ドラゴンパイロット! ―少女の歌と竜の瞳―

伊武大我

プロローグ

 ピピピピピピピピピピ…

『Minimum speed!』

『Minimum speed!』


激しい警告音と共にいかにも機械的な棒読みの女性の声がする。


『Minimum speed!』

『Minimum speed!』


頭がぼんやりする。

どうやら気を失っていたようだ。

何があったか分からない。

とりあえず手を握ってみた。

手足は動くようだ。


『Minimum speed!』

『Minimum speed!』


段々と頭が晴れてきた。

周囲を見渡す。

空が見える。

計器がある。

操縦桿もある。

まだコックピットにはいるようだ。

そして、耳に入ってくるこの無機質な音声の意味も理解した。


「『Minimum speed!』!?「失速」!?やばいじゃん!?墜落するじゃん?!」


キャノピー越しに周りを見てみるともう地面が通常の飛行ではあり得ないところまで迫っていた。


『Pull Up!』

『Pull Up!』


機械の音声が「衝突の危険性あり」へと変わった。


「やっべっっ!!うぉぉぉぉおお!!上がれえぇえ!!」


状況はいまいち掴めていないがとにかく墜落して粉々になるのだけは避けたい。その一心で目の前の操縦桿を思いっきり握りしめ、引いた。

機首は何とか上がった。が、とても安全に着陸できるような角度ではなかった。


≪ファルコン!こちらアーチャー!衝突を回避できない可能性が高いため脱出します!≫


1番機へ報告したが応答がない。


≪あれ?先輩?おーい、っと、そんな場合じゃない!早く脱出しないと!≫


急いで膝の辺りにある黄色いハンドルを引いた。

訓練以外で引くのは初めてだったので少し緊張した。

パパパッっと音を立てキャノピが後ろへ飛んだ。

それと同時にまるでロケットの様に座っている座席が射出された。


(うおおおおお!すっげぇG!!)


喋るのもままならないので心の中でそう思った。

シートが外れ、小さなパラシュートが開き降下速度が些か緩やかになった。

後は自動でパラシュートが開くのを待つだけだ。

ふと、遠くの深い森の中に煙が見えた。

多分今乗っていた機体が墜落したのだろう。

そしてその煙を見ていて気付いた。


「なんか、見たことない風景だな…。気を失ってる間に相当飛んじゃったかな…」


などと思っているうちにそろそろ地面が近づいてきた。

そろそろパラシュートも開く頃だと思うが…

開かない。


「えぇ……さっきからツイてねぇな…」


仕方なく手動のハンドルを引いた。

自動で開かなかったのだから心配だったが問題なく開いてくれた。

開いてくれたのはいいが開くのが遅かったようだ。


「クソぉぉおお!!ほんとさっきからツイてねぇなぁぁ!」


そのまま木の中に吸い込まれていった。




 また気絶していたようだ。

痛みで目が覚めた。地面の上だ。木がまばらな、あまり深くない林の中のようだ。痛みを感じる方を見ると木にぶつかった時に枝で切ったのか左腕の上腕が大きく割れていた。

出血も酷い。

他にも葉で切ったような細かい傷や落ちた時にぶつけたのか体中が打撲していた。

頭はヘルメットをつけていたので無事だった。


(早く手当しないとマズいかもな…)


そう思って飛んだ時の座席に救急セットでもなかったかと探り始めようとすると…

かすかに歌が聞こえる気がした。

しかし辺りを見渡しても姿は見えなかった。

その代わりに、木々に囲まれた小さな池があるのを見つけた。


「とりあえず傷口を洗うか…」


地面に落ちたせいで傷口に落ち葉がくっついていた。

止血が優先だったんだろうが段々意識が朦朧としてきていてそんな判断できなかった。

とりあえず気持ちが悪いので水で洗う事を優先した。


 池に近づくに連れ、さっきかすかに聞こえた歌が大きくなってきた。


「池に人がいるのかな…手当してもらうついでに連絡もとってもらおう…」


そう思いつつ池へと近付いた。

向こう岸に人がいるのが見えた。

思ったよりも小さい。

なんだ子供かと少しがっかりして目線を横にずらすとなんとその子供の目の前に




ドラゴンがいた…。

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