母がうたってる

@natukonobouken

第1話 さくらんぼの実

「あーああん!あ゛ーーーん、痛いよう!けがしたああー」

 そんな第一声でお姉ちゃんは帰ってきた。

泣きながら(半分喚きながら)階段をゆっくり上がってくる。

膝小僧からは滴るくらい血が流れてる。

「ねえ!お母さんは?!」

とあたりを見回してるけど、お母さんはまだ帰ってきてないよぅ・・・

そう私がひっそりと伝えたら、またあの真に迫った泣き真似で私を見つめ、おばあちゃんの処へなよなよ向かった。

「おばあちゃん!けがしたああ!わーーーん!」

ひっくっと泣き真似をするお姉ちゃんの「泣き真似作戦」は妹の私に見分けられて当然。たとえどんなに演技が上手でもね。

おばあちゃんは早速お姉ちゃんの膝小僧の手当てをしている。

「あらーもう本当に夕実ちゃんはよく転ぶんだから、どこで転んだんだい?」

「校門のところの坂でね、ひっく、男子に背中を押されて転んじゃったの!」

そしてまた「わーー!!」と泣きじゃくる。

「夕実ちゃんいじめられてるの?ならママに言わないと・・・とりあえず傷は浅いみたいだから大丈夫よ。一応バンソウコウはっておきますね。」


「えっくっっ」


でも私は知ってる。

その泣き声が真似っこだってことも、その膝小僧の赤い血が嘘だってことも、

なにより、男子にいじめなんかされてないってことも!

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