162.Sな彼女とNな彼

天気は何とか晴れ。




雨は降りそうにないけれど


青い空を雲が覆い始めていた。




サラさんはベアトップの黒いワンピース。


背中が大きく開いたミニスカートで


スタイルの良さが際立っていた。




私も同じ黒だったが


アラサー女子は肩を出せないので


ボレロを羽織る。




園子は回復したようで無事に式が始まった。




初めてのガーデンウェディングは


芝生の緑と色鮮やかな花、白いドレスが映えて


すごく美しかった。




何より園子の幸せそうな笑顔。




小池くんは複雑な表情を浮かべていた。




そんな風に感じたのは


私が事情を知っているからかもしれない。




人前式が済んで立食パーティーが始まる。




サラさんは工場の人たちと一緒に


美味しそうに料理を食べて


園子が違う人と話している隙に


小池くんと乾杯していた。




一体どういう心境なんだろうか。




お色直しに園子が席を外すと


「先輩おめでとうございます~」と


白々しいお祝いの言葉を言いながら


ツーショットで写真を撮っている。




私がそういう目で見てるから


変に図々しいと感じるんだろうか。




司会を手伝ってくれている朔くんに


こっそりと聞いてみる。



「ねえ、あの二人仲良さげだよね?」



「ああ、同じチームらしいっすね」



そういう意味ではないんだけど。



勘繰りすぎなのかな。





赤いマーメイドドレスに着替えた園子は


それから体調が悪くなったようで


殆ど会場には出て来なかった。





代わりに小池くんの隣には


サラさんがずっと寄り添っていて


これでは誰のパーティーかわからない。




最後の締めの挨拶を済ませると


小池くんはこれから工場の人たちと


飲みに行くからと


園子をタクシーで帰らせた。




私は紀樹が迎えに来るけれど


誰かに見られるとまずい。


隣のカフェで時間を潰すつもりでいたのに


お財布がないことに気付いた。




しまった。


コートのポケットに入れたままだった。




紀樹に電話を掛けても出ない。




まだ迎えの時間には早いし


ビンゴで当ててしまった米が重い。




駐車場で待っていようと地下へ移動すると


熱いキスを交わしているカップルと


出くわしてしまった。




気付かれないように回れ右をして


階段をそっと上る。




うん?




カップルの姿を思い出す。




女はサラさんだった。



男は私服に着替えた……小池くんだ。




えっ、どういうこと?!




見間違いではないよね。




確かめに行く?




確かめて……どうする?





立ち尽くしていると


背後から声を掛けられた。



「間宮さん……ですよね」



「サラさん……!」



「園子さんには言わない方がいいと思いますよ」



その言葉の意味はわかった。



「二人は別れたんだよね?」



「私たちは愛し合ってます」



「でも、もう……」



「卑怯なやり方で結婚に持ち込んだのは園子さんの方です」



妊娠という事実は園子一人の責任ではない。



「結婚を選んだのは小池くんだよ?」



「そうしなきゃ死ぬって脅したじゃないですか!」



そんな話、私は聞いていない。



小池くんが考えさせて欲しいと言った後に


それぞれと修羅場があったのかもしれない。



「私は口を出す立場じゃないけど、傷付くのはサラさんだよ」



「もう傷付いてます」



「この事は誰にも言わない。でも、結婚している事実はサラさんが思うより重い……よ」



独身の私が言うことではないけど


年の功と思って欲しい。



「毎日そばにいるのは私です。大切な人ほどすぐそばにいるって言うでしょ?」



そういう意味では


これから毎日一緒に暮らす園子が


小池くんのすぐそばにいる事になる。



でも、きっと今のサラさんには


何を言っても耳には入らない。



「私はこれ以上サラさんにも園子にも傷付いて欲しくない。それだけ」



「ご忠告、ありがとうございます」




サラさんは黒いミニスカートを翻して


階段を下りて行った。





結婚とは、愛とは



正しさとは、間違いとは



それが何か誰か教えて欲しい。








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