ビッチの恋愛相談役
ほまりん
プロローグ
第1話 始まりはいつも突然に
窓の開いた教室に風が吹き抜けた。
俺の名前は清水和夫。高校二年生、帰宅部、彼女いない歴=年齢。ただいま授業中。
五月中旬、気温がほどよいこの時期は昼食後の生徒達の眠気を促進させる。俺も例に漏れず、既に限界に達しかけていた。
あと少しで夢の世界へダイブインするという所で終業のチャイムが学校中に響く。
危なかった。
今日の授業はこれで全て終了だ。
チャイムの音を目覚ましに幾人かの生徒が体を起こした。未だ寝ぼけている彼らの席に、親しそうな友人達が近寄る。
「よだれ、垂れてるわよ」
「え、うそ。……!」
友達の言葉に、女生徒が口元を拭う。そして恥ずかしそうに顔を赤らめた。
良い表情だ。女の子が恥じらう姿はいつ見てもぐっと来るものがある。男なら分かるだろう。
さて、そんな感じでクラスメイト達は仲の良いグループに分かれてそれぞれ楽しんでいる。そんな中、俺はというといつも一人だ。
誰も俺の周りには集まってこないし、俺から行くこともない。
別に悲しくなんてない。コミュ障という訳でもなく、俺が自分の意思で友達を作らないからこうなっただけだ。
探せば、友達の一人や二人、作ることは出来る……筈だ。
だが今日はいつもとは違い、珍しく俺の席へと寄って来る人物がいた
。
「清水くん! 京子先生が国語の配布物があるから清水くんに職員室まで取りに来て欲しいって」
「おう、了解」
うちのクラスの名物、美人委員長に声をかけられる。どうやら先生からの連絡らしかった。
美人委員長は用件を話し終えるとすぐ、別のクラスメイトの所へ行った。
「よっと」
職員室に行くためにガタッと席を立つ。
クラスに設けられた国語係――国語の授業に関することを担当する係、他にも科目別に用意されている――についている俺は、今回のように国語の配布物を取りに行くことが多い。
もう先生が持って来てくれたら良いじゃねえかと思いつつも、しぶしぶ職員室へと足を運んだ。
「いつも悪いな、清水」
「そう思うなら今度からは先生がクラスまで持って来てください」
「ああ?」
「何でもないです」
つい、思っていたことを口に出してしまった。先生の顔が凶暴に歪む
丹波京子、先生の名前だ。この先生、顔は良いのだが、がさつだし怖いしとにかく残念だ。
結婚できないといつも嘆いているが自業自得だと思う。
京子先生の怒りを背に受け、そそくさと職員室を後にした。
クラスに戻ると、いつものように人気者集団が集まってワイワイガヤガヤしていた。スクールカースト上位勢だ。
最近では根暗なオタク達にウェイとか呼ばれてたりするらしい。
その集団の中心にいるのは学校一のイケメン、
天は二物を与えずとか言うが、こいつは三つも四つも与えられている。ついでに立派な一物も……げふんげふん。
騒がしい彼らの横を通り過ぎ、最前列の机に順番に配布物を並べていく。後は勝手に生徒が後ろへ流していくだろう。
「天橋くんは、もうテスト勉強始めてる?」
「うーん、少しだけ、かな」
「そうなんだ……。良かったら今度、一緒に勉強会しない?」
「いいよ、いつにする?」
勉強会の提案をしたのが、舞鶴彩。
これまたかなりの美顔をしており、天橋と共にクラスを華やかにしている。
一部では立也と舞鶴は付き合っているという噂も流れているがそんなことはない。
舞鶴が天橋を好きなのは遠目に見ても分かるが。
ついでに彼女はビッチなので、他の男にも色目を使う。これもどうでもいいな。
配布物を並べ終え、窓際にある自分の席に着く。クラスの喧騒を耳にぼーっと窓の外を眺めていると、HRが始まった。
「これでHRを終わります」
HRが終わる。クラスの全員が、解放されたように席から立ち上がり始める。
「バイバーイ」
「部活頑張れよー」
「やっと家に帰れるううう」
俺も席を立った。学生鞄を肩にかけ、スタスタと教室の外を目指す。
「立也は今日も忙しいの?」
「ああ、悪い」
「そっかー、じゃねっ」
「おう、ばいばい」
教室を出る間際、そんな会話が聞こえた。
ちらりと横目で様子を伺うと、残念そうにしてるチャラ男と帰り支度を始める天橋、そして天橋を何やら危機感に満ちた表情で見つめる舞鶴の姿があった。
何故舞鶴が顔に焦りを浮かべているのかはよく分からないが、特に自分には関係ないのでスルーして教室を出た。
この時、少しでも気に留めていたら何か変わっていたのかもしれない。
「ふわぁ……」
まだ眠い。
放課後帰り道、帰宅部に所属する俺は、今日も部活動を全うすべく下校道を歩いていた。
「眠そうだな」
「ああ。最早何故お前が眠くないのか不思議だ」
隣を歩く、超絶イケメンにぼやく。今日はこいつの所属するサッカー部が休みなので、共に下校している。
「うーん、どうしてだろうね」
苦笑いを浮かべて首を傾げる。仕草の一つ一つがカッコよく見えるからイケメンはすごい。
俺がやると女子が「キモっ」で終わりだ。
「カズはもうテスト勉強始めてるのか?」
「まだだ。お前は少し始めてるんだろ」
「どうして知ってるんだ?」
「さっき舞鶴と話してたの聞いた」
「盗み聞きとはタチが悪い」
今の会話で分かっただろう。そう俺の隣を歩くこいつは
「お前達の声がデカすぎんだよ」
「ははっ」
学校一のイケメン、天橋立也だ。
クラスで浮いており、友達も皆無の超絶ぼっちである俺と。
学校一のイケメンで、クラスの中心人物になっている立也とでは。
普通なら友達では無いだろうし、それどころかクラスメイトという共通点以外接点も無さそうなもんだ。
事実、学校にいる間はお互いあまり関わらないようにしている。俺と立也が絡んでいると色々と周りがうるさそうだからだ。
特に立也に面倒が起こりそうだ。「何で清水みたいなキモ男とつるんでるのー?」、「そんな根暗野郎より俺たちと遊ぼうYO」みたいな感じで。……自分を卑下しすぎだな。
それはともかく、ずっと同じ奴と居るのも疲れるので学校では他人で居ようというのが本音だ。
こいつとは幼稚園の頃から一緒だ。流石に飽きた。
そんな訳で俺と立也という、一見対岸に位置してそうな二人の関係は
「じゃ、また明日」
「明日もお前のイケメン面見ねえといけねえの?」
「カズも、顔は悪く無いと思うけど」
「てめえは俺を怒らせた」
親友と言おうとしたが前言撤回。こいつは正真正銘俺の敵だ。
イケメンに顔が良いと言われるとか煽られてるようにしか聞こえねぇ。
「まあいい、またな」
「ああ、ばいばい」
さ、帰ってアニメでも見るか。
翌日、登校直後の校庭にて。
「清水、ちょっと来て」
「え、めんど「来なさい」はい分かりました」
命令して、俺の腕を掴み引っ張って行くのは舞鶴。ぐいぐいと、人目のつかない体育館の裏まで連れてこられる。
「急に何の用だ?」
「清水、あんた」
舞鶴の表情は照れている様子もなく、どうやら告白という訳では無いらしい。一体何だと言うのだろうか。
「天橋くんと、仲良いの?」
「は?」
どうしてこうなった。
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