下町グルメに教えられたこと
麗永遠
第1話 鉄板
もんじゃ焼き
小学校から帰り、友達と遊び、お腹がすくとといつもの行きつけの暖簾をくぐる。 横長のカウンターに5人並んでラムネともんじゃ、トッピングはキャベツとラメック、計200円。「ラムネ焼くんじゃないよ」いつものようにおばちゃんに注意されて、ラムネの瓶と小さな銀色のボウルに入ったもんじゃ(キャベツ入り)とラメック1袋を受け取る。
まずはソースで味付け、最後のおこげを煎餅のように仕上げるためにも濃い目の味付けこげ茶色に着色。お好み焼き用の青のり、カツオ節、紅しょうがも適量ぶちこんでシャバシャバのもんじゃベースが完成。ラメックは後入れ派だから、さっそく焼き始める。かき混ぜるときに使ったスプーンで汁を少しすくって鉄板へ、汁は小さなボールのごとく鉄板の上で弾むとジュッワーといい音をさせる。ソースのいい香りとともに湯気がのぼる。少ない具材をスプーンですくって土手をつくる。小さな土手ができたら真ん中に汁をそそぎ、固まるまでスプーンでぐるぐると混ぜる。となりの土手が決壊して汁がながれてくるときもしばしばあるが、我が陣地のもんじゃはまもなく完成である。ラメックの袋をあけて最後にトッピングするとおいしそうな小さな円い食べ物の出来上がりである。さっそく銀色のへらで食す。
食べるときのポイントは鉄板と接したところの下からこそいではいけないのである。おこげを残して、その上部をすくいヘラに乗せてひっくり返して鉄板にジュッと押さえつけてヘラに焼き付けて口に運ぶ。ヘラを熱しすぎないように注意しながら熱々を食す。紅しょうがとキャベツが甘辛いソースによって絡み合い口のなかでシャキシャキと音を立てる。なんともいえない味わいである。熱々のもんじゃのおかげで冷たいラムネもすすむ。ビー玉がちりりんといい音を立てる。最後に今日のせんべいの出来合い品評会である。大きさ、薄さ、色、いかにおいしそうに作れたかが競うポイントなのだが、たいがい出来の悪いやつの銀色のヘラが敵陣から攻めてきて崩されてしまう、これもいい思い出である。
さて食べ終わると手持無沙汰である。決まって誰かが残ってぬるくなったラムネを鉄板で焼き始める、べっ甲飴のようなものを作ろうとイメイジするのだが、すぐに蒸発してしまいなにも残らない…。「コラっやったね、誰だいラムネ焼いたのは!」ラムネの焼かれた甘い香りがおばちゃんの鼻まで届いたようだ。5人揃ってげんこつを軽くいただく、「鉄板がだめになっちゃうんだよ、ほっとくとこの甘いやつをはがすときに痛んじゃうんだから」というと奥から氷を3つほど持ってきて鉄板の上に転がして掃除を始めた、氷がスケートリンクの上をすべるように隅から隅まで転がると最後は紙ナプキンで綺麗に拭きとられた。「次やったら出入禁止だよ」といつものように出禁と言われて逃げるように店を出る。
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