128.Sな彼女とNな彼

ガサッと音がして


通り掛かった猫のせいで


充電は強制終了された。




「か、仮眠はどこで取りますか?」




「ちょっと外部のパソコン使いたいからネカフェやな」




「駅前のネットカフェですよね。私も一緒に行ってもいいですか?」




もう少しだけ一緒にいたかった。




「ええけど、今みたいなことされたら襲ってまうで?」




「真顔で何てこと言うんですか。読みたい漫画があるだけなので接触しません」




「了解(笑)」





全国チェーンのネットカフェは


個室に鍵もついていて


靴を脱いでフラットのマットの上に


大人二人で寝転がれるくらいの


十分なスペースがある。





パソコンの前に座ってる彼の後ろで


雑誌をパラパラとめくる。




「西川さん、髪伸びましたね」



「んー、近くにまともに切ってくれそうな店ないねん」



「後ろ、結べそうですね」



「そこまで長くないやろ」



ポーチにあった髪ゴムで軽く結ぶと


小鳥のしっぽみたいになった。



「あはは。可愛いー」



「何すんねん(笑)」





作業を終えた彼が振り返って


「一緒に寝る?」と聞いてきたけれど


丁重にお断りした。




「私DVD借りてきて観るので寝ててください」




個室の照明を暗くして


置いてあった毛布を彼に掛けた。




「読みたい漫画は読まへんの?」




「意地悪なこと言いますよね」




一緒にいたいと言う代わりに


咄嗟についた嘘ってわかってるくせに。




「まあ、もっと一緒にいたいって言われてたらホテルに連れてってたけど」




「西川さんは欲望をオブラートに包んでください」




「じゃあ、寝るまで手だけ接触してくれへん?」




「わかりました」




差し出された左手を


両手でそっと包み込んだ。




思いのほか、早く彼の手から力が抜けた。




疲れてたんですよね。




息をしているのか不安になるくらいの


綺麗な寝顔をしている。




王子様というよりお姫様みたいだ。




そっと耳を近付けて呼吸を確認する。




微かな息遣い。




私はお姫様でもなければ



王子様でもない。



それでも連れ出してしまいたい。




永遠なんてないと知ってるけれど



ずっと彼の心の中にいたい。




他の誰も入れない心の奥で愛されたい。




もしも魔法が使えるのなら



彼の中で私が永遠でありたい。




心も、手も、震える。





祈るようにキスをした。





目を覚まさない彼の隣で



知らぬ間に私も眠りに堕ちていた。








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