどよ」
時間をおいて上野さんが戻ってきた。こちらの方を一瞬見た気がしたがすぐに目を逸らされてしまった。
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